【messy】

10万円のセッション、膣ハグ、ひとり宇宙…子宮を崇めすぎて魔女化する女たち

2015/08/04 20:00

 スピリチュアル界の〈セラピー〉には前世療法やインナーチャイルドなどさまざまなものがありますが、今、盛り上がりつつあるのが〈子宮系〉です。

 子宮は女性の生殖器であり、妊娠すると胎児を育てる部屋となる〈筋肉の塊〉なのですが、スピ的子宮論を唱える人たち曰く、この臓器にネガティブな感情やらカルマやらがたまるといいます。そんな子宮から湧きでる〈声〉は〈魂の欲求〉なので、その声に従って生きると何かしらのご褒美がもたらされ、幸せになれるという考え方です。また、やっかいなものがたまると同時に神聖なパワースポットであるとも謳われ、その根拠は〈子宮の「宮」は神社の「お宮」を表し、膣は参道の役割〉だからだそうで……。

 神道やタントラ教のそれらしいところをピックアップして、個人的体験と流行のスピ用語でコーティングしたような〈子宮教〉は、ここ最近、健康被害の注意喚起が促されるようになってきたジェムリンガ(膣にパワーストーンを挿入するというヒーリング)が、おそらく総本山的存在です。ジェムリンガの開発者は男性でしたが、それに続く子宮ヒーリング布教者は当然のことながら、ほぼ女性(まれに布教者のパートナーが便乗してイベント的なものを行っているようですが)。北朝鮮でいえば喜び組に相当するであろう〈子宮系女子〉たちが提唱するヒーリングの中から、注目度の高いものを次にご紹介しましょう。

◎子宮メソッド

 子宮委員長はるさんがレクチャーする、自己啓発法。ジェムリンガマスターでもある子宮委員長は、前出の子宮パワスポ説をベースに「子宮周辺の血管や神経は神様と人間をつなぐ龍神様の通り道=龍脈である」と解説。だから子宮を活性化させるほどに人脈運や金運もアップ! もしこれらを発揮できないのであれば、それは常識や世間体、固定概念トラウマ、母の呪縛etc.が凝縮された〈カルマ粒〉が原因なのだといいます。筋肉の塊である子宮にそんなドラマがあったとはねえ。

 このような〈子宮のしくみ〉を解説するDVDは90分9000円で販売され、個人セラピーである〈お宮様セッション〉はなんと90分10万円! 群を抜いて高額なヒーリングにも関わらずお布施を納める信者は少なくないようで、ブログを読むと年収2000万を超えた年もあるとのお話ですから、子宮系が盛り上がっているのは間違いなさそうです。

 子宮委員長がこのような子宮のしくみを発見したのは、風俗、中絶、挫折、鬱などを経験し〈神の存在を子宮に感じた〉という経緯があるのだとか。そんな子宮メソッドで聴くことができるという声は、業が深そうで恐ろしいような気がするものの、子宮委員長の夫のブログでは、ディズニーでどのアトラクションに乗るか否かも子宮の声に従って決めたから並ぶことも辛くなかった!という楽しそうな休日報告がアップされていたので、人によっては軽~いノリのお告げが聴こえるのかもしれません。

◎ひとり宇宙

 はじめて耳にするようなこの言葉は、〈幸せなセックスの伝道師〉である劒持奈央(けんもつ なお)さんが創作した、マスターベーションの造語です(ちなみにセックスは「ふたり宇宙」)。書籍『幸せなセックスの見つけ方~自分をまるごと好きになる『ひとり宇宙』レッスン~』(河出書房新社)によると、レイプ体験から心のバランスを崩し摂食障害で悩んでいた著者は、ひとり宇宙を通じて〈子宮が寄り添ってくれていてたこと〉を確認したといいます。そして、〈本来の自分を取り戻す〉ための〈ひとり宇宙〉を絶賛推奨中。

 本書で紹介されているひとり宇宙のやり方は特に変わった手法はなく、ごくノーマルなマスターベーションですが、こちらでも「子宮は宇宙&体内神社!」と謳われます。ただし子宮系と住み分けようと思ったのか〈膣〉にスポットを当てているのが特徴。膣に指を入れてキュッと締めることは〈膣ハグ〉、瞑想中の意識を膣へ向ける〈膣瞑想〉、低体温も〈膣冷え〉……と、もう何が何でも、まずは膣!!

