「ヤリマン」は男の精神安定剤!? “いろんな人とHしちゃう”ヒロインはなぜ脅威なのか

 毎日ネットに流れてくる膨大なトピックの数々。その中には、“男のクソさ”が原因になっているものも少なくありません。そんな話題を勝手に取り上げながら、桃山商事のメンバーが元気に言いがかりをつけていきます!

【今回のPick upコミック】
『あそびあい(全3巻)』(新田章/講談社モーニングKC)

◎「付き合ったら、なんで他の人とエッチしちゃダメなの?」

清田代表(以下、清田) 今回は、「このマンガがすごい!2015」にランクインし、『ダ・ヴィンチ』7月号でも取り上げられている話題の恋愛マンガ『あそびあい』(新田章)を取り上げたいと思います。

佐藤広報(以下、佐藤) いやあ、ショッキングなマンガでしたね……。

清田 表紙の紹介文には〈“いろんな人とHしちゃう”前代未聞のヒロインと、彼女を本気で愛しちゃった純情男子〉による“恋愛残酷物語”とあるけど、確かにこれは男を絶望的な気分に叩き落とす系のマンガかもね。

佐藤 乱暴に言えば「好きな女の子が自分以外の男とヤリまくってる」って話なわけで……私は読んでてめっちゃキツくなりましたよ!

清田 ヒロインの女子高生・小谷(おたに)ヨーコは、おかっぱ頭で化粧っ気もなくて外見的には全然ヤリマンの記号を持ってないんだけど、セックスが大好きで、セフレのような相手が何人もいる。で、彼女にずっと想いを寄せ続ける男子が、同級生の山下ハルユキ。物語は、二人の関係を中心に描いていく。

佐藤 最初は山下もセフレのひとりだったんだけど、恋愛感情があるから、小谷を“独占”したがるんだよね。その後、友人のアシストもあって念願の恋人関係になるものの、嫉妬や疑念に苦しみ続け、結局は別れてしまう。私自身も極度のヤキモチ焼きなので、山下に感情移入しまくってしまい、見ていてかなりつらかったです。

清田 実際、山下は付き合ってるときに小谷の浮気現場にも遭遇しちゃうしね……。

佐藤 しかも、謎の変態紳士の家でね……。恋人が知らないオッサンとメイド姿でソフトSMしてる姿とか見たら、私はその場で死んでしまうかもしれません。

清田 山下的には絶望的な場面だと思うし、これで別れが決定的になるのも確かなんだけど、じゃあ小谷が悪いのかというと、そうとも言い切れないように思えてくるのがこのマンガのすごいところで。

佐藤 どういうこと?

清田 小谷はその後、浮気を叱責してくる山下に対し、「付き合ったら、なんで他の人とエッチしちゃダメなの?」って聞くじゃないですか。

佐藤 私は目がテンになりました。

清田 言葉だけ読むと単なる“開き直り”にも見えるんだけど、彼女は純粋にそう思って聞いているんだよね。このマンガの特徴は何と言っても小谷の“セックス観”にあると思うけど、それと合わせて考えると、めちゃくちゃ恐ろしい問いにも思えてきて……。というのも、小谷ってセックスを「愛し合う二人の創造行為」とかじゃなく、単に「楽しいこと」「気持ちいいこと」という風に捉えているじゃない?

佐藤 そうですね。ひたすら自分の欲望と快楽に忠実で、男からの誘いに応じることもあれば、自分から求めに行くこともある。

清田 さらに、家が貧乏で“勿体ない精神”にあふれる彼女にとって、セックスは「タダで楽しめる遊び」なんだよね。だから、誰と何回しようが、「したいからしただけ」「機会があったからしただけ」で、それ以上の意味もそれ以下の意味もない。

佐藤 そのピュアな感じがまた怖すぎるけど……。

清田 小谷は他にも、学校の先輩、仲良しでもない同級生、臨時の講師、近所の大学生、よくわからないひとり暮らしの男、バイト先の冴えない男など、いろんな男たちと関係を持っているけど、彼女からすると、何というか「おいしいものをごちそうしてくれる人」くらいの感覚なんだと思うのよ。

