この夢は妄想であり実在のエグザイルとは無関係です

◎枡野浩一 神様がくれたインポ/第四回
「この夢は妄想であり実在のエグザイルとは無関係です」

 『神様がくれたインポ』連載サイトの編集長から送られてきた「まるごとびわゼリー」をまるごと口の中で咀嚼しながら、この連載はこのままで大丈夫だろうかと不安になりました。誕生日プレゼントとして松田アキさんから貰った「生姜ジンジャーシロップ」を、私はお湯で割って飲むことにしました。生姜とジンジャーは同じものなので変な名前。きれいな紙ラベルを貼ったガラスのびんに入っているせいで、いっそう名前の変さが際立ちます。

 窓から見える花火を鑑賞する会だったのに、コップ一杯のビールでいびきをかいて眠ってしまったことがあります。という話を先週書いたけれど、よくよく考えたらあれは先輩芸人のマンションに初めて招かれたときではなかった。記憶が混じってしまっていた。あれは岸川真さんのマンションでした。岸川真さんは芸人ではなく、小説家です。

 よくよく考えてみなくても、私は先輩芸人の家に招かれたことなんてなかったのです。飲み会に混じったことは当然あったけれど。これからやっと親しくなれるかもしれないと思ったあたりで芸人事務所をやめてしまった。意図的に嘘を書こうと思ったつもりはありませんが、しらふの自分の脳が信じられません。嘘をつきたくて嘘ばかりついていた元相方と、嘘をつくつもりはないのに結果的に記憶がまちがっている私と。どっちもどっちだった。

 先週水曜日は作家の中村うさぎさんとトーク。木曜日はミュージシャンのセンチメンタル岡田くんとトーク。金曜日はコラムニストの小田嶋隆さんとトーク。本当は『神ンポ』のしめきりは木曜日でした。連日のトークで疲労困憊してしまって書けず、土曜日と日曜日も無為に過ぎた。本日は祝日の月曜日です。

 「生姜ジンジャーシロップ」をくれた松田さんは、アルバイトとして私の仕事を手伝ってくれていた女性で、肉体関係はありません。一般に男性が女性を個人的に雇う場合、やるものなのでしょうか。当時は薄給とはいえアルバイトを雇えるほど収入があり忙しかったのでした。吉祥寺に住んでいたから、同じく吉祥寺に事務所を構える作家の岡田斗司夫さんが若い女性とキスしている姿を見たことがあります。女性はタクシーに乗るところでした。そんなところでキスをしたら見られます。

 この原稿に名前を出す許可をとるため松田さん本人に連絡したら、《やってるんでしょ?と何回聞かれたことか……》と返信がありました。

 岡田斗司夫さんとは『マンガ夜話』というテレビ番組で一度共演したことがあります。元妻と籍を抜いた直後だから二〇一三年の八月だったか。楽屋で「うちは岡田さんの『フロン』を読んで離婚したんですよ」と事実を伝えたら、なぜか動揺しているようだったのが印象的でした。「おめでとうございます。それはよい選択をしましたね!」くらいは言うような方だとイメージしていたからです。

 『フロン』は当時の妻と回し読みして面白い本だったという印象だけ残っています。今はもう思いだしたくありません。岡田さん自身は離婚して正解だったのかもしれないし、自分の離婚を人のせいにする気もありません。ただ岡田さんがたくさんの女性を同時に恋人にする人らしいというニュースを聞いて、そのようなエネルギッシュな男の結婚離婚観を自分のようなインポが参考にするのは根本的にまちがっていた。という思いがぬぐえない。

 ネットには色々なニュースが落ちています。「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンは、肉を食べると生成されやすくなるそうです。肉を食べないから不幸せなのでしょうか私は。ベジタリアンは不幸せなのでしょうか。テレビマンがみんな参考にしているインタビュー本を書いた吉田豪さんはベジタリアンです。

 あのころ吉祥寺にベッシーカフェという喫茶店があり、居心地がよかったのでよく入り浸っていました。そこでも岡田さんと時々会いました。私がマックのノートパソコンで原稿を書いていたら、お洒落ですねとからかわれたことがあります。私はお洒落でマックをつかっているわけではなく、機械に弱すぎてウイルス対策とか全然わからなくて仕方なく選んだ機種だった。今もマックのキーボードの「め」は馬鹿になったままです。でも慣れた。故障のある状態に慣れて、故障をなおさないままにしてしまう。私の人生のようです。

 生姜ジンジャーシロップのお湯割りが喉に沁みます。風邪気味なのかもしれません。鼻水が出て涙も出るので花粉症も疑いました。以前ミュージカルに出演したとき共演した女優さんが、花粉症を疑う私のためにわざわざアレルギーに効くという「べにふうき緑茶」を送ってくれました。きのうはそれを飲んでいた。効いた気もするし効かない気もします。その女優さんが出演中の演劇はたしか今夜で千秋楽ですが、体調が悪いし仕事も片づかないし観に行かずに今は夜です。ごめんなさい。

