[連載]海外ドラマの向こうガワ

格差大国アメリカに渦巻く不満を逆手にとった、勝ち組&負け組のバディドラマ『SUITS/スーツ』

2015/10/11 19:00
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『SUITS/スーツ』シーズン1 バリューパック

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディテールから文化論を引きずり出す!

 「自由で平等な国」を謳ってきたアメリカ。しかし、所得格差や不平等さを測る“ジニ係数”は、主要先進国の中でトップ。貧富格差が大きく「平等ではない」ことを明確に示している。高級ブランドを身にまとい、高級レストランで毎晩のように食事をする人たちがいる一方、アメリカ人の6人に1人が食事に困っているというのが現実なのだ。

 「アメリカンドリーム」に手が届くのはせいぜい中間層まで。貧困層が手に入れることは難しい。頭脳明細でも、生活のため進学を断念して働いたり、環境が悪く犯罪に手を染めてしまったり、貧しさから自暴自棄になることが多いからだ。

 2011年秋のシーズンに、格差にうんざりしていた世間の共感を得るドラマがスタートし、たちまち大ヒットした。恵まれない生い立ちで、運にも見放され、「負け組」に甘んじていた天才青年が、敏腕弁護士とタッグを組んで「勝ち組」の世界で働き出すという『SUITS/スーツ』である。

 物語の主人公は、ずば抜けた記憶力と頭脳を持ちながらも、両親を早くに亡くし祖母に育てられた青年マイク(パトリック・J・アダムス)。悪友にそそのかされて試験の替え玉をしたことで大学中退になってからというもの、司法試験の替え玉受験などの犯罪行為で食いつなぎ、夢も希望もない典型的な「負け組」の日々を送ってきた。ある日、入院している祖母の介護のために大金が必要になり、悪友に斡旋された大麻の運び屋をする。だが、それは警察のおとり捜査であり、察知したマイクは「ハーバード大卒の弁護士しか雇わない法律事務所」の採用試験会場に逃げ込む。面接をしていた、傲慢な敏腕弁護士ハーヴィー(ガブリエル・マクト)は、マイクの驚異的な記憶力とガリ勉たちにはない資質を高く買い、学歴詐称させた上で採用することを決定。クライアントは大物ばかりという超エリート弁護士事務所で、マイクはハーヴィーの補佐役として働き出す。

 アメリカは訴訟大国ということもあり、視聴率を得やすい弁護士ドラマ、法廷ドラマはこれまで数多く放送されてきた。だが「弁護士資格のない、身辺を洗われたら終わり」という状況に置かれた青年が主人公というドラマはなく、放送前から大きな話題に。第一話は460万人が視聴した。「弁護士資格のない者を故意的に弁護士だと偽らせて雇う」ということは現実にはあり得ない設定だが、下っ端弁護士やパラリーガル(法律事務職員)などの仕事内容、エリート事務所での熾烈な覇権争いはとてもリアルに描かれていると評判に。また、事務所が扱うケースは規模が大きく難しく,
なおかつ繊細なものばかりだが、物語はテンポよく展開していくため、気負うことなく見ることができ、なおかつ爽快感を得られると、たちまち人気ドラマの仲間入りを果たしたのだ。

■「勝ち組」の実情と苦悩をあぶりだす、脇役と名言

 この作品がヒットした要因はいくつかあるが、視聴者が最も興味を引かれたのは、なんといってもマイクとハーヴィーの関係だろう。マイクは天才的頭脳を持つが正義にこだわり、依頼人に感情挿入することが多い。ハーヴィーは自信に伴う実力がある敏腕弁護士だが、傲慢で冷酷。未熟なマイクが、類い稀なる記憶力だけでなく、さまざまな面でハーヴィーを補完する存在として毎回活躍する。「勝ち組」のハーヴィーと「負け組」出身のマイクは、性格だけでなく仕事のやり方、考え方、私生活も対照的。ぶつかり合うことも多いが、互いを尊重し、次第に唯一無二の相棒となっていく。その過程は時に法に触れるギリギリの綱渡りになることもあり、視聴者は目が離せなくなるのだ。

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