【messy】

風俗店の体験入店を辞退したら「法的処置も考える」と脅された、とある風俗嬢の話

2016/02/06 20:00

私が風俗業界に初めて足を踏み入れたのは約4年前でした。それからいくつかのお店を転々として、今は「このお店を風俗歴最後のお店にしよう」と思い、安定して働いているところです。

初めて勤めたのはオナクラ店、その後はずっと性的サービスありのマッサージ店で勤めてきました。比較的経営のしっかりした、女性を大切にしてくれるお店を選んできましたし、業種も女性が受け身になることのないソフトサービスに従事してきたので、私自身そこまで大きなトラブルや怖い目に遭ったことはありません。しかし、昼職をしていれば経験しなかったであろうこと、感じなかったことは沢山あるので、これから少しずつ、一風俗嬢の目線で業界の裏話を書いていけたらと思っています。

◎体験入店を辞退したら賠償金を迫られた

もう一昨年の話ですが、体験入店を辞退したお店に賠償金を迫られたことがありました。立派なトラブルですね(笑)。

当時私は、勤めていたお店の近くに親しい知人が引っ越してきたことを知り、その知人に風俗勤めがバレることを恐れて、違うエリアのお店を探していました。いくつか面接を受けましたが、なかなか自分にぴったり合うお店が見つからず、早くお店を決めたいという焦りから、半ば勢いでとあるお店に体験入店することを決めました。

給料などの条件が良く、お店も流行っているようだったので、面接の翌々日に体験入店することですぐに話がまとまりました。

半ば勢いで、と書いたのは、面接中に「このお店で本当に働いていけるのかな」と不安を抱いたにもかかわらず、面接担当者の「あなたの勤務条件なら一日◯万円は稼げると思います」という言葉に心が揺らぎ、体験入店を決めてしまったからでした。

私が抱いた不安の要因は、それまで私がNGとしてきたお客さんが女性の身体に触れる行為がOKとされていたこと、「遅刻◯分につき◯千円、当日欠勤◯万円、無断欠勤◯万円」というふうに細かい罰金規定があったこと、HPに載せるプロフィール写真について「顔全体にモザイクを掛けて欲しい」と要望したら、「口元か目元はどちらか一方は出したほうがいい」と担当者にしつこく迫られたことなどでした。

一見優しそうだけど何となく威圧感を感じる担当者の口調に気後れしながらも、結局は提示された収入に飛びついてしまったのです。

そうして帰路につき、担当者から来た「明後日、ぜひ宜しくお願いいたします」というメールにも、「はい、こちらこそ宜しくお願いいたします」とすぐに返事をしましたが、次第に面接時に感じた不安が胸の中に大きく広がっていき、そのまま一晩悶々と考え続けてしまいました。

結局翌日になって、「帰宅してからもう一度よく考えたんですが、プレイ内容をこなせる自信がないので明日の体験入店は辞退させてください」と担当者に断りの連絡を入れました。

担当者には、「残念ですが、仕方ないですね。上の者にも報告いたしますので、また連絡いたします」と言われ、私としてはもう一件落着だと思い、その後掛かって来た電話には出ませんでした。

その後「良ければもう一度お話したいので、お電話出来ませんか?」というメールも来ましたが、もう決心が変わることはないし、引き留められても面倒だと思い、そのまま返信せずにいました。

そしてそれから数日経った頃に、この担当者からまたメールが来ていたので開いてみたら、「予約のお客様のキャンセル対応などでこちらに金銭的な被害が出ております。メールでのやり取りで採用契約の意思表示とみなされますので、このままご連絡いただけないままですと法的処置も考えざるを得ません。一度連絡いただけますでしょうか?」という内容だったのです。

◎お店からの要求に従うべきなのか

法的処置って訴えられるってこと? 一応前日に連絡は入れたし、その時は「仕方ないですね」と言っていたのにどうして今更? 前日のキャンセル対応にお金なんてかかるの? 面接の時も、体験入店を辞退したらペナルティがあるなんて言ってなかったのに……。

こうした思いが頭の中を駆け巡りながらも、お客さんへのキャンセル対応で迷惑を掛けてしまったのは事実だろうから、もし本当に被害額を請求されたら一体いくらになるんだろう……と、とても怖くなりました。

そして慌てて風俗店のトラブルに詳しい知人に連絡を取り、相談しました。

以後、その知人とのやり取りです。

知人「基本無視してしまって大丈夫です。印鑑を押した契約書があるわけでもないし、取りやめの意思表示をしたのだから、相手にしなくても問題ありません。法的というキーワードでビビらせて、連絡を入れさせ、そのまま在籍確定したいだけだと思うので」

私「向こうに住所を知られているし、モザイクをかけるという約束でHPに載せる写真も撮らせてしまったんですが大丈夫ですかね……?嫌がらせでモザイク無しの写真を載せて連絡させようとしたりとか……」

知人「万が一写真を使って脅すようなことをしてきたら逆に名誉毀損で訴えることができるので、今は相手からのメールやLINEを保存しておいてください。電話が掛かってきても出なくていいけど、出るなら録音推奨です。おそらく現場レベルでバックレ対策として煽りを入れてるだけだと思うので、深追いはしてこないと思いますよ」

