「『薔薇族』編集長とマンガ家が、お互いに聞いてみたいいくつかのこと」レポート

男同士も、男女のエロマンガも同じ――「薔薇族」編集長が語る“セクシュアル・マイノリティ”の世界

2015/12/27 21:00
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「薔薇族」編集長の竜超氏

■ゲイの視点で語る「BLのおかしい点」

 そして後半では、江戸時代や幕末を舞台にした作品等を手がけ、BLにも造詣が深い紗久楽氏から、竜氏に対して質問する形でトークが進行。「怒る人もいるけど、私はなんでも答えますよ」という竜氏の優しさから、男同士の恋愛やセックスを作品として楽しむBL好きの女性と、当事者であるゲイ男性の間に少なからずあるであろう溝を埋めていくような時間となった。

 まず、「BLやゲイマンガを読んでいておかしいと思う点は?」と問われると、竜氏は「今はプロが描く上でデッサン的に変なものはないが、以前は男同士なのに正常位ができているとか、男なのに濡れてくるといったおかしな描写があった」と語る。そういうものは「ファンタジックなギャグ」として見ていたそうだが、「ゲイがやるアナルセックスなんて、実は簡単にはできないし、簡単にはイカないのに、そうしたマンガの描写を見て当事者も騙されていた。そこは男女が絡むエロマンガでも同じかも」と、ビデオやマンガといったコンテンツを全てリアルだと捉えてしまう“エロあるある”はゲイでもノンケでも共通していることを述べる。

 また「ゲイにおけるウケ(挿入される方)、タチ(挿入する方)の中で、タチが減っているというのは本当?」という質問に、竜氏は「ゲイにおけるタチウケはSMと似ている」と説明する。SM関係にしても、Sは自由に攻めているようで相手の要求を考え、Mはやられて困っているようで相手に要求をしているように、どちらが主導権を持っているのかは実はわかりづらい。竜氏自身、どちらかに固定された経験がないように、一般的に“男っぽいからタチ”“女っぽいからウケ”という訳でもないのだそうだ。「タチはSと同じでサービス業だから、大変で少なくなっているかもしれないけど、ノンケのセックスが挿入だけではないように、ゲイのセックスも挿入が全てでもない」と、竜氏はゲイの性的嗜好もノンケ同様にさまざまであるとした。

 最後に、「ゲイ、レズビアンの女優、俳優が出てこないのはなぜ?」という質問に、竜氏は「見る側の意識が変われば出てくるはず」と回答。女優や俳優は他人のイメージを辿るのが仕事だが、今の日本人の意識だと、同性愛という資質はあまりにも濃すぎるのだという。つまり、同性愛をカミングアウトできたとしても、その後はどんな役でも同性愛という資質が透けて見えてしまい、異性とのラブストーリーが演じられなくなるのだ。「女優や俳優は、イメージの邪魔をするようなものは隠されている」と竜氏が総括すると、紗久楽氏は「女が男を演じる宝塚や男が女を演じる歌舞伎を見てもおかしいと言う人はいないのだから、ゲイやレズビアンが当たり前な世の中になって、そうした俳優や女優が出てきてもいい」と今後の願いを込めて語った。

 最近では「同性愛は異常」だと公に発言する議員が現れたことによって「同性愛差別反対」と表明する人が増えている。マジョリティ同様にマイノリティを受け入れよう、自分とは違う他者を認めようという声が高まっているが、竜氏の話を聞いていると、ゲイとノンケの間にはさして大きな違いがないように思われた。それぞれに共通する考え方や普遍的な性愛がたくさんあり、伊藤氏が編集長だった時代に、ゲイが今よりも偏見の目で見られていたことが不思議に思えてきた。ゲイとノンケがいかに違うのかではなく、いかに同じであるか。そんな感覚にさせてくれたトークイベントであった。
(石狩ジュンコ)

最終更新:2015/12/27 21:00
『オトコに恋するオトコたち 誰も教えてくれなかったセクシュアル・マイノリティの世界(立東舎)』
マイノリティという言葉を使わなくなる日が来てほしい
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