トークイベント「すべての女はスカーレット・オハラである ~『風と共に去りぬ』に愛あるツッコミを入れる~」

世界中の女からツッコまれ、愛され続けるヒロイン“スカーレット・オハラ”という生き方

2015/07/25 19:00
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風と共に去りぬ』(新潮社)

■ヒロインなのに「失敗しても学ばない」「女友達が1人もいない」
 イベントではそんなスカーレットのみならず、「ツッコミを入れたいキャラベスト3」として鴻巣氏、中島氏&酒井氏が、それぞれ登場人物の中からツッコミたい3名を発表する形で進められた。

 それぞれ3位には、役に立たなすぎてスカーレットをイライラさせるお付きの黒人奴隷プリシー、スカーレットが金目当てで誘惑した気が弱すぎる2番目の夫フランクが挙げられ、作品に出てくる具体的なツッコミポイントや作者のミッチェルがそのキャラに込めたであろう思いが解説された。

 中でも、スカーレットの誘惑に悩み続けるアシュリーを2位にした中島氏と酒井氏は、彼の“思わせぶり”に猛ツッコミ。中島氏は「スカーレットがすぐ舞い上がる性格の人間だとよくわかっているくせに、好きだとか愛してるとか言っておいて最終的には拒否。いやいや、お前が好きだって言ったんだろ! って感じですよね」と熱弁を振るった。酒井氏も「傷つけたくないとして『NO』を言わないのが罪深い。でも男の人って、こっちが『わかるでしょ?』と思うことがわからないから、しょうがないんですかね」と擁護しながらも、「スカーレットがあまりにも油っこすぎるから、関係を持ったら今後手に負えなくなると思っていたんでしょう」と、結局はスカーレットの高カロリーな性格が仇だったことを指摘した。

 第1位には、鴻巣氏がメラニー、中島氏&酒井氏がスカーレットをランクイン。メラニーの純真すぎるがゆえに垣間見える狂気性についても話が及んだが、終盤は3人の独自のスカーレット考察で盛り上がった。

 スカーレットについて中島氏は、「もうツッコミどころしかない人間。捕まえたい男と捕まえる方法がズレすぎ。でも自分の中にはなぜか絶対的な自信があるのが、ある意味少女性があって可愛い」と評すると、酒井氏も「その方法に失敗しても学ばないのはすごいですよね。あと女友達が1人もいないところが大好きですね。そしてそれを気にしていないのも最高」と我が道しか行かないスカーレットの真っ直ぐすぎる性格には、2人はツッコミを越えた愛を語っていた。

 鴻巣氏もスカーレットの魅力について「ヒロインにして、常に蚊帳の外にいる存在。でも自分はセンターでいると思い続けている」と、からかいながらも「意中の男性を射止められないけど、28歳で2回の死別、3回の結婚、出産、起業と現代の女性がやるであろう全てのことをやった女性」と、激動の人生を耐え抜き続けるその強さには敬意を表す。

 そしてそうした彼女の生き様は、同世代の作家がみな「葛藤」をテーマに描いていたときに反骨精神を持って古い世代と新しい世代の強さ、そのどちらも描こうとしたマーガレット・ミッチェルの功績であることも語った。そして、「強さと弱さ、自立と依存、矛盾を孕んでいながらも多層性を帯びた、飾り気のない人間たちを描いた彼女の創造性こそが、後世にわたって語られ、翻訳され続けるゆえんなのでしょう」と締めくくった。

 本作では、ラストに出てくる有名なセリフ「Tomorrow is another day(明日は明日の風が吹く)」が「あしたは今日とは別の日だから」と訳されている。その理由について酒井氏に問われると「これはスカーレットがおまじないみたいに『大丈夫、大丈夫』と日常的に自分に言い聞かせて気持ちを静めていた言葉。ミッチェルが描きたかった素朴さやリアルを考慮すると、ここは大見栄を切ったり物語全体をセンチメンタルに締めたりするのは違う。明日に望みを託すようなキラキラしたハッピーエンドにもネガティブなバッドエンドにもならないような言葉を紡いだ」と、作家の意向をくみ取る翻訳家としての強いこだわりを見せた。

 幸せを追い求め、哀しくも懸命に人生を生き抜くスカーレット・オハラ。人生うまくいかないことばかりでも自分は失わない。今日も明日も色んなことがある中で、どうにか生き抜いていくしかないのだという彼女の生き様にツッコミつつも、共感を持って愛おしく思ってしまうのは、出版された当時の女性よりもむしろ、鴻巣氏の言うように現代女性の方なのかもしれない。
(石狩ジュンコ)

最終更新:2015/07/25 19:00
『風と共に去りぬ 第1巻 (新潮文庫)』
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