このアドバイスをもとに、そのままお店には連絡をせずに放置することにしました。その後はお店側から連絡が来ることもなく、HPに載せられたままだった私のモザイク入りの写真もいつの間にか消えていました。

結果何事も無く済んだわけですが、ちゃんとした覚悟もないままに体験入店を決めてしまい、辞退の意向を向こうが納得するまできちんと連絡を取り合わなかった私の無責任さのために起こったトラブルなので、自分の考えの無さを心底反省しました。

風俗業界にいると、勤務シフトは基本的に自分で自由に決められるし、働いたその日に数万円の高収入がもらえ、たとえ入店したお店が合わなくても求人サイトを見れば毎日何千件も求人情報が載っているのですぐに辞めても、職場を移れば食べることには困りません。そのため、自分自身をしっかり律していないと働くことに対してどんどんルーズになっていってしまうのです。

私も例外ではありませんでした。少しずつ自分に甘くなっていき、「嫌ならすぐ辞めればいい」と昼職の感覚からは逸脱した考えを持つようになり、この業界の甘い蜜の部分にすっかりハマっていたのです。

この件があってから、初心を思い出してもっと慎重になろう、ルーズになっていた部分は直していこうと気持ちを引き締めるようになりました。

◎ブラック風俗店

私と同じようなケースでお店と揉めたケースがないかインターネットで調べてみたところ、「体験入店を辞めたいと言ったら、店の規約で辞めるときは一カ月前に言わないと罰金になると言われた」、「お店を辞めたいと言ったら、急に言われても困る、今辞めるなら親や学校にバラすと脅された」など、辞めるときにお店側とトラブルになった相談や体験談がいくつもヒットしました。

私がそれまで働いてきたお店は「辞めたい」と言えばスパっと辞めさせてくれましたし、理不尽な要求をされたこともなかったので、この件では自分の甘さを反省すると共に、風俗業界の怖い部分を見たような気がしました。

ただ、このお店のように私が面接や体験入店のみで本入店をしなかったお店の中には、「ブラックっぽいな」と思うお店はいくつもありました。やたらと規則が多く、罰金規定も多い。女の子の前でスタッフを怒鳴り散らす。スタッフが明らかに堅気じゃない。こちらが出来ないと言っているプレイ内容を「それくらい出来ないとこの業界じゃ生きていけないよ」と無理に押し付けてくる……などなど。

風俗業界のブラックなルールでキャストを縛り、お店の都合のいいようにキャストを扱い、そのブラックな世界から抜け出せなくさせていく。違和感があるお店はどこもそんな空気が漂っていました。私が賠償金を迫られたお店も、面接時に何となくそんな空気を感じたんですが、早くお店を決めたいという焦りとお金欲しさに判断力が鈍ってしまったのかもしれません。

私のようなケースが法的にはどう判断されるのかということも自分なりに調べてみましたが、相談した知人が言っていた通り、そもそも雇用契約を結んだわけでもなく、事前に辞退を申し出ているので賠償金を支払う必要はなさそうでした。

仮に賠償金を理由に無理に働かされることがあれば、強要罪や労働基準法第5条の「強制労働の禁止」にあたり、お店側は法的に罰せられます。また、「体験入店を辞退した場合、◯万円の罰金」という雇用契約を結んでいたとしても、労働基準法16条で違約金や損害賠償金をあらかじめ決めることは禁じられていますし、そのような罰金の規則は労働基準法第13条により無効になるとされています。これは「遅刻◯分◯千円、当日欠勤◯万円」という罰金規則にも当てはまるかと思います。

また、「辞めるときは一カ月前に言わないと辞めさせられない」と言われた場合も、民法第627条で「期間の定めのない労働契約については、各当事者はいつでも解約の申し入れをすることができ、解約の申し入れから2週間を経過することによって終了する」とされています。

正直、性的サービスを提供するという風俗の仕事の性質上、「辞めたい」、もうこの仕事はできない」と女性が思った場合、それ以上働き続けることは精神的にも肉体的にもかなり難しいのではないかと思います。だからこそほとんどの風俗店の求人情報に「辞めたいときに辞められます」と書いてあるのだと思うし、良心的なお店ならその通りに無理に引き止めることはせず、すぐに辞めさせてくれるかと思います。

ただ、今は何かトラブルに見舞われてもインターネットを開けば似たような事例がすぐに調べられますし、そこから解決の糸口を見つけられることも多々あるかと思います。風俗業界でのトラブルに関しても、「警察に相談するか法テラスの無料相談を利用しましょう」と促す文言が知恵袋の回答などでも多く書き込まれているので、泣き寝入りするケースは少なくなってきているのかもしれません。

しかし一方で、「この仕事を選んだ自分が悪いのだから」、「こういうリスクも込みの高収入なのだから」と後ろめたい気持ちから自分を殺して、この業界の闇に飲み込まれたまま抜け出せずにもがいている女性たちがまだまだ沢山いるのかもしれないなぁと感じる今日この頃です。
(朝比奈ゆきえ)

最終更新:2016/02/06 20:00
アクセスランキング