 そして膣を活性化して自分の内面=子宮に向かいあうことが幸せなセックスにつながるのだと、説いています。さらに書籍だけではなく膣の潤いをキープする、著者開発の「インカローズ美容液」(30ml 12960円)も発売されています。膣を輝かせるのには、お金がかかるものですね。

◎子宮温め

『アラフォーからの女の生き方レッスンあげまん道』(心力教育出版)の著者であるちゃみさんも「子宮には幸せをもたらす力がある」と謳い、子宮を温めるケアを推奨しています。

 そもそも子宮はそう簡単に冷える部位ではないことはさておき、ケアそのものはカイロを張るなど現実的なものです。……が、子宮を温めると子宮にため込んでいた本音が出てきて生き生きと本来の力を発揮、そして周りを幸せにする〈あげまん〉になれますよというお説は、前出の2つと同様のスピっぷりです。しかしこういった〈女にしか理解できない〉と謳われるジャンルで、〈直観(ときに子宮感覚と言い換えることも)を大切に〉ということを繰り返し言われると、結局それは〈女に思考はいらない〉という定番の古き悪しき価値観につながるんじゃないですかね?

◎子宮信仰で魔女化

 さらにこのほか〈エナビューティスト〉や〈性愛セラピスト〉など、子宮推し女子はまだまだたくさん。これらすべての子宮系女子がというわけではありませんが、布教者たちのプロフィールを見ると、性犯罪や拒食症、親子問題などでメンタルヘルスの不調を経験した人が多いという印象。だからこそ、〈子宮パワーで試練を乗り越え、キラキラのリア充ライフをゲット〉というPRに説得力が出てくるのかもしれません。そんな布教者たちに引き寄せらえるシンパたちもまた、多かれ少なかれ、メンタルが弱っている人たちなのでしょう。

 今回この謎物件をウオッチングして感じたのは、子宮系女子というのは何かをすごく我慢して生きてきた人なのかもしれないということです。本音をなかなか口にできないから、〈魂〉や〈子宮〉といったものに代弁してもらうのです。それだけでなく、肉食系のセクシーさは苦手だけど女として認められたいし、特別な存在としてリスペクトもされたい。ついでにお金もあればいうことなし、という願望付き。現実的にそれらすべてを手に入れるのは相当難しそうですが、それが叶っちゃう! と誘うのが子宮系ヒーリング。そして高額な「お話会」の申し込みへ、ポチリという塩梅。

 この子宮系一連の動きをみていると、まるでアニメ作品『魔法少女まどか マギカ』だなと思います。少女たちがきゅうべえにスカウトされて魔法少女となったごとく、ソウルジェムの代わりにジェムリンガや子宮メソッドを手に自分の中の魔女(ネガティブな感情)と対峙。そして魔法少女が成長すると、魔女=布教者へとシフトチェンジして、「今のあなたは本当のあなたじゃない!」という呪いを振りまく存在に。一方、新たに魔女に挑む、魔法少女が生まれるという。

 マドまぎ(テレビ版)では物語ラスト、魔女という存在は消え去るものの、呪いは別の形となって街を脅かします。呪いはいつでも形を変え、闇の底から人々を狙っている……というオチでした。もし我々の世界でまどか的な救世主が現れて子宮教が消えたとしても、女の世界には冷えとり教や母乳教などの「●●しないと健康に、幸せなれない」呪いが生まれては消え……がくり返されていくことでしょう。ウオッチング対象が当分なくなることがないのも、間違いありません。

(謎物件ウォッチャー・山田ノジル)

最終更新:2015/08/04 20:00
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