『産婦人科医ママと小児科医ママのらくちん授乳BOOK』著者インタビュー

なぜママたちは“母乳神話”に振り回されてしまうのか? 女性医師が語るネット時代の育児情報

2015/12/22 15:00
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産婦人科医ママと小児科医ママのらくちん授乳BOOK

 出なかったり出すぎたり、足りなかったり飲んでくれなかったり。赤ちゃんに栄養を与える“授乳”には何かと苦労話がつきものだが、それと同じくらい、根拠のないトンデモ理論も広まっている。

「母乳じゃないと、愛情不足になる」「粉ミルクのほうが栄養バランスがいい」といった優劣を競うものや、「高カロリー食が母乳に反映されて赤ちゃんが太る」「アルコールを飲むと乳が発酵して腐る」系の母親に節制を強いるもの、さらには「哺乳類なんだから、頑張れば母乳は絶対出る」「母乳の赤ちゃんのほうが目が輝いている」という意味不明なものまで、いくらでも出てくるのだ。

 そんな中、母乳派でも粉ミルク派でもなく、あくまで中立な立場からの情報をまとめたという授乳ガイドブック『産婦人科医ママと小児科医ママのらくちん授乳BOOK』(メタモル出版/宋美玄・森戸やすみ著)が出版された。

■母乳のネット販売問題が起こったワケ

 同書によると、おっぱい至上主義である“おっぱい右翼”と、「合理的が一番!」な粉ミルク派である“おっぱい左翼”のどちらかに情報が偏り、バランスよく情報発信されている本やブログなどがほとんどないのだとか。その結果が、前出のトンデモ理論に振り回されてしまうお母さんたちというわけだ。

 そこで著者のひとりであり、授乳経験もある(現在も子育て中の)小児科専門医の森戸やすみ先生に、このような現状に至った背景を聞いてみた。以前母乳のネット販売が問題となったように、怪しいものに手を出すほどに追い詰められがちなのは母乳絶対主義のお母さんたちだが、粉ミルクが許されないと思うのはなぜなのか?

「母乳じゃなければいけないと思ってしまうお母さんたちは、まじめで子どもが大好きで、自分を犠牲にしてでも子どもに一番いいものをあげたい気持ちが強いんですよね。確かに母乳にしかない成分は存在し、それが免疫力を高めているとは言われています。だからといって、粉ミルクを与えることによるデメリットは、それほど大きくありません。ところが不確かな情報でもひとつひとつ真偽を確かめていられませんから、とりあえずいいと言われている方法を選ぶのが無難だと思うのでしょう。ネットを中心に出回っている情報の中には、母乳じゃないと発達障害になるとか、ストレスで赤ちゃんの髪が逆立つとか、どれも根拠がないうえに、お母さんに対して失礼極まりないものも。しかし断定的な言葉は魅力的に聞こえがちですから、トンデモ話を信じてしまう人もいるのです」(森戸先生)

■一時的な問題なので見過ごされがち

 ドラマ化で話題を集めている産婦人科マンガ『コウノドリ』(講談社/鈴ノ木ユウ著)でも、母乳育児中である友人から「帝王切開で楽すると、母乳も母性も出ない」という意見を聞き、悔しい思いをする妊婦の話がある。そういった“母乳で頑張っている私のほうが偉い”という優越感のためにトンデモを語る一般人はひとまずおいておき、専門家の見解はどうなのだろうか?

「母乳への関心には温度差があり、そのため知識にも差があります。だから産婦人科医、小児科医、助産師、保健師などの中には、当然きちんとした知識を持つ人もいますが、お母さんたちに根拠のない自説を押し付ける人もいるようです。そもそも医師は病気の専門家ですから、重大な病気については自らが研究しようという熱意を持ちやすいのですが、母乳についてはそうではありません。母乳が出なければ粉ミルクで対応できますし、離乳完了までの一時的な問題なので、見過ごされがちです。そのようなことから授乳問題はエアポケットとなっていて、間違った情報が入り込みやすいのだと思います」(森戸先生)

産婦人科医ママと小児科医ママの らくちん授乳BOOK
「最良の母親とは、まあまあの母親である。」
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