川島なお美も実践した「代替医療」。ニセ医学に詳しい医師が、その功罪を明らかに

 先月24日に胆管がんで亡くなった女優の川島なお美さんが、抗がん剤治療を拒否し〈ごしんじょう療法〉なる民間療法の治療院に通っていたことは、皆さまご存じのとおり。その報道を目にして「おまじない? 民間療法? 霊感商法? 邪気を取り除くとか言ってるから、よくわからないけど怪しげ~」なんて感想を持った人も多いと思いますが、ごしんじょう療法とは何かと言えば、〈代替医療〉の部類に入るでしょう。

 〈自然派〉な人たちが好むホメオパシーやアーユルヴェーダ(インド医学)、中国医学(中薬療法、鍼灸、指圧、気功)、アロマテラピー、食事療法、健康食品etc.これらも皆、代替医療の仲間です(オルタナティブ医療。ホリスティック医療と呼ばれることも)。代替医療とは、日本補完代替医療学会の定義によると〈現代西洋医学領域において、科学的未検証および臨床未応用の医学・医療体系の総称〉とされています。かみくだくと、〈通常医療の代わりに用いられる医療のこと。エビデンスは今のところなく、時にスピリチュアルも取り入れた独自の理論で治療が行われる〉とでも言えばいいでしょうか。

 しかしエビデンスがない=絶対に効かないというワケでもなく、中医学などは私たちの生活の中であたりまえのように目にすることができます。今回の川島なお美さん訃報に際し、微妙に〈悪者〉という印象になっている代替医療の扱い方を、『「ニセ医学」に騙されないために』(メタモル出版)の著書である内科医・NATROM先生に、ご教示いただきましょう。

 そのお説が正しいかどうかは、一般的に「論文があるかどうか」「データをしっかり読め」なんてチェック法をよく聞きますが、自分はちょっと(かなり?)お勉強が苦手なもので、正直読んでもよくわからずハードルが高く……。その代替医療が信頼できるかどうかを見極める、手軽な方法はありますか?

NATROM「ポイントをふたつに絞りましょう。まず第一に〈標準的な医療を否定するところ〉は避けてください。例えば『がんは手術や抗がん剤では治らない』『ワクチンを打つとかえって体に悪い』などと言い、『その代わりに○○療法を受けなさい』と言ってくるようなところです。標準的な医療を受ければ治るはずだった病気が、治らないなんてこともありえます。実際に、死亡者が出た事例もあります。代替医療は標準的な医療の代わりにはなりません。選ぶなら、標準的な医療と共存できるものにしてください」

◎信頼できるかどうかは見極められる

「第二に、あまりにも高額な代替医療は避けた方が無難です。医療の分野では〈高価な方が質が高い〉とは必ずしも言えません。質が高い医療とは、複数の研究で効果が証明され、多くの国で認められているものです。そういう質の高い医療は保険適応となり、普通の病院で一定の自己負担で受けることができます。一方、代替医療や民間療法は効果が十分に証明されていませんから、保険適応になっておらず、全額自己負担です。あなたがいくらでもお金を使えるならともかく、そうでないなら、高額な代替医療にお金をつぎ込むより、旅行や食事などの別の楽しいことにお金を使うのをお勧めします」

「標準的な医療だけでは不安なら、付け加えて何らかの代替医療、民間療法を行うのは必ずしも悪くはありません。それで不安が少しでも解消すれば、それだけでも役に立ったと言えます。しかし、標準的な医療を止めて代わりに代替医療を行ったり、買いたいものを我慢して代替医療に高額なお金を支払ったりするのは、割に合いません」

 ごしんじょう療法のHPを見てみると〈抗がん剤や放射線治療の副作用を除去し、がんの痛みを取り除く「緩和ケア」として〉行われているらしく、料金もさほど高額ではないというウワサ。巷で「怪しい!」と言われているほどのものではないのかも? しかし、実際に緩和ケアに有効かどうかというと、残念ながらそこまで都合よくはいかないよう。

NATROM「ごしんじょう療法は、緩和ケアに有効ではないと思います。信じている人にとってなら心の安寧ぐらいになるでしょうが、癌性疼痛(がんせいとうつう=がんによって生じる痛み)などの症状に効果があるとは考えにくいです。川島なお美さんの場合には、強い痛みなどの症状がたまたま生じなかったため、最後まで、ごしんじょう療法を続けられたのではないか、と思います」

 しかし中には、劇的に効いた!という人もいるようで、同HPには「鎮痛剤で効かないがんの激痛が、ごしんじょう療法で消滅」なる体験談が載せられています。冷えとり健康法でも手かざし療法でも(あ、これは宗教?)健康食品でも、巷の健康法において「アトピーが治った!」などの体験談が掲載されるのは、ど定番な手法。それを効果効能と受け取ってしまう人も少なくなさそうです。

NATROM「患者さんの経過を把握するために十分な医学的情報が含まれているのが、〈症例報告〉です。たとえば、年齢、性別、既往歴、生活歴、現病歴、診察所見、検査所見、画像所見、病理所見、診断根拠、治療法の詳細、経過などです。一方で、患者さんの主観が多く含まれるのが〈体験談〉です。『○○療法でがんが治った』という体験談はよくありますが、『がんが消えたと医師から言われました』とだけあって、がんが治ったと医師が判断した根拠が明確でなかったりします」

「体験談は、同じ病気の人同士が悩みを共有したり、医療者の視点から見落としがちな医療の問題点について気づかせてくれたりします。しかし、ある治療法の効果の有無を判断する材料にはなりません。また、代替医療の宣伝に使われている体験談の中には、医学的な観点からみてあまりにも不自然で、捏造されたとしか思えないものも存在するので注意が必要です」

◎なぜ医療不信は生まれるのか?

