血のつながらない子どもを育てるという選択【里親編3】

「私たちが育てているのは心です」 里親が語る、里子との絆

2015/12/24 16:10
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東京都の里親体験発表会の案内

 離婚や病気、虐待などで実親と暮らせなくなった0歳から18歳未満の子どもを、一定期間家庭で預かる「養育里親」。現在、親と暮らせずに児童養護施設に身を寄せる子どもが全国に約3万人いるといわれている中、子どもを温かい家庭生活の中で育てる仕組みが里親制度。子どもの生活、そして将来を担う里親たちは、どのような悩みを抱え、またどんな時に喜びを感じているのだろうか。

 里親たちの本音を知るべく、今年11月末に東京都北区で行われた「養育家庭体験発表会」を訪れた。今回、自身の里親体験を発表した方のうち、平成18年に養育里親に登録したSさん(40代女性)が語った、里親になって知った葛藤や苦悩、そして里子との絆についての話を紹介したい。

■実子1人を育てながら3人の里子を預かる

 保育士の資格も持つSさんは、里親になってもうすぐ10年になる。実子1人を育てながら3人の里子を預かったという。現在は、乳児院から預かっている小学校中学年の里子を育てている。

「我が家は夫と私、高3女子の実子、小学校中学年になる里子A、遠い親戚のお子さん小2男児を預かっており、5人で暮らしています。8年前に初めて我が家にやってきたAは、乳児院からの委託で預かりました。乳児院には生まれてすぐの赤ちゃんから、2歳くらいまでの幼児がいます。2歳を過ぎると多くは児童養護施設に移動します。できれば そのタイミングで里親に委託するのがよいと聞いていました。我が家の里子は乳児院から直接里親に委託するという事例でした」(Sさん、以下同)

 実際に育てていく中で、最初会った時のAの印象からだんだんと変わってきたそう。

「当時、乳児院でAに会ったのは、私たち夫婦が里親研修を終えた頃。初めてAに会った時は職員の方の後ろに隠れてしまい、色白で小さくて引きつり笑いをしていて、神経質そうな面持ちで私たちを明らかに警戒している様子でした。それから面会や外泊という手順を踏んで、Aがいよいよ我が家にやってきました。それから8年の日々が過ぎ、小学校中学年になりました。なんともお茶目な子に成長しました。元気でおっちょこちょいで、おしゃべりなせっかちさん。一緒に生活しているだけで、目が回るくらいです」

 今でこそAのことを本当の子のように感じているというSさんだが、そう思えるまでの道のりは長かったという。

「実は、最初に里子を預かってみたいと言い出したのは私でした。大家族で暮らしたかったし、ワイワイした家庭をつくりたかったんです。しかし、あいにく1人しか生まれませんでした。授からないことにヤキモキしていました。夫もひとりっ子なので従姉妹もいない、娘が大きくなったら親戚が1人もいないという心配もあり、兄弟のような存在をつくってあげたいという想いもありました。ですが、里親登録にあたっては、主人も実家の母も大反対。主人は私と年が離れているので『子どもの面倒を見る自信がない』といいますし、母は『自分の子どもだって大変なのに、里子を育てることがどういうことかわかっているの』といって、決していい顔はしませんでした」

 そうした中、Sさんは周囲を強気で説得する。

「『やるだけやってみようよ! 里子でも実子でも同じように育てればいいんだよ!』といって里親になることを夫と母に猛プッシュしていたのに、Aが来たら半年もしないうちに立場が逆転。Aの可愛さに主人はメロメロ、母も月2、3日我が家に来ていたのですが、『面白い子だね。ユニークだね』といってベッタリ。一番世話しているのは私だし、乗り気だったのも私なのに、イメージ通りにいかなくて、とてもイライラしていたと思います。実子は赤ちゃんの頃からとても手のかからない子だったので、子育てを甘く見ていたのかもしれません」

 心から望んだ里子なのに思い描いていたようにならない、そんな状況に育児ストレスを感じることもあったという。そんな時に、S一家に転機が訪れた。

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