性の「娯楽」が氾濫している現代こそ、具体的なリスク回避を含めた「性教育」を。

2015年は若年層の性を取り巻く諸問題に関して考えさせられる1年でした。例えば、JKビジネスの摘発の本格化、「コミュニティーサイト」の利用で事件に巻き込まれた18歳未満の少年少女が上半期過去最多の796人に上るなど、枚挙に暇がありません。

若者世代の性が脅かされる状況において、未然に被害を防ぐ鍵となるのは、正しく性について学ぶ「性教育」なのではないでしょうか? しかし日本では文部科学省の学習指導要領で「安易に具体的な避妊方法の指導等に走るべきではない」と、正しい避妊方法を教えることすら躊躇しているのが現状です。

12月13日「『THEニッポンの性教育2015』プログラム:『性教育はこうやったら盛り上がる!!』」が開かれ、性教育に興味を持っている若者が、性の「娯楽」面が強調される現代において「どうすれば性教育が盛り上がるのか」について話し合いました。

◎若者はセックスに消極的になっているのか

「セックスをする高校生が減っている。セックスをすることがいいことだという回答も減少しています」

イベントでは、はじめにファシリテーターの小貫大輔氏(東海大学教授/AOFS役員)によって、若者の性の現状が語られました。

「定期的に日本で実施される性に関する調査で顕著なのは、最近のものになればなるほど、若者たちが自分の性に関して関心・興味が無くなっているという点です」

実際に2014年に公開された「児童・生徒の性に関する調査」(東京都幼・小・中・高・心性教育研究会)を見てみると、高校生を対象に「あなたは、高校生が性交することについてどう思いますか」という質問をしたところ、「否定的見解」を答えたのが、男子で15.8%(2008年調査:12.2%)、女子で21.8%(2008年調査:12.6%)となっており、いずれも2008年調査より増加しています。また「性交経験がない」と回答した生徒も、2008年調査と比較すると、男女ともに10%以上増加しているという結果が出ています。

一方で「塾で教えている自分の生徒たちは、性に興味津々で話しているのを見かける」「自分の友人は男女関係なく性の話題が頻繁に出る」など、若者が性について全く興味が無い訳ではない様子が参加者から語られました。「否定的見解」が増える中で、性の話題が上がるのはなぜなのでしょうか。

会場からは、メディアで取り上げられたり友人間で交わされる性の話題は、「娯楽」という側面から捉えたものも多く、正しい性の知識を得ることが難しかったり、セックスなどを自分自身の行動と結びつけにくくなっているのではないか、という意見が出ました。

性を「娯楽」として楽しむことは悪いことではなりません。しかし「娯楽」が唯一の性情報になってしまえば、性に対していかがわしいイメージばかりが先行し、嫌悪感を抱いてしまうこともあるかもしれません。また正しい性の知識を学ぶことが出来なかったために、避妊の適切な方法がわからないといった問題が生じる可能性もあります。

「性教育」の重要性は、正しい性の知識を学ぶことだけではありません。自分の身体と心について知ることは、自分だけでなく「みんなの身体と心を大切にする」ことにも繋がります。AVや漫画など、様々な性に関する「娯楽」が氾濫する現代だからこそ、性教育が重要なものとして捉えられる必要があるのです。

しかし「性教育の過去20年を振り返り、これから先10年を語る Next Generation Leaders’ Summit 2015」でも語られていたように、この10年は性教育が批判を受けた時代でした。先述の「児童・生徒の性に関する調査」も、1981年以降、継続的に行われていましたが、性教育に対するネガティブな風評によって2008年以降は調査ができず、再開されたのは2014年です。イベントに参加した看護学部に通う学生も、「この10年間はセクシュアリティに関する論文が少なく、勉強するのに四苦八苦している」と話していました。

性は生きている限り避けられない問題です。公教育の場において性の話題がタブー視されることで、「娯楽」の側面ばかりが強調されてしまう。それによってさらに嫌悪感が増すという悪循環が生まれてしまいます。LGBTなど性的マイノリティの存在が可視化されつつある現代において、性教育は今まで以上に重要なものになっているのではないでしょうか。

