シリア難民キャンプ元ボランティアインタビュー(前編)

「ただ、シリアに帰りたいだけ」 ボランティアが見た、シリア難民キャンプの過酷な環境

2016/01/07 15:00
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キャンプ内で物資の運搬をするロバと子どもたち

――キャンプを出た人々は、どうやって現金を得ているのでしょうか?

本間 キャンプ内では働くことができないので、ヨルダン国内のどこかで働くしかありません。けれど、シリア人に対する就労許可は下りていないので、違法で働くことになります。ヨルダン人はシリア人を雇って見つかっても、罪にはならないんですが、シリア人は数回見つかった時点で、難民登録を抹消されてしまいます。だから、賭けなんです。それでも、現金が必要だから、すごい低賃金でも働いている人は多いです。

■ヨーロッパに行きたいわけじゃない

――そういった背景があって、ヨーロッパへ向かうのでしょうか? なぜあれだけ大勢の人が、文化もまったく違うヨーロッパへ向かうのか、よくわからないのですが。

本間 わたしも、よくわからないんです。すごく個人的な意見をいえば、難民キャンプで生活するのが一番楽じゃないか、と思っているんです。どんなに環境が苛酷でも、家賃を払わなくてもいいし、電気も決まった時間になれば通るし、死なない程度の食事の配給はあるし、周りは同じ境遇のシリア難民がたくさんいるから孤独でもない。

 シリア難民支援に長く携わる日本人の知人に、「なんでわざわざギリシャの海を渡って、水死してしまうような過酷な道を通ってまで、ヨーロッパに行くんですかね?」と聞いたんです。その知人いわく、「アラブ人特有の『あそこに行ったら、希望があるんだ』『あそこに行ったら、なんとかなるんだ』みたいな思い込みがすごい」というんですね。理解するのはなかなか難しいです。これから、例えばもしも中国が難民を受け入れると表明して、そこに希望があると思ったら、ひょっとしたら彼らは中国へ向かったりするのかもしれません。

――本間さんの活動していたキャンプ内にも、ヨーロッパを目指す人たちはいましたか?

本間 そうですね。ヨーロッパで受け入れが始まった、というニュースが出た次の日は、職場でも大きな話題になって、同僚のシリア人たちの間でも「ドイツが、ドイツが」という単語が飛び交っていました。それで、同僚のシリア人女性に「あなたもここを出て、ドイツに行きたいですか?」と聞いてしまったんですが、「マイサ(本間さんのアラビックネーム)、よく聞いて。わたしたちは、ヨーロッパに行きたいわけじゃないの。わたしたちは、いい生活がしたいわけじゃない。ただ、シリアに帰りたいだけなの。いくらヨーロッパで受け入れが可能になろうが、日本に行くことができたとしても、わたしたちが本当に望んでいるのはシリアに帰ることだけ。ただ、ここの生活が苦しくて、ヨーロッパへ行く人もいるし、難民になったばかりで、ヨーロッパに行くことを選択した人もいるけれど、それが目的じゃないの」と言われ、何も言えませんでした。
(後編につづく)

(文=上浦未来 写真提供=本間美里)

最終更新:2016/01/25 17:19
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先が見えないって不安……
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