映画レビュー[親子でもなく姉妹でもなく]

自分の“正しさ”へ導く女×拒む若い女――女の上下関係から見る『モナリザ・スマイル』

2016/02/29 21:00

◎「素晴らしい結婚こそ幸せ」母親の教えに生きるベティ
 さて、こうした中でクローズアップして描かれる学生は4人。そこから、最終的に真逆の生き方を選ぶ2人を見てみよう。

 1人目はベティ(キルスティン・ダンスト)。同窓会会長の娘で結婚式を間近に控えた彼女は、キャサリンの先進的な講義に反発し、新任女性教師に興味津々の同級生の中にあっても批判的な見方を崩さない。ベティに強い影響力を及ぼしているのは、厳格で支配的な母親だ。母の教えの通り、完璧な新婚生活を遂行しようとするベティと、その圧力にいささか引き気味な夫との間には、新婚早々隙間風が吹き始める。

 誰もが羨むはずのセレブ主婦の座が、理想通りではないことに苛立ったベティは、久しぶりに大学に現れてキャサリンの講義に上から目線でイチャモンをつけ、「ワトソン教諭は結婚制度を否定している」と学校新聞に書き立てる。キャサリンが学生たちにプライベートを根掘り葉掘り聞かれて話した内容を歪曲し、彼女の評価を落とそうとするのだ。

 若くして結婚し家庭に収まるのは素晴らしいことのはず。なのに、この教師は私を不安にさせる。私が母に教えられてきた価値観を覆そうとする。同じ女性なのにどうして? だがこの時、ベティは心の奥底でもう感づいている。結婚にしか女性の可能性を見ず、それ以外の道を全否定していた自分が間違っていたことを。

 やがて夫婦間の亀裂が決定的となった彼女は離婚に踏みきり、同級生と共同生活を始める宣言をして、母親と訣別する。その段になって初めてベティは、キャサリンに親密な笑顔を見せる。一番自分に批判的だった学生が、いつの間にか自分の想像を超えた新しい道を主体的に選択している……。教師にとって、こんなに思いがけなくも、うれしいことはないだろう。私のしてきたこともまったく無駄ではなかったんだなと思える瞬間だ。

 しかし、実際にベティを動かしたのは結婚生活の破綻であり、ヒステリーを起こした彼女を受け止めてくれた同級生の友情だった。もし夫との関係が順調に続いていれば、彼女は「結婚がすべてじゃない」というキャサリンの言葉を思い出すこともなかっただろう。

『正しさとは何か (Thinking about Trurh and Justice.)』
正しさを叫んでも変わらないときは、周りの人を見てみて
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