「先進国を見渡したとき、性教育を受けるのは子供の権利だというのはごく当たり前の考え方です。自分の身体や性について知らずに大人になるなんて人がいてはいけない。この日本の状況を、外の国から見てみるとびっくりします。それが、今日のタイトルにもなっている『Theニッポン』の現状です」(小貫氏)

◎コンドームを付ける授業に悲鳴が上がる日本

文部科学省の学習指導要領に関するページには「学校における性教育については、子どもたちは社会的責任を十分にはとれない存在であり、また、性感染症等を防ぐという観点からも、子どもたちの性行為については適切ではないという基本的スタンスに立って」、性教育を行う場合は「人間関係についての理解やコミュニケーション能力を前提とすべきであり、その理解の上に性教育が行われるべきものであって,安易に具体的な避妊方法の指導等に走るべきではない」という記載があります(黒字強調は筆者)。

子どもたちの性行為が適切か適切でないかという議論はさておき、「子どもたちの性行為は適切ではないから具体的な避妊方法を教えない」というのはあまりにも現実からかけ離れています。なんらかの形でセックスの存在を知った子どもが、実際にセックスをした場合、避妊方法を知らなければ望まない妊娠をしてしまう/させてしまうかもしれません。リスクが存在するのであれば、リスクを回避する方法や正しくリスクを伝えることこそが重要なのではないでしょうか。

このように、学校における性教育には性に関するリスクやその回避方法を知らずに大人になってしまうような現実離れした方針があるのです。

これは小貫氏が東海大学の学生に、「コンドームを付ける授業をしようか」と話した時の反応にも現れています。

「『キャー! マジ? むりむり!』と反応する女子学生もいました。『コンドーム』という言葉を言うのも恥ずかしいのという感じ。その日本人学生の反応を見て、ノルウェーの学生が『キャー! マジ?』ですよ。北欧では小学生のときから当たり前に、具体的な避妊の方法を学ぶ機会があるんです」

このくらい、日本の性教育は「遅れて」いるのです。

◎「ヨーロッパの考え方をそのまま受け入れる」のか

では、性教育に関して「進んで」いるヨーロッパ圏の性教育のやり方をそのまま日本でも行うよう推進すれば、性教育は盛り上がるかというと、そうは思えません。なんでもヨーロッパ圏のやり方が正しい訳ではないし、ヨーロッパ圏のやり方が日本人に馴染まないこともあります。

小貫氏は「性教育で考えると、性をめぐる人権や幸福を追求する権利といった普遍主義的価値観と、日本の文化の相対的な特殊性との関係について考えるべき」としながらも、他国の性に関する規範には宗教的な要素が強く反映されることを例に挙げ、「地域の特徴を捉えることは性教育を考える上でもデリケートに求められます」と語りました。

日本においては、宗教文化とは異なりますが、性の話をする家庭や、性について真面目に取り上げるメディアが少ないということは特徴と言えます。その特徴・文化が良いのか悪いのかは関係なく、こうした条件を踏まえて、今後の性教育の方法や内容を考えることは性教育がうまく機能するために欠かせないことです。現実にそぐわない形で性教育を行えば、むしろ逆効果になってしまうことだってあるでしょう。

性教育を盛り上げるために必要な一歩は、かつての性教育が盛り上がっていた時代とは異なる性教育の現状において、今の「日本の特徴」を正確に捉えることから始まるのかもしれません。

小貫氏は最後に、日本がお辞儀の文化であることを例に挙げ、「挨拶を、握手やハグなどにしろと言うのではない。日本人なのだからお辞儀だけできればいい、ということでもない。お辞儀や握手、ハグすべてが格好よくできるようになることがこれからは大切になる。性教育も同じです」と締めくくりました。性教育の先進国・ヨーロッパという「お手本」に捕われ過ぎず、『日本の文化』にも捕われ過ぎず、複数の視点をマスターした上でバランスを取ることがこれからの性教育には求められることになるでしょう。
(此方マハ)

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