本当にあった生活保護の水際作戦 大学進学を諦めたシングルマザーの実体験

 いつもスッピン、メガネ、サンダルで、女子力の欠片もない上原だけど、いつか白馬に乗ったイケメン王子様が救いの手を差し伸べてくれるはず! シングルマザー女子大生・上原由佳子です。

 ここ数年、白馬の王子様が迎えに来てくれる日を願わなかったことは無い! と、言っても過言ではありません。だって「あなたを助けたい!」「あなたを救ってあげたい!」と大きな声で、社会の中心で愛を叫んでいる人達は多いけど、上原の狭いせまーい視野に入っている人達は、いまだに救われなていないんだもの。

 ただ、上原が無計画に大学進学してみたり、突拍子もないことを言ったりするのは、“救われたい”と言うより“変わりたい”と思っているからのような気がします。だけど、切実に“救われたい”と願ったことがありました。

 それは、生活保護の申請に行ったときのことでした。今回は、上原が「生活保護の水際作戦」にあった話をしたいと思います。

◎こんな家出て行ってやる! その前に。

 大学進学も決まっていた一昨年の11月、上原は突如、大学に進学することが怖くなりました。

 祖母の家に住ませてもらっているから生活が困窮することはないものの、日々繰り返される祖母の嫌味と暴言。機嫌が良いときは優しい祖母ですが、数時間単位で機嫌が変わり、不機嫌なときには、「死ね」「消えろ」「出て行け」「気持ち悪い」と独り言のように、私に呟いてきます。そんなときに上原が娘ちゃんを叱ると、「お前は気持ち悪いんだよ! お前が娘ちゃんを叱るな!」と罵倒される。娘ちゃんは娘ちゃんで、上原が叱られても祖母に言いつければ助けてもらえると考えている節があって、上原の言うことを聞いてくれません。祖母のお世話になっているのは確かですから何も言い返せませんし、出て行くお金もありません。いつまでも祖母の機嫌を伺いながら、この家で生きていかなくちゃいけないんだと考えると、いつか不満が爆発して、突発的に娘を殺してしまうのではないか、と思うほど当時は追い詰められていました。

「もう無理だ。大学入学は辞退して働こう。でも、新しい家に移るお金がないから、生活基盤が整うまでは生活保護を受けられるようにしなきゃ」

 そう考え、市役所に相談しに行くことにしました。

◎これが噂の水際作戦?

 市役所に着くまでのバスの中で、感情的になって話をしたら伝わないから落ち着いて話そう、と何度も自分に言い聞かせていました。福祉課は普段、子ども手当や児童扶養手当の申請をしている課とは違う雰囲気が漂っています。なんか薄暗い気がするし、長い間洗濯していなそうな汚れた服を着た人がいるし、相談ブースからは相談者らしき人の怒鳴り声が聞こえてくる。異様な光景に恐怖を感じて、順番が来るまでスマホゲームをして気を紛らわせることに。お、これ今週の最高スコアじゃね?

「うえはらさーん」

 名前を呼ばれて相談ブースへ。そこには、色白でぽっちゃりした中年女性が優しそうな笑顔で迎えてくれました。ああ、よかった……。福祉課の人って冷たそうなイメージがあったけど、この人なら大丈夫かも。親身になって話を聞いてくれる中年女性に、祖母の暴言で気が狂いそうなこと、このままだと娘を虐待してしまうんじゃないかと不安を抱えていること、娘にとってもよくないんじゃないか、そりゃあもう、これでもか! ってくらい洗いざらい抱え込んでいた気持ちを話しました。

「辛かったでしょう、たくさん我慢してたんですね……。上司に報告して申請書お持ちしますね」

 女性の丁寧な対応に、私はホッとしました。大学には行けなくなっちゃうけど、祖母から罵倒されることも、上原の怒りが娘に向く心配も無くなる……。やっと終わるんだ。これで救われる。

 数秒後、奥から別の女性の激しい怒鳴り声が聞こえてきました。

「はあ!? 一軒家で間借り!? しかも若いんでしょ? 受給できるわけないでしょ!!!!! 家族に頼るように言いなさい!!!」
「いや、でも……親族からの支援は受けられないと。」
「親族を頼るように説得しなさいよ!!!(激怒)」

 これを水際作戦と呼ぶのでしょうか。私は、水際作戦を実行されているのでしょうか。生活保護の申請は、誰でも出来るものだし、親族がいるから……って、親族と上手くいかないから相談してるんだし、窓口での申請拒否は違法なんだけどな……。

