バンコク爆破テロ後、それでも夜の世界で生きる女性達の姿。

今年8月、タイの首都バンコクで、相次いで爆破テロが発生しました。現場となったエラワン廟は、繁華街の中心に位置し、現地の方や観光客が訪れる賑やかな場所でした。そのため多数の犠牲者が発生、事件は世界中で大きく報道されました。既に容疑者は何名か逮捕され、現地はだいぶ落ち着きをとりもどしているとされています。

バンコクは、物価は日本の約3分の1、東京から飛行機で7時間程度とアクセスもいいため、海外旅行先として日本人に馴染み深い都市です。実際に年124万人ほどの日本人が訪れているそうです。

そんなバンコクは、世界の中でも性産業が盛んな都市の一つでもあります。各産業形態は、様々な言語や文化に対応可能で合理化されたシステムと共に機能しています。関わっている人数もかなりのもので、一説によると40万人以上の性産業で働く女性がいるとされています。

これだけの規模となると、性産業だけでも相当量の外貨獲得を担っていることは事実で、タイを考える上で、無視することは不可能な産業に事実上なっています。

何らかの社会的不安定というものは、まずアンダーグラウンドと呼ばれる世界に影響を与えるものです。今回の爆破テロもまた、バンコクの夜の世界に大きな影響を与えているかもしれません。そこで8月29日に現地に入り、バンコクの夜の世界に生きる人達が今回の爆破テロ事件をどう認識しているのか取材を行ってきました。

◎政治とは無関係に生きる夜の世界の女性たち

現地では何名かの女性からの声を聞くことが出来ました。まずは女性たちの声を簡単に紹介します。

女の子A
「今回のテロのことは流石に耳に入ってきたけれど、実際に自分たちにどのような影響が起こるのかはよくわからない…。怖くないわけじゃないけど、目の前にある仕事以外に考えられない」

女の子B
「ちかくで爆弾が爆発したことは聞いたけれども、だれがなんでやったのかなんてわからない。バンコクでは、そういうクーデター(?)みたいなこととかに関わっている一部の人はわりとみるのでもう慣れちゃった。現場を見に行くなんてしないです。家とここ(仕事場)を往復するだけの毎日ですよ」

女の子C
「私達の生きてる世界は同じバンコクだけど別の世界なんです。世の中の動きに関心はないかな。。仕事をこなすだけ」

しかし、数名の女性の声を業界の代表として紹介できるほどバンコクの夜の世界に関わる女性の数は少なくはありません。そこで女性たちだけでなく、より踏み込んで、現地で業界全体の空気感を把握している存在にも取材を行いました。

あまり知られてはいませんが、バンコクには日本人観光客に対応するため、日本人の客引き&案内係が働いています。この記事では、客引き&案内係を務めているH氏からの情報と、私の知人であり世界のアンダーグラウンドな現場を取材しているジャーナリスト東海林裕士氏から聞きだした話を中心に記事を書きたいと思います。

Q:テロ後、繁華街や、闊歩していた外国人観光客に何らかの影響はありましたか?

A:(H氏)
テロ後数日は、軍隊の介入し、手荷物検査などが行われるなど繁華街も物々しい雰囲気となっていました。しかし2~3日後には、外国人の姿もすぐ戻ってきた印象があります。

A:(裕士氏)
何度もバンコクを訪れる外国人観光客にとっては、バンコクで何らかの政情不安が起きていることはもはや日常の一部として認識しているようです。数年前から、繁華街の中心にある警察署前で座り込みなども日常的に起きていますから、そうした認識が生じているのは、不安定を日常化させている影響かもしれません。

Q:バンコクの性産業に従事している女性はどのような背景をお持ちの方が多いのですか?

