[官能小説レビュー]

家庭ある男の自宅でセックスする昼顔妻――『妻たちのお菓子な恋』があぶり出す、女の甘さと性

2015/07/06 19:00
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『妻たちのお菓子な恋』(主婦と生活社)

■今回の官能小説
『妻たちのお菓子な恋』(亀山早苗、主婦と生活社)

 昨年大ヒットしたテレビドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ)以来、不倫をしている既婚女性が注目されている。実際、書店ではドラマから生まれた“昼顔妻”という言葉を使用した本も目立つようになった。『昼顔』以前、不倫に走る妻の存在がメディアに取り上げられたことがなかったわけではないが、それでも世間では、「不倫=男性のたしなみ」というのが暗黙の了解だった。それが、このドラマによって覆された。

 今回ご紹介する『妻たちのお菓子な恋』(主婦と生活社)は、66人の婚外恋愛経験者である既婚女性たちの告白本だ。十人十色の不倫劇が赤裸々に綴られており、各話の最後には著者である亀山早苗氏からの“教訓”も書かれている。16年もの間、数え切れないほどの不倫・婚外恋愛経験者の話を聞いてきた亀山氏ならではの鋭い視点による教訓は、まさに「失敗しない婚外恋愛」のテクニックなのだ。

 本書には数々の事例が、出会い、デートなどの各シチュエーション別にカテゴリ分けされている。例えば出会い・相手選び編にある、39歳の女性の略奪体験談。安定した結婚生活を送っている女性が、ひょんなことから同僚の彼氏を奪ってしまう。きっかけは、彼に対して性欲を感じたこと。年齢の近い彼と音楽の話で意気投合するうちに、同僚の彼氏としてではなく“男”として彼を見てしまった。数カ月後に、同僚は彼と別れてしまうのだが、彼女との一夜が引き金となったのは定かではない。

「彼の家へ行く」などという、婚外恋愛では考えられないほど大胆な行動を取っている体験談もある。相手の妻が帰省中に、彼の家でセックスを楽しんだ38歳の女性。そこには、ダブルベッドのほか、仲睦まじい家族写真などが置かれている。相手の家庭に忍び込んでセックスをする――婚外恋愛のタブーを犯した彼女は、以後、恋人と会っていないそうだ。

 このように婚外恋愛をしている上で、必ず問題になるのがセックスだ。高校時代の友人と再会した女性は、いつの間にか彼と深い仲になってしまう。お互い家庭のある身だが、嫉妬深い彼は「家ではしない」と宣言する。彼女も彼の思いに答えるように、夫の誘いを拒み続けるが、結局は夫からの誘いに応じることになる。

 これらのエピソードに対して、亀山氏は、「恋愛か遊びかを自覚すること」「彼の暮らしを見ることはリスクが高い」「彼との関係を続けたいのなら家庭内でのセックスも受け入れる」と、鋭くアドバイスをしている。

 本書は、表題にもあるように婚外恋愛とは、“お菓子”であると唱えている。そう断言できるほどに、現在の婚外恋愛体験者の女性は、家庭外での恋を“楽しむもの”と受け止めているのだろう。守るべき家庭があるからこそ、ちょっとだけつまみたい“お菓子”としての婚外恋愛を求めているのだ。

 しかし本書を読むと、それを頭では理解していても行動が伴わないという女の性(さが)も見え隠れしている。本書に収録されている事例は全て失敗談であり、夫や身内にバレたり、読んでいてヒヤリとする、“お菓子”とはとても呼べないような体験談ばかりなのだ。そんな彼女たちに対する亀山氏の教訓は、メールのやり取りの仕方はもちろん、香水について、また相手の男性との別れ方にまで至り、正直「婚外恋愛って、そこまでバレないように気をつかわなきゃいけないの?」と感じるものも少なくなかった。しかし恋をすると、それがたとえ“お菓子な恋”だとしても、やましいものではないと思いたい、第三者からも肯定してもらいたいという女心の片鱗がのぞくのかもしれない。それは同時に、女の恋愛に対する甘さとも言えるだろう。

 ここ数年、女性の社会的地位が向上し、自由になる時間やお金が増えた。だからこそ、結婚しても恋愛やセックスを貪欲に求める女性が増えたことは、ごく自然なことのように思う。しかし、そこには必ずリスクが伴う。婚外恋愛という道を選ぶならば、守らなければならいことがある――あとがきにもあるように、亀山氏は決して不倫や婚外恋愛を推奨しているわけではない。しかし16年もの間、数え切れないほどの禁断の恋を体験している人々の声を聞き続けてきたことで、彼女たちのやるせない性(さが)を誰よりも熟知しているのだろう。本書は、安易に婚外恋愛に足を踏み入れようとする女性たちの反面教師と言える1冊であるとともに、彼女たちに「やるんだったら腹をくくれ、うまくやれよ」と言っているような気がする。
(いしいのりえ)

最終更新:2015/07/06 19:00
『妻たちのお菓子な恋:平日午後3時、おやつの時間に手がのびる』
昼顔妻は、止まらない列車に乗ってる
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