 ああ、どうしよう、ダメだ、涙が出そう。せめて、聞こえないようにしてくれたら良いのに。私を帰したくて、わざと聞こえるようにしてるのかな? このまま生活保護も諦めて、祖母の家にずっといて、私が錯乱状態に陥って何かしでかしてしまったらどうしよう。娘に手を上げないためにも、娘を置いて上原ひとりで出て行くしかないのかな……。不安に押し潰されそうになっていると、中年女性が申し訳なさそうな顔で戻ってきました。

「上原さん、頼れる親族はいないかな?」
「いまお話したように親族を頼って辛くて、頭がおかしくなりそうだから来たんです」
「生活保護を受給したら大学はいけないけど、それでもいいの?」
「はい」
「でも、大学いくために勉強してきたんでしょ?」

 よくないけど、こうするしかないんです。

「……あの、さっきの会話筒抜けでしたよ」
「……えっ」
「それに、いちおう制度を調べて相談に来ているので、これが水際作戦なんだってことも知ってます」
「ごめんなさい。私の力不足で……」
「あ、いや…………私のせいで不快な思いをさせてしまって申し訳ないです。あんなに怒鳴られたらイヤですよね」

 「私の力不足で」ってどういうこと? 窓口の職員さんに力があるかないかで、生活保護が受給できるかどうかが決まるの? それっておかしくない?

「上原さん、こんなに冷静に話せるのに、どうして困窮しちゃったんでしょう……」
「感情的に話しても伝わらなかったことがあるので、冷静に話してるだけで、さっきの会話が聞こえた時点で泣きたい気持ちでいっぱいですよ……。もう帰ります……」

◎白馬の王子さまはどこ?

 上原は、シングルマザーの当事者団体で活動していたし、貧困問題のシンポジウムにも参加して勉強してきました。だから、支援団体に繋がっても制度利用ができないと“救われない”ことくらい知っています。上原も活動の中で見てきた人たちと同じように“救われない”んだ。悔しさとやり場のない怒りで涙が溢れてきました。

 バスに乗る気力がない。やっぱり私は、祖母の家にいて、進学するしかないんだ。勉強して、同じような仕打ちを受ける人が少しでも減るように、いつか、どこかに、人目に触れるカタチで今日の出来事を書き残そう……。

 と、悔し涙を原動力に変え、数カ月後に進学した直後、ラッキーなことに、この連載がスタートしました(爆笑)。ちょっぴり……、いや、かなり早すぎた気はしますが、これが上原の水際作戦体験記です。

 涙でまぶたが腫れてブサイクに磨きをかけていた“あの日の私”を救ってくれる白馬の王子様はあのとき現れませんでした。でも、「変えてくれるひと」の存在があり、今があります。幸い、祖母の暴言攻撃は一時的に落ち着いていますし。それに普段は、本当に優しいんですよ。

 あの日の上原のように苦しんでいる人達は、たくさんいます。生活が困窮していたり、精神的/肉体的に限界を感じていたりする。ひとり親の起こす事件が報道されるたびに自分と重ねて見てしまいます。上原だって、ボタンを1つかけ間違えたら事件と同じ結果になっていたでしょう。どんなに「助けて!」と言っても、どんなに「助けたい!」「救いたい!」と言われても、結局救われなかった人達は、次第に誰にも迷惑をかけないために孤立して、出来るだけ傷付かないように殻に籠もって、必死に生き延びているのだと思います。だって、上原がこうして思い出して書くだけでも辛いのに、いま、そういった環境に置かれている人達は、もっともっと辛いし、苦しいですよね。

 さて、この原稿を書いている間、思い出して泣くのを回避するために2回の漫画休憩を挟みました(笑)。メガネ男子に癒された上原はいま、二次元の女の子になりたい! と、切に願っております。いや、原稿も二次元の世界と近い距離にある……。きっと、文字の世界は自由ですよね! だから、最後にこれだけ……。

「クズな上原に恋してくださぁぁぁぁああい!!! 上原もK沢さんみたいな歳上男子に何から何まで全て保護されたいですーーーーー!!!(真顔)」

■上原由佳子/1988年生まれ。沖縄県在住。シングルマザー女子大生。女子力の欠片もなさを小学1年生の娘ちゃんから指摘される、どうしようもない系アラサー女子。

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