『老人たちの裏社会』著者 新郷由起さんインタビュー

「高齢者は弱者」という幻想を暴いた、『老人たちの裏社会』著者が語る“老いの孤独”

2015/10/25 16:00

■「老い」を自分のこととして考える

――最初は読むのがキツイだろうと思ったんですが、読んでみると暗いだけじゃなくて、たくましく生きている姿が救いでした。

新郷 『老人たちの裏社会』『下流老人』『老後破産』は巷で、“老後絶望3点セット”と言われているそうです(笑)。いずれも暗いテーマの本ですが、売れており、この本も読者として想定していた50代男性だけでなく、20~80代まで幅広い層の男女に読んでいただいています。年齢にかかわらず、誰もが「他人事じゃない」と、自分の老いを考える時代になっているのだと思います。

――第二弾の構想はありますか?

新郷 『老人たちの裏社会』は、“今”の実態を切り取っていますが、第二弾ではさらに突っ込んで、一人ひとりの人生をもっと深く掘り下げて描く予定でいます。彼らの生きざまを通じて、理想の老いとは何か、真に幸せな老後とは何かを問い、各々自らの人生を考えるきっかけの一つになれれば。来春刊行予定です。

――最後に、新郷さんはどんな老い方をしたいですか?

新郷 実は「この人のように老いや死を」と思う理想が3人いるんですよ。1人目が、小泉淳作という画家です。美術界や権威に媚を売ることなく、自らの芸術を追求して、80歳を前に畳108畳にも及ぶ大作、「双龍図」(建仁寺)の水墨画を完成させた。お披露目の式典で「我が人生、最良の日です」とスピーチする姿に心震えて、自分もそうありたい、と。私の人生のモットーは「克服と成長」なんですが、これを積み重ねて、「この作品を書けて、わが人生最良の日」と言えるような作家になっていきたいですね。

 2人目は、女優のオードリー・ヘプバーン。若いときはもちろんキレイなんですが、年を重ねてしわは増えても、若い頃とはまた違った美しい笑顔が印象的で。中年期以降は特に恵まれない人のために尽くして、顔に刻まれたしわの一つひとつに生きてきた誇りがにじみ出ている。確かな人生を歩んだ人だけが醸す「いい笑顔ができる老人」になることは、理想の一つですね。

 そして3人目が、小説家・林芙美子です。彼女は、編集者と打ち合わせをして帰宅後、書斎で執筆中に原稿用紙に埋もれるようにして亡くなり、翌朝発見されました。死に方すら物書きとして本望だったのでは、と、妙に心惹かれるものがあります。
 とはいえ、既に私は彼女の享年を過ぎて生きていますけれどね(笑)。

 正直なところ、「こうはなりたくない」事例をたくさん見てきているだけに、この3つの老いと死が合わさったらベストかな、と。そういう思いがいつも心の中にありますね。

最終更新:2015/11/11 00:06
『老人たちの裏社会』
若年者の社会からは見えずらいもうひとつの社会
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