佐藤 山下のことも、同じような感覚で捉えていたんだろうね。

清田 だとすると、さっきの「付き合ったら、なんで他の人とエッチしちゃダメなの?」という問いって、どう答えるべきか、よくわからなくなってこない? 例えば「そういう決まりだから」と答えたところで、小谷はその前提を共有してないし、「俺が他の女子とエッチしてもいいの?」と聞き返しても、小谷は「いいよ」と答えるだろうし。

佐藤 確かに、どう答えていいかわからないかも。事実、山下もうまく答えられてなかったしね。

清田 よく、子どもが「何で人を殺しちゃいけないの?」って無邪気に質問して大人を困らせる場面があるけど、小谷のセリフも、それに似ているような気がして。

佐藤 何だか哲学っぽい話になってきましたね……。

◎「ダメ」の理由ではなく、「イヤ」という感情から考える

清田 そもそも、なぜ恋人以外の人とセックスしちゃダメなんだろうか?

佐藤 いや、なぜも何も、普通にダメでしょ。一応そういう暗黙の了解のもとに恋人関係を結ぶのが現代の恋愛なわけで。

清田 例えばこれが婚姻関係だったら、民法770条で「不貞行為だからダメ」と規定されているみたいなのね。つまり、それは刑事罰には問われないものの、損害賠償請求可能な違法行為となる。でも、恋人同士にそういう明確な決まりはない。だから、厳密にはダメと言えないのかもしれない。

佐藤 う~ん。

清田 桃山商事では彼氏の浮気に苦しむ女性たちの話をよく耳にするので、個人的にもダメなことだと思うし、「相手を傷つけるから」「信用を失うから」「病気の危険性が高まるから」「社会が保てなくなるから」などなど、本やネットにも様々な観点からダメの理由に関する説明があった。だけど、ここで考えるべきはそういうことじゃないような気がしていて。

佐藤 というと?

清田 どこまで行っても「ダメ」の根拠は正直わからないんだけど、一個人として、恋人が自分以外の人間とセックスしたらやはり「イヤ」だなとは思う。だから、根拠を理屈で探るより、何でイヤなのか、己の心を掘り下げた方が有効なアプローチではないかと思って。

佐藤 あ~、なるほど。それなら自分自身の問題だから確信を持って語れるかもね。でも、何かそれ、自分のカッコ悪い部分がいろいろ露呈しそうで怖いな……。じゃあ、清田代表は何でイヤなの?

清田 マンガを読みながら感じたのは、「もしかしたら俺は、自分以外の男を“汚い生き物”だと思っている節があるんじゃないか……」ということで。

佐藤 どういうこと? 多くの男性を敵に回しそうな発言だけど。

清田 私、男同士のキスが絶対にできないんですよ。ホモセクシュアルではなく、ホモソーシャルな意味でのキスね。飲み会とかでふざけて男同士がキスしたりする場面もあるでしょ? あれがまったくできない。もっと言うと間接キスも苦手で、極力避けようとしてしまう。

佐藤 確かに昔から代表ってそういうとこあるわ。サッカーの試合でペットボトルの水をまわしても、絶対に口をつけないもんね。その一方で、代表は男のチンコや身体に触ることは躊躇ないじゃないですか。その線引きがイマイチ謎なんですが。

清田 そこは自分でもよくわかんないんだけど……とにかく、恋人が自分以外の男とセックスしてるシーンを想像すると、どうしても相手の男が汚らしい存在に思えてしまい、女性側が“被害者”のように見えてしまう。実際にこのマンガでも、山下以外の男はキモそうなオッサンだったり、ダメそうな大学生だったりと、ある種の“嫌悪感”を催させるような描写になっているんだけど、自分もこういう感じの想像をしてしまうところがあるなあって。

佐藤 それは何かちょっとわかるような気がする。「清らかな存在である自分の彼女が、気持ち悪い男たちに犯される」みたいなイメージね。

清田 そうそう……。だから、変態おじさんが小谷の全身をべちょべちょに舐めるシーンとか、見ていてホントつらかったわ。でも、当の小谷はそれに強い快感を覚えていて……読んでていろいろ混乱しました。

佐藤 なるほど。要するに、男同士のキスができないってことと、彼女が他の男とセックスしたらイヤだってことが、根っこの部分でつながってるってわけか。

清田 うん。もっとも、その感覚の中にはどこか「ホモフォビア(同性愛嫌悪)」や「ミサンドリー(男性嫌悪)」がビルトインされてるような気がしなくもないので……これを機に自己省察を深めたいと思います。

◎「口説く」や「股を開く」という言葉が意味するもの

清田 佐藤広報はいかがでしょう。

佐藤 私は昔からめっちゃ嫉妬深いので、彼女が他の男とセックスしてるとか、想像しただけで気が狂いそうになります!

