“理想の男らしさ”が重い。現代を生きる男性の抱える「生きづらさ」とは?

 男性のジェンダー意識の低さがたびたび炎上騒ぎを起こしている昨今。その原因の一端は「男の生きづらさ」にあった!? 今回は、男性学の専門家である武蔵大学・田中俊之先生に、桃山商事の清田代表がお話をうかがいました。

◎「男らしさ」と「カッコ良さ」が一致しなくなった現代

清田代表(以下、清田) 桃山商事は「失恋ホスト」といって、恋愛に苦しむ女性たちからひたすら愚痴やお悩みを聞かせてもらうという怪しげな活動をしているのですが、そういうことを続ける内に、「恋愛で起こる諸問題はほとんど男に原因があるのでは?」という極端な考えになっていきました。

田中俊之(以下、田中) messyでも男叩きの連載をしてますよね(笑)。

清田 はい、その名も「クソ男撲滅委員会」という……。そんな中、田中先生の『男がつらいよ─絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)を読んで、ハッとさせられたんです。男には男特有の「生きづらさ」があって、それは社会構造が生み出したものでもある。しかし、男性自身も、女性たちも、そのことをあまり理解していない。だからいったん落ち着いて、男性特有の「男性問題」について基礎から学びましょう──。そう説いた本書は、男女ともに必読の書だなと感じました。

田中 ありがとうございます。ジェーン・スーさんも「男がつらくなくなれば、女も少しは楽になる! だって男のプライドの皺寄せは、女子供にもくるんだもの。」という帯文を寄せてくれたんですが、男性問題に対する理解を深めることは、女性にもメリットがあると考えています。

清田 そこで今回はまず、実は男自身もよくわかっていない「男らしさ」というものについてお聞きしたいのですが、下記にそのイメージを列挙してみました。これに関してはいかがですか?

強い
女性を守る
勇気がある
決断力がある
頼りになる
経済力
武骨
そっけない
寡黙
言い訳しない
……etc

田中 確かに世間にはこういったイメージが流布していると思いますが、ここには新旧の男らしさが混在しているように思います。まず男らしさの定義ですが、社会学的には「その社会で男性が肯定的に評価される特性のこと」となるんですね。例えば昭和の時代であれば、お酒に強く、車が好きな男性というのも、肯定的に評価されたかもしれません。でも、今だったらどうでしょう?

清田 お酒に強いと「男らしい」ように見えるかもしれないけれど、飲み会の席で女性にお酌を強要するとか飲めない人にアルハラするとか、負のイメージも同時にあります。車に関しては、「若者のクルマ離れ」なんて言葉もありますし。「怪獣が好き」という項目も、“男の子っぽい”けれど、男らしさではないかも。

田中 寡黙とか素っ気ないというのも、今だと「コミュ障」って思われるかもしれないし、細かいことを気にしないというのも、「そんな人と一緒に仕事したくない」って受け止められてしまうかもしれない。

清田 1970年代には「男は黙ってサッポロビール」なんてCMも流行りましたが、それが今だとコミュ障に映ってしまうかもしれないわけですね(笑)。

田中 私が大学で行った「男性のファッション」に関するアンケート調査で、90年代に流行ったストリート系ファッションは「男らしいけどカッコ良くない」というイメージを持たれていることがわかりました。これはヤンキー文化などにも通じることだと思います。このように、男らしさは時代によってイメージが変わるし、さらに現代では、その概念自体、あまりに過剰だと鬱陶しがられるようにすらなっているわけです。

◎思った以上に強固な「男はかくあるべし」の固定観念

清田 だとしたら、今の時代に肯定的な評価を受ける男らしさというのは、一体どんなイメージになるのでしょうか。

田中 これがわりと厄介で、男性の生きづらさの一因にもなっています。

清田 それはどういうことですか?

