シリア難民キャンプ元ボランティアインタビュー(後編)

「夫は、子どもが生まれる前に戦争で亡くなった」 シリア難民キャンプに暮らす女性たちの実情

2016/01/08 15:00

――コミュニティセンターに来ている女の子たちは、どんな様子なのでしょうか?

本間 めちゃくちゃ元気ですよ。びっくりするぐらい。日本から鍵盤ハーモニカが25台寄付で届いたことがあったんですが、みんな使ってみたくてしょうがなくて、大騒ぎでした。25人が一斉に使うと、ひとりでは見きれず、15人ぐらいに人数を絞って体験してもらいました。わたしも音楽は得意じゃないんですけれど、イスラム圏には基本的に音楽の授業がなく、楽器を初めて触るような子たちばかりだったので、基本のドレミファソラシドから教えました。

 わたしは、ちょっとでもいたずらしたら、「はい、ダメー、今日は終わりだよ」なんて言いながらやっていました(笑)。男の子たちがいる前だと、意識しておとなしくなってしまいますが、女の子だけだとすぐに歌って踊って、とてもにぎやかです。環境は過酷かもしれないけれど、わたしは「かわいそう」という感情はまったくなくて、「今日もおもしろいことしようよ」というスタンスで向き合っていました。子どもは、どこの国も変わらないですから。

refugeecamp5.jpg
初めて鍵盤ハーモニカを体験

■将来の夢を考える前に、生きる希望を見失っている

――出会った中で特に印象的な女の子がいたら、教えてください。

本間 17歳のシングルマザーの女の子。17歳で子どもを産んで、3カ月ぐらいの赤ちゃんを育てていた女の子がいたんですが、その子はすごく子どもっぽくて、甘えん坊だったんです。どんなに若くても、子どもがいると、結構しっかりすると思うんですが、順番も待てなくて。それで1回、「なんでそんなに順番待てないの?」と聞いたことがあったんです。その時に旦那さんの話になって、「20歳で死んだ」って言うんです。子どもが生まれる前に、戦争で亡くなったそうです。彼女はその後、家事が忙しいとかで来なくなって、それっきりになってしまいました。キャンプ内には、旦那さんが亡くなった人が結構多くて、一緒に働いていた同僚の旦那さんも内戦で亡くなっていました。

 キャンプ内にいる女の子たちは、結婚がとても早いです。キャンプに高校や大学はないので、中学校を卒業したら、結婚する子が多くて、キャンプ生まれの子もたくさんいます。今、シリア人の大人たちは、このまま難民キャンプ内で生活していくうちに、彼女たちのシリアの記憶がどんどん薄れていってしまうことをとても心配しています。

――彼らに将来の夢はあるのでしょうか?

本間 将来の夢とは少し違うかもしれませんが、「自分にとっての幸せはなんだろう?」ということをテーマに、みんなに絵を描いてもらったんです。そうしたら、大多数の子がシリアに帰りたい、自分の家に帰りたい、学校へ行きたいという内容の絵を描いていたんです。キャンプ内にも学校はあるので通えますが、自分が通っていた学校に通いたい。大学を途中でやめざるを得なくて、「もう一度大学に通いたい」と話す女の子もいたんですが、難民になってしまった人たちは、将来の夢を考える前に、生きる希望を見失っている人が多いのが現状だと思います。

――本間さんがいま伝えたいことは何ですか?

本間 シリアという国や難民キャンプで暮らす彼らの存在を、どうか忘れないでください。どういう支援ができるかの前に、その存在さえ知らなかったら、支援もできない。内戦のニュースは、すごく大きく広まるけれど、シリアがどんな国で、難民キャンプがどんなところなのかについては、ほとんど語られていません。知らないことは怖いことです。どうか彼らの存在を忘れないであげてください。

(文=上浦未来 写真提供=本間美里)

本間美里(ほんま・みさと)
金沢美術工芸大学卒業。日産自動車株式会社(デザイン本部)に入社。退職後、2012年からヨルダン国内のパレスチナ難民のための教育機関で美術教育に携わる。帰国後、再びヨルダンへ渡り、シリア難民支援ボランティアとして11カ月間活動。

最終更新:2016/01/25 17:12
世の中への扉 戦争を取材する─子どもたちは何を体験したのか
子どもは、どこの国も変わらない
アクセスランキング