[連載]マンガ・日本メイ作劇場第42回

迷作ドラマ『MARS』の原作はさらにヤバい!? 少女マンガの域をオーバーした青春物語の魅力

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『MARS ―マース―(6)』(講談社)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女漫画史にさんぜんと輝く「迷」作を、ひもといていきます。

 Kis‐My‐Ft2・藤ヶ谷太輔と窪田正孝のダブル主演で、謎のBLシーンを振りまいている深夜ドラマ『MARS~ただ、君を愛してる~』(日本テレビ系)。もともとは累計500万部を売り上げた人気少女マンガである。

 ドラマ版は、マンガがほど良くアレンジされている。藤ヶ谷演じる樫野くんは、マンガでは一卵性双生児の設定だが、ドラマでは二卵性で顔が違うことになっているし、男女で行われるはずだった人工呼吸シーンも、なぜか藤ヶ谷と牧生役の窪田のシーンになってるし……。制作側のご都合と今時のノリを合わせてアレンジさせて、なおかつ安っぽく仕上がっているところが、最っ高におもしろい。

 ただ、マンガが連載されていた頃、世の中は“キムタクブーム”で、ヒーローである樫野くんのビジュアルは、まるっきりキムタクなのである。どうせジャニーズでドラマ化するなら、そして10代の俳優をキャスティングしないなら、いっそ樫野くんはキムタクで見たかった。それに、マンガのキャラはみんなギリシャ彫刻のように彫りが深いのに、ドラマはまた寄り集めたように平たい顔ばっかり。これはギャップ狙いなの? そんな“斜め上好き”な人たちを喜ばせているドラマだが、実は原作のマンガも負けていない。

 原作は、クラスメイトになった内気な少女・キラとバイクレーサー・樫野くんが、光の速さで親密になっていくところから始まる。人気者の樫野くんをキラに奪われたことで、ほかの女子生徒が大騒ぎし、いじめがあったりセクハラがあったり、また樫野くんの幼なじみが登場したりと、 “ちょっと過激な学園モノ”といった展開が続く。そこへ新入生の男子・牧生が現れ、「樫野くんが好き」と言いだした。腐女子が一般的になった今なら、樫野くんと牧生のコンビに女子生徒が大喜びしてもおかしくないだろうに、時代が悪かった。この作品は90年代に描かれた作品なのだ。女子生徒は牧生に非難囂々浴びせるのだ。『MARS』が20年も経ってからドラマ化されたのは、腐女子という生き物が世間に許容されたからなのだな、よかったね牧生!

 さてこの『MARS』、ざっくり要約すると、「主要登場人物、みーんなめちゃくちゃトラウマ抱えてました」というお話である。ストーリーが進むにつれ、それぞれのトラウマと本性が明らかになり、“ちょっと過激な学園モノ”ではなくなっていく。キラはコミュ障、樫野くんはキレたら何をしでかすかわからない自制心のない乱暴者で、牧生は真性のサイコパスなのだ。

 具体的に言うと、樫野くんは樫野くんで、双子の弟がいたのだけども、その自殺現場に立ち会ってしまったというとんでもない心の傷があり、急に発作を起こしたりする。キラはキラで、途中まで「樫野くんとの関係を一歩進ませるのを恥じらってる」くらいの初々しさだったのに、突然泣き叫んで樫野くんを拒否。実は過去に義父に襲われていたという過去が暴露される。そして、牧生は牧生で、なんと幼なじみを殺害するという大事件を起こしているのだ。

 作者の惣領冬実さんは、美大卒のたいへん画力のある作家さんである。どんな角度からでも絶対にぶれないデッサン力は、読んでいて安心感でいっぱいだ。『MARS』のあとは、少女マンガを脱出して『ES -Eternal Sabbath- 』(講談社)という遺伝子操作をモチーフにしたSFサスペンスを描き、現在はイタリアを舞台にした歴史マンガ『チェーザレ 破壊の創造者』(同)という骨太作品を執筆中だ。

 もともとトラウマ系の物語を描く人だったけれど、『MARS』の登場人物たちの抱えるトラウマは、もう恋愛系少女マンガの域を完全にはみ出しきっている。泣いたりわめいたり暴れたりする樫野くんやキラが、相手を好きだ愛してる一生一緒だと何度も何度も繰り返すのも、運命の出会いやら一途を通り越してなんだか怖い。樫野くんは、怒るととんでもない暴力を振るうんだけど、「いやいや、100年の恋だってすぐに醒めるものでしょ」という醒めた目で彼を見ると「この暴力がいつキラに向かってもおかしくないよな」と思ってしまうのだ。

 しかし、そんなトラウマだらけの登場人物を差し置いて、本作の魅力となっているのは「ね? 樫野くんかっこいいでしょ?」と子どものグルグルパンチほどに何度も畳みかけられるところだ。高校生だけどバイクレーサーで、帰国子女で、英語ペラペラ。いいトコの御曹司だけど、家出して自立中、キラのためなら暴力だって厭わない野獣で、なによりもうこの表紙の羅列を見ただけでも「はいはい、かっこいいですよ!」と叫びたくなる。

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樫野くんクネクネ大行進!(『MARS~ただ、君を愛してる~』(日本テレビ系)公式サイトより)

 樫野くんがどれくらいかっこいいかという例を1つ。とあるプールバーで牧生とビリヤード勝負をすることになる。牧生は、自分が勝ったら1時間ほど付き合ってくれ、と要求。樫野くんは「要は早いとこ9番を沈めちまえばいいのさ」、牧生は「ときには緻密な計算とじっとチャンスを待つことも必要」と、まったく異なる戦略をとるが、セリフだけでも「お遊びでビリヤードやったことがある」程度のレベルじゃなさそうだ。結果、牧生が勝つと、樫野くんは「OK、ファックしろというならがんばりましょう」と男前なセリフを吐くのだ。あらためて言うけど、彼らは高校生である。

 このように、かっこよすぎる若者たちが、重たーいものを背負いながらすったもんだする青春物語『MARS』。今さらドラマ化するのなら、ついでに『10年後のMARS』といった続編連載をやったらどうだろう? 樫野くんとキラは結婚10年でもまだラブラブで、子どもにも恵まれ……。じゃないだろうなあ。時間がたてば盲目的だったキラと樫野くんの愛情もすっかり冷めてると思う。イケメンだったのも今は昔、樫野くんは浮気三昧、キラは樫野くんにボコボコにやられて目にアザを負ってて、それこそ昼ドラみたいな展開……あれ、夢がないなあ。いやー、でもさ、やたらスウィートでラブラブなシーンがてんこ盛りなのに、登場人物のトラウマは心理ドラマ並みなんだもの。リアルに即して考えれば、そんな不安な想像しかできないよ。

■メイ作判定
名作:迷作=3:7

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和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女漫画マイスター、文筆家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。

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