[官能小説レビュー]

平凡なOLが体現する“究極のセックス”とは? 『悪い女』に見る“禁断”の作用

2015/12/21 19:00
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『悪い女』(実業之日本社文庫)

 人はなぜこんなにもセックスに翻弄されているのだろう? 言葉で説明できない快感を導く行為は、決して道徳的な思考だけで説明できるものではない。例えば恋人ではない相手とのセックスが気持ちよかったり、妻子ある男性との関係に溺れてしまったり……危険をはらんだセックスは、通常の行為以上に気持ち良く感じることが多く、“禁断”を突き詰めると究極の快楽に到達する場合もある。今回は、そんな“究極の快楽”に迫る作品を紹介する。

 今回ご紹介する『悪い女』(草凪優著、実業之日本社文庫)の主人公・佐代子は、24歳の派遣OLである。第一印象は清楚で、まるで就職活動中の学生のような風貌をしている。そんな地味な外見とは裏腹に、彼女は3人の妻帯者の男性とセックスフレンドとして関係を結んでいた。

 職場の課長である野々村、バーで知り合った不動産会社を営む坪井、グラフィックデザイナーの片桐。年齢も性癖もさまざまな3人の男たちと関係を続けるが、彼女の目的は愛情や金ではない。欲しいものは燃えるようなセックスだけ。家庭があり、地位のある男たちを体ひとつで虜にし、陥れる。それが佐代子にとっては何よりも代えがたい快楽となるのだった。

 佐代子がこのようなセックスを好むようになったのは、高校時代の出来事がきっかけだ。高校時代、バスケットボール部のマネージャーをしていた佐代子は、部員の永瀬に思いを寄せていたが、ある日親友の咲良に、永瀬に片思いをしていることを打ち明けられ、永瀬と咲良は付き合うことになる。そして佐代子は、告白されるがままに永瀬の親友と交際を始めた。

 しかし数カ月後、永瀬が実は、佐代子のことが好きだったと告白してきたのだ。両思いだと気付いた2人は、誰にも打ち明けずに逢瀬を繰り返すが、互いの親友を裏切り、影で交際をしていることが学校中にばれてしまい、クラスメイト全員から無視をされてしまう。

 誰にも祝福されない交際は、佐代子をますます燃え上がらせた。学校が終わると永瀬の家へ行き、黙々と肌を重ねる。しかし最後は永瀬の両親に抱き合っているところを目撃されてしまい、2人は離れ離れになってしまう。

 その後、苦くも狂おしい初恋の相手でもある永瀬と6年振りに偶然再会した佐代子。その出来事は、彼女を思わぬ運命へと導いていく――。

 本作で、高校生の佐代子が永瀬とのセックスを「シェルターの中」と表現しているのが非常に興味深い。普通の高校生ならば、好きな人と気持ちがつながっただけでうれしいはずだし、周りから祝福されたいだろうものなのに、親友を裏切ったという背徳感や孤立した状況さえも、快楽にしてしまう。「シェルターの中」で、身を潜めて無心にセックスを繰り返す彼女の初恋は、まるで成熟した大人のそれのようにも見えた。

 裸で抱き合う男に、「自分はどう映っているのか」と考えられる余裕があるうちは、まだまだ青い。汗まみれになり、恥ずかしい姿をさらけ出しているという意識すらなく、相手を強く求め、雌になる。佐代子のセックスに「究極のセックス」という言葉を思った。
(いしいのりえ)

最終更新:2015/12/21 19:00
『悪い女(実業之日本社文庫)』
セックスも突き抜けるとピュアになる
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