A:(H氏)
現地の方ですと、地方から仕事を求め出てきた子がほとんどではないでしょうか。カンボジアやマレーシアから出稼ぎできている女性も全体の3分の1程度います。国外からやってくる女性は、より稼げる環境を求めバンコクを選んでいます。業界内には海外の出稼ぎ労働者でも働けるようしくみが存在しており関わることのハードルは年々低くなっていると感じます。

A:(裕士氏)
残念ながら途上国では人身売買による売春斡旋が横行している現実があります。ところがバンコクにおいては少し事情が異なっています。

バンコクの性産業においては、強制されて仕方がなく働いているというより、とにかく仕事をし、収入を得て現状を変えていこうとしている、そういったモチベーションの女性は少なくありません。売春の是非など考えなければいけないことは山積していますが、実際手段として合理的に利用している方が多数派となっていることは確かな事実です。

クーデター等の不安要素は有りますし、政治への不満もあるかもしれません。しかしそれでも、今日を、明日を生きていくために彼女たちは毎日必死で働いている。そのように感じます。

Q:ここ数年でバンコクの性産業における動向になにか大きな変化はありましたか?

A:(H氏)
バンコクの経済的な発展とともに、夜の仕事を行う理由が、食うための理由から、おしゃれや、物欲的なものにシフトしていることを感じます。勿論、動機が貧困と無縁になったわけでは決してありませんが、物質的な欲求や、海外からもたらされる文化などが価値観に影響を与えていることは事実です。

A:(裕士氏)
今、バンコクの性産業に従事している女性の殆どがスマホを使用しています。そして、驚くほどLINEの普及率が高い状態にあります。日常的な友人たちとのやりとりだけでなく、仕事の連絡やツールとしてLINEが活用されています。バンコクはWifi等のネット環境がかなり安定していて性産業においてもモバイルの活用は一般的です。情報化社会がアンダーグラウンドのあり方を変化させているのは日本もバンコクもおなじです。

Q:慢性的に繰り返されているクーデターやテロは夜の世界で働く女性に不安を与えていますか?

A:(裕士氏)
たしかに近年のバンコクは都市開発が進み、ネット環境も圧倒的に整備されスマホやLINE文化などは普及してきました。情報の非対称性は薄まりつつ有りますが、殆どの夜の世界に生きる女性は現在タイが政情的不安定にあることや、その理由について把握していないというのが現実です。

しかし、今回のテロは繁華街近くで発生したために、事件をきっかけに、国内の政情不安等を認識した女性もちらほらでてきています。そういった意味では2014年のクーデターに比べ影響があった気がします。しかしテロを理由に仕事を休みたいと考える女性は少数派です。テロがあろうと、彼女たちは今日の稼ぎを得るための手段を止めるわけにはいかないようです。他の選択肢が乏しいという重たい事実がのしかかっています。

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バンコクの現状については、時間をかけより踏み込んだ取材を行いたかったと思いますが、短い時間でも取材を通し改めて確信したことがあります。

本当の「アンダーグラウンド」と呼ばれる世界に生きている人は、国や社会、政治の大きな流れへの不満を露わにしたり、国のリーダーにモノ申すことは行わないということです。今日の収入をどう確保するか? 今日をどう生き抜くか? それこそが最も重要なことだと考え日々を生きているからです。

そして、このスタンスは日本においても全く同じと感じます。

最近数カ月、国内では安保法案関係のデモが盛んでした。しかしながら日本の夜の世界に関わっている方々がデモに参加したり、安倍政権への不満を口にすることがほぼ皆無だったことは僕の立場だからこそ認識できている事実です。彼女たちもバンコクの夜の働く方々同様、現状に大なり小なり、なんらかの生きにくさは感じています。しかし、愚痴っても現状は変わらないということを一方で認識しているのです。

現状を受け入れて、今、具体的にやれることを淡々とこなすしかない。社会的困難を抱えている人たちの生き方は日本でもバンコクでも同じでした。改めて(政権やデモなど)政治的な領域が決して万能ではないのだと思い知らされます。

どのような局面であれ、困難を抱えている方を支えるためには、社会全体の大きな流れに働きかけるだけでは足りません。対処療法になったとしても、

立場を受け入れたうえでの相談機会づくりや、
個別の困難に対し制度の利用を薦めるなどの支援、
孤独を防ぐ場作り等、

こうした、“一隅を照らす活動”を行うことは避けることは出来ないのです。

角間惇一郎(かくま・じゅんいちろう)
1983年新潟県生まれ。一般社団法人GrowAsPeople代表理事。夜の世界に関わる女性のセカンドキャリアに関わる課題をデザイン的に解決する試みを行っている。URL: http://growaspeople.org Twitter: @kakumaro

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