田中 今って“マルチな能力”が求められる時代だと思うんですよ。源流はSMAPにあると思うのですが、「カッコ良くて、歌えて、踊れて、料理ができて、やさしくて、しかも、おもしろい」という魅力を持った彼らのブレークによって、男らしさのイメージは更新されました。

清田 確かに今の芸能界で売れている男性って、みんなマルチな能力を持っていますね。

田中 「決断力がある」「言い訳しない」「堂々としている」といった普遍的な要素も持ちつつ、そこにコミュニケーション能力や家事能力などがプラスされた、というイメージでしょうか。友だち同士で集まったらおもしろさを発揮できるし、彼女と二人きりでいるときは何かキリっとしてるし、いざとなったら頼りになるし、みたいな。

清田 なかなかハードルが高いですね……。

田中 そうなんです。そういう“理想の男らしさ”と、現実の男性とのギャップが、実はかつてないほど広がっているのが今の時代だと思うんですよ。特に私(※先生は今年40歳)くらいの「団塊ジュニア世代」は、昭和的男らしさと平成的男らしさの狭間で板挟みになっている。そういった男性たちに「40男(よんじゅうおとこ)」と名づけ、「現実を見つめて地に足の着いた生き方を見つけていこう」と呼びかけたのが新刊『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)です。

清田 「理想は理想、自分は自分」って割り切れればまだ楽かもしれませんが、社会から強制されるジェンダーロールを内面化してしまったり、「そういう男じゃないとモテない!」「ただしイケメンに限る!」等と思い込んでしまったりで、男性も自縄自縛に陥っているのかもしれませんね。かく言う自分の中にも、「いろんなことを高いレベルでこなしつつ、誰にも負けないスペシャルな何かがひとつ欲しい!」みたいな、非常にお見積もりの高い願望が正直あります。でも、現実は理想とほど遠く……そのギャップに苦しむ日々です。

田中 「男はかくあるべし」という固定観念は、思った以上に強固です。例えば草食系男子に対する批判は、「男は性に積極的であるべき」という固定観念の裏返しでしょう。挙げ句の果てには少子化の責任まで草食系男子が一部負わされてしまうんですから、たまったもんじゃありません。また、『男がつらいよ』にも書きましたが、男には「平日昼間問題」という困難もあります。日本の成人男性って、平日の昼間にブラブラしているだけで怪しまれてしまうんです。これも「普通の男は会社で働いているものだ」という固定観念によるものでしょう。

清田 子供好きの田中先生が、街で見かけた幼稚園児たちに微笑みかけたら、保護者たちから警戒されてしまったというエピソードも著書にありましたね(笑)。

田中 おそらく、「怪しい男がニヤついてる」と思われたのでしょう。手を引く親御さんが、心なしか足早になりました。とはいえ、私の中にも男性性に関する固定観念はやっぱりあるんです。大学の教え子に100キロくらいある柔道部の男子がいるんですが、一緒に飯を食いに行ったとき、彼に「今日はいっぱい食べていいよ」と勧めてしまったんですよ。でも実は彼、わりと少食タイプだった。

清田 大盛りハラスメント(笑)。「体格がいい男=たくさん食べるだろう」って、勝手なイメージを抱いちゃうことはありますね。

田中 そうそう。それって少食の彼にしてみればつらいことですよ。でも多くの場合、無意識・無自覚で我々は他人にそういうことを求めてしまう。だからこそ、固定観念は強固だなと思うわけです。

◎男性のライフコースがあまりに狭すぎる問題

清田 しかし、そういう固定観念に違和感を唱えること自体が、難しかったりしませんか? 例えば僕はフリーランスの文筆業者で、しかも自動車の運転免許を持っていないんですね。こんな感じで生きてると、会社員をやっている友人や諸先輩方から「お前このままじゃヤバいぞ」って頻繁に忠告を受けるんです。個人的には楽しい日々を送ってるつもりなんですが……そう言っても、なかなか信じてもらえない。

田中 男性のライフコースがあまりに狭すぎるという問題がありますよね。学校を卒業して、正社員として就職して、結婚して、マイホームを買って子供を養って、定年退職して老後は悠々自適に暮らす……と、男性はそういう人生を歩むことが「普通」とされていて、これ以外のライフコースがほとんどない。

