『戦場中毒 撮りに行かずにいられない』刊行記念インタビュー

イスラム国を取材した報道カメラマン横田徹が語る、日本が戦争に巻き込まれる可能性

2015/11/06 14:00
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横田徹さん

 報道カメラマン横田徹さんの著書『戦場中毒 撮りに行かずにいられない』(文藝春秋)が発売された。横田さんといえば、過激派組織「イスラム国」への取材経験を持ち、今年1月湯川遥菜さんと後藤健二さんの殺害予告を受けた時には、ニュースなどで、解説者としても登場していた人物だ。本書は写真集ではなく、アフガニスタン、カンボジア、そして、イスラム国など、横田さんが訪れた数々の戦地での壮絶な経験をまとめた体験記であり、自分の人生を振り返った集大成でもある。

 今年9月には国会で安全保障関連法案が成立。戦争の足音が確実に近づいている今、日本はどう戦争と関わっていくのか? 自衛隊がイスラム国へ行く可能性はあるのか? リアルな戦地の最前線を知る横田さんに、日本と戦争の今後を伺った。

――イスラム国についてお聞きしたいのですが、一体どうやって入ることができたのですか? 本にも詳しく書いてありますが、経緯を教えてください。

横田徹さん(以下、横田) 最初は、2013年にアメリカがシリアのアサド政府軍に対して空爆することをニュースで知り、行ってみたら、その時にISIS(イスラム国)という組織がちょうど出てきたので、注目はしていました。それで、彼らに取材を試みたんですが、あやうく人質として売られそうになり、逃げて帰ってきたんです。

 帰国後、トークショーで仲良くなったイスラム法学者の中田考先生が、ISISを何度か訪れていたことを知り、14年3月にもシリアへ行くとお話しされていたので、「一緒に行っていいですかね?」と気軽な感じで聞いたら、「いいですよ」と言ってくださって。イスラムの世界ではイスラム法学者はとても尊敬される存在だし、以前、中田先生が撮った写真も見せてもらい、この人と一緒なら大丈夫だろうと思ったんです。それですぐに出発が決まった。ISIS側から許可証を発行してもらい、彼らのエスコートでお客さん扱いにしてもらい、取材することができました。

 ただ、当時はあまりにも日本でISISの存在が知られていなかったから、帰国後は、出版社に持ち込んでも、ちっとも写真が売れなかった。テレビ局に持っていっても、「もうシリアはねぇ……」という感じで、相手にされなかったんです。それでも、テレビ局の中で興味ある人がいて、何度もプッシュしてくれて、なんとか一度オンエアはしてもらえたんですが、それだけで終わりました。その後ですよね、ISISがイスラム国と名前を変えて、湯川遥菜さん拘束事件が起き、そのたびにイスラム国、イスラム国と騒がれたのは。今年1月、後藤健二さんも拘束され、日本中が大騒ぎになるんですけれど、まさかこんなことになるとは思っていませんでした。

――イスラム国は、どんな場所でしたか?

横田 私が取材した14年と今では結構状況が変わっているとは思うんですが、イスラム国が首都とするラッカの治安はシリアの他の街に比べて良いと感じました。住民の話ではISISが統治する前は、子供たちが家の前で遊んでいたら、連れ去られたり、街中の銃撃戦に巻き込まれたり……ということがあったけれど、イスラム国が来てからはそういう危険がないと、住民は言っていました。イスラム法による厳しい統治、恐怖心を植えつけて抑えつけている分、秩序が保たれていると思います。

 メディアが報道しないのは、彼らが意外にも巧みに「国家」を運営しているという現実。今やロシアも敵にして、アメリカも敵にして、周りは全部敵だらけです。それでも、国だと主張して、いまだに頑張っていられる彼らの強さ。そこに住んでいる人たちは、彼らのやっていることに共感している人も少なくない。海外へ逃げる余裕がないということもありますが、アサド政権よりもイスラム国の方がマシと思って、住み続けている住民も多いと思います。外国人戦闘員の流入も減っていません。

 イスラム国では、イスラム法に反した者は容赦なく取り締まります。現在は誰もイスラム国内部の取材ができていない状況なので、謎が多いです

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