10代の交際にDVの芽が隠れている!? 女性弁護士と考える「暴力」と無縁の恋愛

 これまでの恋愛経験で、こんな経験はないだろうか? 彼氏から1日に何度もLINEが届きすぐ返信しないとキレられる、友だちとの約束や会社の行事より自分との予定を優先させられる……。恋がはじまったばかりのキラキラしたころには「これぞ愛情」と思えた行為こそが、もしかするとDVへの第一歩かもしれない。

 弁護士・打越さく良さんの最新著書『レンアイ、基本のキ~好きになったらなんでもOK?~』(岩波書店)が発売された。恋人から身体的・精神的・性的暴力をふるわれる〈デートDV〉の被害者、そして加害者にならないよう、恋愛とはどういうものか、関係性をどう築くべきかを中高生に説く1冊だが、10代は遠い昔という大人が読んでも役に立つ。DVのきっかけは特別なシーンではなく、ごくありふれた恋愛の1コマにあるとよくわかるからだ。

 打越さんにDVと10代の恋愛、そしDVを受けたときに私たちがとるべき行動についてうかがった。

――本書は10代の少年少女におけるデートDVについて書かれていますが、このころの恋愛が大人になっても大きく影響し、DVやモラハラを引き起こすケースは多そうですね。

打越さく良さん(以下、打)「手をあげられるなどわかりやすいデートDVまでいかなくても、強く束縛したりされたり、相手の行動や交友関係を制限したりといったことが、『つき合うって、こういうもの』と身についてしまうことがあります。いったん縛り、縛られることを恋愛と取り違えると、彼氏・彼女が代わってもDVにさらされる、または暴力をふるう、さらにそれがエスカレートする……となりがちです。10代のうちに〈束縛や暴力=愛情〉とインプットして自分や相手を苦しめることのないようにしてほしいと願い、本書を書きおろしました」

◎暴力を受けている人ほど、見えない

――そのころからDV的な関係が当たり前になると、暴力を受け入れることに疑問がなくなるのですね。

打「自分が暴力を受け入れていることにすら気づかなくなるんです。離婚したいと相談にきた女性たちから、『ナイフで刺されましたが、包丁じゃないので大丈夫』『殴られたけど、骨折もしていないから平気です』『彼はちゃんと外からは見えないところを殴るんですよ、一応気を遣ってはいるんですね』と聞くことがあり、その都度驚かされます。弁護士である私に相談にいらした、つまり夫との関係に問題があると気づいていながら、いまだ自分の受けた被害には目がいかない……。となると、まだ離婚まで考えていない人は尚のこと、自身の被害が見えていないのでは、と心配になります」

――見えないと同時に、認めたくないのもあるのでは?

打「そうかもしれませんね。認めたら最後、生活ができなくなるから問題を直視していない可能性はあります。それでもDVという言葉自体が知られるようになって以来、『お前が悪い』『お前のせいで俺は暴力を振るう』といわれても、『これはDVかも』と被害を自覚して誰かに相談しようと行動する人は増えてきたように見えます。2001年にDV防止法ができた意義は大きいです」

――身体的な暴力もさることながら、精神的な暴力も人の心身を苛みますね。

打「はい、とても深刻です。日常的にチクチクいわれる嫌がらせが何年も継続したり、何カ月にもわたって無視されたり……。ところが裁判では、殴られたり蹴られたりは診断書や写真を提出すれば認定されやすいですが、精神的暴力は証明がむずかしいんです。精神的暴力の被害の深刻さは身体的暴力によるそれに比べて重視されていないと感じますね。さらに性的暴力になると、私たち弁護士が信頼関係を築けたと実感していても、まだ打ち明けてくださらないことが多いです。『夫婦はセックスするのが当然、受け入れられない私がダメなんだ』と自分を責めたり、性について口にすること自体を恥ずかしいと思ったりする人が多く、表に出てきにくいのでしょう。被害者が恥を感じるなんて理不尽です。ただし、『夫婦はセックスするのが当然、多少イヤでも受け入れなさい』と思っている裁判官もいないとはいい切れず、性的な暴力も暴力として厳しく評価してくれるでしょう、と太鼓判を押すこともできないのが切ないところです。裁判官も思い込みがないとは言えないので」

――うかがっていると、そもそもDVをする人との交際自体を避けたくなるのですが、そうした男性に共通の特徴はありますか?

打「それがないんですよ。学歴や職業といったバックグラウンドに共通点はなく、たとえばDV被害者の味方であるはずの警察官や弁護士にもいますし、対外的には〈いい人〉に見える人も大勢います。強いていえば、他者、特に自分がほんとうに大切にすべき人を思いやれない、その人の痛みがわからないのが共通点です。成人して急にそうなったわけではなく、人格が形成される段階で人との接し方を学ぶ機会がなかったのでは……と私は考えています。10代のうちからデートDV、またはそれに近いことをしてきた可能性はあります。一目見て『この人はいかにもDVをふるいそう!』とわかるポイントはないと思ってください。DVは親密な関係のなかで生じますから、つき合ってみないと、もしくは結婚してみないとわからないケースが多いから厄介です」

◎束縛=恋愛ではないと気づいて

――10代は恋がキラキラして見える時期だけに、束縛=愛情と勘違いしやすいですね。本書では少女漫画や人気小説から、DVにつながりそうな恋愛行動の例を挙げています。〈壁ドン〉〈顎クイ〉なども、威圧的な行動として紹介されています。

打「うっとりしているところに水を差したり、『男女で役割分担が決まっているのはおかしい、いつでも対等じゃなきゃ!』と〈お説教〉したりといったことは、少年少女を白けさせるのでは……と、このあたりの書き方はとても悩みました。でも、キラキラのなかに危険なサインが潜んでいることはありうる、と気づいてほしかったんです。そして、それを見つけたら自分が傷ついたり相手を傷つけたりする前に、できるだけ早い段階で対処すること。たとえば、ほかの男性と話しているのを見て彼がヤキモチを焼く。この程度なら女性も『大切にされている』と受け入れがちですが、そのうち『男の美容師の店にはもう行くな』『俺以外と外出するな』とどんどん制約が厳しくなり、自分の考えで行動すればキレられるのではと怯えて自由に行動できなくなる……これがDVのパターンです。早々にNOの意思を表示できればいいのですが、『私が我慢すれば』と自分を封じ込める女性も少なくありません。そうしているうちに、DVはますますエスカレートします」

――どのあたりで「これは危険」と見極めればいいのでしょう?

打「これがまた、むずかしいんです。たとえば『ブス!』とからかわれても愛嬌のある言い方だったり、『あんただってブサイクじゃん!』と言い返せるような関係だったりする場合もあるので、こう言われたら即NGという線引きはなかなかできません。でも、最初はよくても、度重なると苦しくなってくることもありますよね。そんなとき、『私、傷ついているよ。やめて』と言って、彼も『いいすぎたかな』と考えられるのであれば大丈夫でしょう。でも、その訴えができなかったり、訴えても通じなかったり、『ほんとうは、イヤじゃないんだろ?』と威圧的な態度をとられたり……そんな関係なら交際を考え直したほうがよさそうです」

 イヤなことをイヤといえる関係か否かに分岐点があるのは、10代も大人も変わらない、と打越さん。だからこそ、10代のうちから「NO」をいうことを覚えてほしいといいます。また、本書の読者には男子中学生、高校生も想定されています。すなわち、「DV加害者にならないために」。こうした恋愛における〈基本のキ〉が身につかないまま大人になった男女が直面しているDVの現状とは? 後編に続きます。
(三浦ゆえ)

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