清田 自分にはそんな人生、到底歩めそうにないです……。

田中 そもそもこれは、右肩上がりの経済成長を前提にしたライフコースだったんですよ。でも、バブル崩壊やリーマンショックを経て、男性の平均収入は大幅に下がっています。また、特に若い世代の不安的な働き方も問題になっていますよね。そんな現代にあって、かつて普通だった生き方はすっかり「普通」ではなくなり、むしろ一種のステータスにすらなっている。なのに、それ以外の選択肢がいまだに整備されていないし、固定観念からズレた男性の生き方に対してまるで寛容じゃない。

清田 社会は大きく変化しているのに、ライフコースが全然変わっていない。それも男性の生きづらさの一因になっているわけですね……。だとすると、どうすれば良いのでしょうか?

田中 ひとつは、やっぱり“実践”していくしかないと思うんですよ。例えば以前『AERA』(朝日新聞出版社)の企画でご一緒した小島慶子さんなんかは、「夫が仕事を辞める」という経験をされています。固定観念からズレたものに接したとき、人は基本的にビックリしますが、子持ち家庭で夫が働かないって相当のズレですよね。

清田 そうですね。

田中 小島さんはかなり柔軟な考え方の人だと思うんですが、そんな彼女ですら「ちょっとあり得ない」と思ったそうです。でも、お子さんもいるので、小島さんが働くしかない状況になり、今はそれで幸せに暮らしている。実際にやってみれば変わるんですよね。例えば男性の育児休暇なんかも一緒だと思うんですが、今は取得者が全体の2%しかいないからみんな怖くて取れないけど、これが10%とかになってきたら「取ればいいじゃん」って風潮になると思うんです。そうやって数が増えて、「俺もやっていいんだ」ってなれば、固定されたイメージも変わらざるを得ないわけで。

清田 空気が変わりますよね。例えば先生もツイッターでやり取りをされていた格闘家の青木真也選手が最近、自身のブログで「男だったら家族を養ってナンボみたいなのも働き方が多様化する中でその価値観を維持し続けるのは無理でしょう」ということを書いていました。格闘家って、旧来的な価値観で言ったら男らしさの極北にありそうな人ですよね。そんな青木選手が「男だったらとか男なのにってのが苦手と言うか理解出来ない」と発言した意味は大きいなと。

田中 『AERA』でも、2014年9月に「男がつらい」という大特集が組まれていました。男性問題に対する注目は、近年少しずつ高まっているように思います。

清田 でも、一方で男性に言葉を届けるのって、すごく難しいと思いませんか? 桃山商事の連載も、確かに「クソ男撲滅委員会」というタイトルからして男叩きみたいな内容になってる感は否めませんが、基本的には失恋ホストで見聞きした話をベースに、「女の人たちは男のこういうところに憤りや悲しみを感じている。だから一緒に気をつけていきましょう!」というメッセージを発しているつもりなんですね。でも男の人からは、「男をひと括りにするな!」という拒絶反応か、「あ~いるいる、そういう男もいるよね」って他人事感あふれるリアクションがほとんどで、言葉が響いている実感がまったくありません。

田中 それはとてもよくわかります。私の本にしても、男性に当事者意識を持って読んでもらえているかというと、正直言って微妙なところです。清田さんが仰っているように、どうしても男性たちは自らの問題について「他人事」な感じを受けますよね。

清田 男性問題を知ることは、男性自身の生きづらさを緩和することにつながるはずなのに……なぜ言葉が届かないのでしょうか? このあたりの話を、後編でじっくりうかがいたいと思います。

(取材・構成/桃山商事代表・清田隆之)

■田中俊之(たなか・としゆき)
武蔵大学社会学部助教。1975年生まれ。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。博士(社会学)。学習院大学「身体表象文化学」プロジェクトPD研究員、武蔵大学・学習院大学・東京女子大学等非常勤講師を経て、2013年より武蔵大学社会学部助教。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。2014年度武蔵大学学生授業アンケートによる授業評価ナンバー1教員。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめ、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍。著書に『男性学の新展開』(青弓社)、『男がつらいよ─絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)など。

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