 ネットで出回る〈口コミ〉や検索した情報をコピペしただけのような〈適当なネット記事(バイラルメディアとか)〉も、その片棒を担いでいそう。しかし保険が使える一般的な医療があるにも関わらず代替医療を選ぶ人の中には、川島なお美さんががん治療を模索するなかでブログに「とんでも医者がたくさんいた!」と綴っていたように、〈医療不信〉がありそうです。こういった巷の医療不信は、どこから発生するのでしょうか。

NATROM「主にふたつの要因があると思います。ひとつが、現代医学が完全でなく欠点もたくさんあること。もうひとつが、現代医学の欠点をあおって利益を得る人たちの存在です。現代医学が治せない病気はいくらでもあります。治療にはどうしても一定の割合で副作用や合併症が生じます。病院での待ち時間は長いですし、説明不足だったり、態度が悪かったりする医療者もいます。医療ミスや薬害もあります。こうした現実が医療不信の原因です」

「私たち医療者の努力不足があるのは確かです。少しでも状況を改善できるよう、努力していきます。ただ、医療不信の原因の一部には、医療不信をあおって利益を得る人たちの存在もあると思います。標準的な医療を否定することで、代替医療を売ったり、出版や講演会でお金を取る人たちのことです。現代医学が不完全であるといっても、治したり、予防できたりする病気もたくさんあります。大事なのは、利点と欠点を正しく把握した上で、納得して医療を受けることです」

 典型的なのは、近藤誠医師の「がんもどき理論」(それなに?という方は検索!)ですね。

 また、代替医療とは少し異なるかもしれませんが〈反医療〉といえば、〈自然なお産〉を尊ぶ人たちの「医療介入のないお産こそが自然ですばらしい」という価値観も、女性の間ではよく知られています。それらの人たちも含め、代替医療を選ぶ人たちは〈代替医療者=患者の気持ちに寄り添ってくれる〉〈病院=患者の気持ちは無視〉というステレオタイプなイメージを持つ人が多い印象があるのですが。

NATROM「患者さんの気持ちに寄り添っている代替医療者もいるでしょうし、患者さんの気持ちを無視するひどい医師もいるでしょう。ただ、それだけではないと私は思います。〈嘘も方便〉が許されていた昔と違って、今では医師は患者さんに正確に情報を提供する義務があります。末期がんであれば『治りません』と説明しなければなりません。あるいは早期がんであっても、『手術がうまくいっても、○%は再発することがあります』と説明しなければなりません。もちろん、患者さんの気持ちに十分に配慮した上で説明するようにしていますし、正確な説明を行いつつ、患者さんを不安にさせないのも医師の技術です」

「しかしながら、厳しいことを聞かされる側は、どうしても医師の説明を冷たいと感じたり、不安が残ってしまうこともあるでしょう。一方で、少なくない代替医療者は、無責任に『完治します』『副作用はありません』と宣伝します。嘘をついていいのなら、いくらでも患者さんの気持ちに寄り添っている〈ふり〉ができるのです。本当に完治するならいいですが、治らずにいよいよ病状が悪くなってきて、普通の病院に丸投げしてくるケースもあります」

◎何事も主治医に相談すべし

 丸投げされた先で、治ればまだいいけれど……! 結局のところ、代替医療はどのような状況ならば、取り入れても問題ないのでしょう。

NATROM「標準的な医療と共存でき、安価で、安全であれば、代替医療を取り入れてもかまいません。共存と安価の話はしましたので、安全の話をしましょう。金の棒で体を擦るという、ごしんじょう療法は安全でしょう。しかし、代替医療の中にはリスクを伴うものもあります。たとえば、健康食品による肝障害を起こすことは珍しくありません。注射や点滴をしたり、口に入れたりするタイプの代替医療は、取り入れる前に信頼できる医師に確認をしたほうがいいでしょう」

「自分は冷静に判断できる」と思っていても、いざ深刻な病気になるとワラをもつかむ思いで手を出してしまいそうな代替医療。深刻な状況ではなくても、「何となく薬は嫌いだから」という理由で代替医療を選択する人もいそうです。

 この記事を目にする方の中には、まだ若く健康な人も多いと思いますが、今のうちに専門家のこうした意見に触れておき、いざ自分や家族、恋人や友人が病気になったとき、どうか適切な判断やアドバイスができるようになりますように。

(謎物件ウォッチャー・山田ノジル)

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