 以前ミュージカルに出演したとき、さらりとそう書いたけれど私はミュージカルに出演したことが二度もあります。『僕は運動おんち』という小説を書いたことがあるほど運動おんちなのに。一度目は少ししか踊らない役でしたが二度目はけっこう踊りました。あまりに下手なので枡野浩一という人ばかり見てしまうとネットの感想にも書かれました。べにふうき緑茶をくれた女優さんには「枡野さんはいつも目立ってずるい」と言われました。

 なんだか何をやっても「ずるい」と言われているような気がします。客観的に見たら、ずるい男なのでしょうか。結婚中も妻に言われました。「子育てもしないで子供の可愛さを味わいたいなんて、ずるい」と。私は物凄く子育てをしているつもりでした。乳離れをしてからは寝かしつけを毎晩担当していたし、おむつもむしろ私しか取り替えていなかった。うんちのときのおむつ替えをしない男が多いという記事をネットで読んで驚愕しました。でもそういう男たちは離婚しておらず、子育てもしないで子供の可愛さを思うぞんぶん味わい、浮気だってしっかりとしているのです。

 エグザイルの人はおむつを替えるでしょうか。替えてたら世間的には好感度アップだろうけど枡野的にはイメージダウンだ。「おむつプレイ」をしているほうがマシなくらいです。

 姪っ子がエグザイルの絵を描いている こげ茶と黒がなくなりそうです (二葉吾郎)

 インターネットでやっていた枡野浩一短歌塾の受講生が詠んだ短歌です。お笑い芸人としてのネタにエグザイル短歌をつかおうとしたことがあり、自分でも大量のエグザイル短歌を詠んでみたけれど、結局ステージでいちばんウケたのは二葉吾郎さんの一首でした。エグザイルとは関係ない私の短歌で、ステージでウケたものも少しだけあるのですが、その短歌が自信作かというとそうでもなかった。自信作が笑いをとったことは全然なかった。

 ずっとあこがれていたエグザイルの下っ端メンバーになった僕。エグザイル兄貴たちに呼ばれてホテルの一室に行くと、そこは乱交パーティの会場となっていた。薄暗い照明。酒と、煙草やら何やらの煙。爆音で流されているエグザイルの音楽。腰づかいもリズミカルな兄貴たちのセックス。リーダーの妹であり、僕が少し恋心をいだいていた朱美ちゃんも、あられもない姿でやられてしまっている。

 「浩一、おまえも早くやれよ!」兄貴たちにそそのかされて、「ぼ、僕は、いいっすよ」一度は固辞したものの、「おまえ、きょうからエグザイルの一員なんだろ? 俺たちの歓迎パーティに混じれねえってのか?」怖い顔ですごまれて、しぶしぶ参加することにした。

 へっぴり腰の僕のセックスを見て、顔を見合わせて笑っている兄貴たち。「もっと腰つかえ!」「ほら、俺の動きに合わせて素早く動けよ!」「俺こっちやるから、お前そっちの口、担当しろ」口々に指導する兄貴たち。女の子は美形ぞろいだけど数が少なくて、どうしても「男女男」の3Pとかになってしまう。

 エグザイルの一員として恥ずかしくないよう汗だくになって夢中で腰を振っていたが、意識が朦朧としてきた何ラウンド目かの途中、ふと周囲を見回すと、兄貴たちはほかの女の子たちと、どこかへ消えていた。取り残された朱美ちゃんが僕のからだの下で、「こういうこと、浩一さんだけは、しないと思ってたのに」と涙をこぼす。僕は深く深く後悔しながら、あわてて引っこ抜いたが、朱美ちゃんの泣き顔に向かって勢いよく発射してしまう。とてつもなく後ろめたくて、気持ちよかった。

 以上は「ミクシィ」という友達しか読むことができないSNSで、二〇〇九年五月二十八日に書いた「エグザイルになる夢」の日記。先日アダルトビデオ監督の二村ヒトシさんとやったニコニコ生放送のトークイベントでも話したし、もう何度も人前で話してしまって興奮度は薄れてしまったけれど、昔はこのイメージでよく自分を慰めていた。ミュージカルに出演したとはいえダンスの下手さ世界一の僕が、エグザイルに入るなんて夢のまた夢。

 エグザイル先輩とか言ってても、全メンバーの中で私がいちばん年上なのだから、死んで生まれ変わらないかぎり可能性は永遠のゼロ。

(つづく)

■枡野浩一/歌人。1968年東京生まれ。小説『ショートソング』(集英社文庫)ほか著書多数。短歌代表作が高校の国語教科書(明治書院)に掲載中。阿佐ヶ谷「枡野書店」店主。二村ヒトシさんとのニコニコ動画番組『男らしくナイト』(第1回は9/24夜)、中村うさぎさんとのトーク企画『ゆさぶりおしゃべり』(第1回は10/7夜)など、最新情報はツイッター【@toiimasunomo 】で。

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