井上肇先生インタビュー

「一晩で頭が真っ白に」「抜いたら増える」!? 毛髪医療の権威が、白髪の都市伝説をジャッジ

2015/09/06 19:00
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井上肇先生

――自分の白髪が、エイジングに伴うものか、インマチュアグレイヘアかを見極める方法はありますか?

井上 抜いた白髪の組織を調べることで、判断することはできます。ただ、ある一定の年齢までは全て若白髪と認識しておいた方が、希望を持てるのではないかと思います。社会的にみて、だいたい管理職に就いて仕事によるストレスが増える30代半ばくらいまでは、インマチュアグレイヘアだと思っていただいていいかと。また、先ほど述べたように、体の失調を表す大きなサインになることもあるので、白髪が増えたときには病気の可能性も気にかけてください。

――では、インマチュアグレイヘアの場合、メラノサイトの活動を再開させたり、メラニンの供給を促す方法はありますか? 最新の研究事情を教えてください。

井上 メラニンはチロシンというアミノ酸が原料になっているので、これらをメラノサイトへ投与してあげれば、メラニンの生成を促すことができます。ただ、メラノサイトの細胞は細長い形をしていて、中心にある核の周りにメラニンが貯蔵されるので、髪へ供給するためには細胞の先端まで運ぶ作業が必要となります。この働きを“順行輸送”というのですが、必要以上にメラニンを運ばないように、余ったメラニンを持ち帰る“逆行性輸送”という働きもあるんです。インマチュアグレイヘアの方の中には、逆行性輸送の働きが良すぎて先端に十分なメラニンを運べていないことがあります。そのため、逆行性輸送の働きを抑えてあげれば、先端に運ばれるメラニンの量が増えて、髪への供給が容易になるのではないかと考えられます。

 現在、最新医療としてその研究が進められていて、ある種の「ペプチド」がメラニンの輸送を促進してくれたり、メラニンそのものの合成を強めてくれたりすることがわかっています。今後臨床研究などを行って実用化を目指しているので、インマチュアグレイヘアの患者さんにとっては、将来的にある程度の治療が見込めるのではないかと思っています。

――その開発が実用化されるまでにできるケアや、まだ白髪になっていない人が今からできる対策があれば教えてください。

井上 一番大切なのは、食生活。よく「海藻が髪にいい」といわれますが、あれは海藻の中にメラニンの生成に必要なミネラル要素がバランスよく含まれているからなんです。ミネラルや良質なたんぱく質を一定量摂取することは、とても重要です。もう1つ、睡眠と起床のパターンも大切。我々の体には“時計遺伝子”というものがあって、メラノサイト自体もそれを持っています。そのため、不規則な生活リズムなどで時計遺伝子がかく乱されると、メラニンの合成のタイミングを狂わせることは往々にしてあります。あとは、紫外線もメラニンの脱失を招きますから、帽子や日傘などを利用して、強烈な紫外線に当たらないようにする工夫が必要です。

 「白髪は遺伝」ともいわれますが、受け継いだ遺伝子の発現は、その時、その方たちの生活スタイルに、かなり影響されます。食生活、質のいい睡眠と生活サイクル、紫外線対策をしっかり行うことで、メラノサイトの活動休止を妨げられ、さらにはメラノサイトの消失、つまり加齢による白髪化も遅らせることができますよ。
(取材・文/千葉こころ)

井上肇(いのうえ・はじめ)
聖マリアンナ医科大学特任教授、日本抗加齢医学会評議員、日本再生医療学会評議員、薬剤師・薬学博士・医学博士。幹細胞を用いた再生医療研究、食育からの生活習慣病予防、アンチエイジング研究を展開している。

最終更新:2015/09/06 19:00
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