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「新訳!艶めく江戸文学」トークショー

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左から、島本理生氏、いとうせいこう氏、円城塔氏、島田雅彦氏、池澤夏樹氏

 今年創立130周年を迎えた河出書房新社は、これを記念した企画『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集』を刊行した。古典から現代文学まで全30巻で構成される本シリーズは「日本人とは何か」「私は誰か」といった視点で厳選され、古典新訳を収録するものとしては約50年ぶりの日本文学全集になる。

 第一線の現代作家による新訳で古典を甦らせているのが特色の本シリーズは、これまでに、池澤夏樹訳『古事記』、川上未映子訳『たけくらべ』、町田康訳『宇治拾遺物語』、伊藤比呂美訳『日本霊異記』『発心集』などが刊行され、古典と現代作家の個性の両方が楽しめるものとなっている。古典というととっつきにくいイメージがあるが、その評判の良さはシリーズ累計22万部を突破していることからもうかがえる。

 今回、本シリーズの第Ⅰ期である12巻が完結を迎えたことを受け、その記念イベント「新訳!艶めく江戸文学」が紀伊国屋サザンシアターで行われた。島田雅彦(『好色一代男』訳)、円城塔(『雨月物語』訳)、いとうせいこう(『通言総籬』訳)、島本理生(『春色梅児誉美』訳)の訳者4人と、本シリーズの編者であり、全編において解説を手掛けた池澤夏樹氏が登壇。

◎難解な資料を現代に
 イベント前半では、訳者の4人がそれぞれの作品におけるお気に入り箇所の原文および訳をそれぞれ朗読。島田氏は、『好色一代男』の官能性や、同書がいかに当時の男色や遊郭での遊びを伝える一級資料であったかを、主人公・世之介が歴史上最高の遊女である吉野太夫を褒め称えている場面を情愛込めて朗読した。また円城氏は、ほとんど改行のない、漢字まじりの変体仮名で書かれた『雨月物語』の原文について、規則性のなさやそれに伴う訳の難解さを説明しながら、冒頭箇所をスピーディーに読んだ。

 さらにいとう氏は、今回の朗読のために制作したというバックトラックを流し、その上に『通言総籬』の朗読を乗せ、エコーを利かせたり好きなフレーズを繰り返すといった、新しい感覚で古典を楽しませるパフォーマンスを披露。最後の島本氏は、美男子の丹次郎と女たちとの三角関係を描いた『春色梅児誉美』の原文は、俯瞰した男性目線で書かれているが、今回の訳に際して女性目線に変えたことを説明し、男の浮気が女にバレた場面を朗読。そのリアルな会話の掛け合いは、男の言い訳や女の問い詰めがいつの時代も普遍的であることを感じさせた。こうして4人が思い思いの朗読をして前半は終了。

◎古典でも日本人は“色好み”の恋愛好き

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『好色一代男/雨月物語/通言総籬/春色梅児誉美』(河出書房新社)

 後半では池澤氏も交え、訳に際して苦労した点や江戸文学の特色などが語られた。池澤氏は本シリーズのスタート時、「古典の現代語訳を冒涜だと捉えずに、とにかく面白い読み物として読みたいし、読ませたい」と強く思っていたそう。そこで編集部から、「現代の元気な作家たちに頼もう」と提案され、作品をピックアップし、それぞれを訳す作家をマッチングさせていった。池澤氏は「誰も古典になど興味がないだろう」と思っていたが、依頼する作家たちが快く引き受けてくれたので驚いたそうだ。会場を見渡すと、多くの中高年に混じって、20~30代の若い世代の観客も少なくないことに気付く。本シリーズの売れ行きを見るにつけても、現代における古典への興味・関心はかなり高まっていることを感じた。

 池澤氏から訳におけるエピソードを問われると、島田氏は翻訳の作業期間、別の仕事でヴェネチアに滞在していたことを話し、「『好色一代男』とヴェネチアが妙にしっくりきた」と語る。ヴェネチアは商人接待のために娼婦が多くいたため、彼女たちの独自の文化が形成された街。島田氏の滞在場所の近くには「おっぱい橋」と呼ばれる橋があり、歴史的に性愛あふれたヴェネチアを散歩し、部屋に戻ってまた性愛あふれる本作を翻訳する生活に感嘆していたのだとか。その話を聞き、池澤氏は「執筆したい昼間は静か、社交的で賑やかな夜はさまざまな人間観察ができるという色っぽい界隈は、作家にとってうってつけの場所」だと呼応した。

 池澤氏は『古事記』においてイザナギとイザナミがセックスして国を作ったことに触れ、「日本人は昔からとにかく“色好み”、つまり恋愛が好き。これは単なるセックスではなく、愛し合う互いが苦労を経ながら生きることの目的を肯定し合うこと。この色好みが江戸時代になると、爛熟し、形だけを楽しむようになる」と解説。同時期、中国文学では儒教の教えからほとんど自由恋愛などは描かれていないことを見ても、この日本人の色好みは独自の文化といえるのだ。『雨月物語』は中国文学の影響で誕生した作品ではあるが、しっかりと色好み的な篇が入っていることにも池澤氏は注目したという。さらに島本氏は『春色~』を翻訳していて、主人公について「なんでこんなダメ男を美女2人が取り合うの!?」と疑問に思ったそうだが、池澤氏はこの時代にヘタレ男の哀れさに心が寄るのも、「戦争が起きず安定して長く続いた江戸時代において、緊張感のなさやだらしなさが極まったから」だと、江戸文学が艶めいている理由を統括した。

◎江戸文学はサンプリングだから面白い?
 また池澤氏によると「当時、江戸に訪れた外国人は『こんなに人々が本を読んでいる国はない』と驚いた」という。出版文化が隆盛を誇り、安価での本の購入が可能になったことで人々は夢中で本を読んでいた。そのためいとう氏は、文学作品も過去に出版された多くの作品について読み手が知識を持っていることを前提としているので、「皆も知っているあの作品のこの描写やセリフをここで使うよ」といった、書き手の遊び心が魅力的な作品を作り出していたと言及。過去のいろいろな作品を持ってきてははめ込んで編集するという、ヒップホップにおけるサンプリングのようなよさが江戸文学にはあったと語り、円城氏も「皆も誰かの作品を何度も読んだり自分なりの面白いバージョンとして書き替えたりしちゃえばいい」と同調。いとう氏が最後に放った「今の時代は著作権があってなかなかそういうことができなくなった。権利は人を縛ってつまらなくする」という言葉に、江戸文学と現代文学における面白さや、書き手の創作環境の決定的な違いを見た気がした。

 ここ最近、歴史ある出版社の多くが現在活躍している作家による古典翻訳に力を入れている。これは、ただ昔の人々の暮らしや面白い古典作品を知って楽しもうというコンセプトだけではなく、これからも進むであろう出版業界の不況や、自由で良質の文学作品を生みづらくさせている空気へのアンチテーゼもあるのかもしれない。

 人々が大量の本を読んでいた江戸期の文学に浸透していた、作品を書き替え、書き手が読み手と一緒になって新しい価値をどんどん創造していく独自の空気。そして、本という媒体を通して他者を愛し、人生を楽しんで肯定する色好みの精神。日本人はこれまで何を考え、そしてこれから何を考えていくべきなのか。「日本人とは何か」という答えを求めて文学に立ち向かっている本シリーズは来年以降も続いていくが、その壮大な問いの答えを、少しでもつかめたような気がした重厚なイベントであった。
(石狩ジュンコ)

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