清田 何でそんなにイヤだと思うの?

佐藤 端的に言うと、「負けた気がするから」なんだと思います。「その男が俺より“上”だったからセックスしたんでしょ?」という風に考えてしまい、敗北感にかられる……。私は何度か恋人を寝取られた経験があるんですが、こんな気持ちになって爆発しそうでした。

清田 それって、何をもって“上”ってことになるの?

佐藤 ルックスとか、スペックとか、コミュニケーション能力とか、そういう要素ですかね……。とにかく、総合的に私より上だと判断したから、彼女はその男とセックスをした。そんな風に考えてしまうわけです。

清田 逆に言えば、自分が彼女の中で“一位の男”でありさえすれば、彼女が他の男とセックスすることはないってこと?

佐藤 そうですね。彼女の男友達とかに嫉妬するのも、その座を脅かされるような気がするからだと思う。

清田 その発想で行くと、小谷のセックス観はまったく理解できないよね。だって、別に「山下より上」だから他の男とセックスしてるわけではないので。ていうか、むしろ「山下のエッチは他の人よりいい」とも言っている。

佐藤 そうなのよ。そこが最も恐ろしかった部分で。というのも、私の中にはおそらく、「女の人は男をジャッジする明確な基準を持っていて、その数直線上で我々男は競い合っている」という発想があるんですよ。だから、自分ががんばればセックスできるし、恋愛関係にもなれる。自分がちゃんと“いい男”でいさえすれば、彼女が浮気することはない。

清田 ずいぶんシンプルな思考モデルですね……。

佐藤 でも、小谷を見てると、女の人は必ずしも明確な基準で男をジャッジしてるわけじゃないことを突きつけられるよね? 「何となくエッチしたかったから」なんて理由で他の男とセックスされちゃったら、こっちとしてはもう打つ手がないわけです。

清田 そっか。コントロールできないから怖いってことか。めっちゃ身勝手な考えだとも思うけど……案外これって多くの男が持ってる感覚かもね。というのも、「口説く」とか「股を開く」なんて言葉が表しているように、男の中には、「セックス“したい”のは常に自分たちで、女の人は受動的にそれを“待ってる”ものだ」という発想が根強く存在してるでしょ。

佐藤 で、女がセックスを受け入れるかどうかは、男の魅力次第だって考えてるんだよね。女の人にブチ殺されそうですが、そう思い込んでる節が確かにある。こうやって考える方が楽なんだよ。理解しやすいし、すべては自分次第だと思えるから。

清田 小谷の存在は、その発想を根底から揺さぶってくる。だから、このマンガは男を恐怖のどん底に突き落とすのかもしれない。

佐藤 彼女は総じてパッとしない男たちと関係を持ってるよね。これがモテ男や人気者とかだったら、「※ただしイケメンに限る」が使える。敗北感はあるけど、基準自体はブレないから、ある意味で理解できる。でも、「ルックスで負けたから」でも「コミュ力で負けたから」でもなく、彼女は“自分の意志”でセックスをしている……。女の人だってこういう考えをするんだぞって事実を直視するのが、めっちゃ怖い。

清田 前提となる基準が崩れたという意味で、“物理法則”が覆されたような体験なのかもね。

佐藤 そうなんだよ。「ってことは、他の女の人もみんなこうなの!?」って可能性が生まれるでしょ。自分の彼女とか、奥さんとか、仲良い女友達とか、みんな小谷のような感じだったらどうしよう……って考えるようになっちゃうから怖いんだよ

清田 そっか。逆に言うと、男はそうやって混乱するのが怖いから、“物理法則”からはみ出た女の人に「ヤリマン」「ビッチ」「淫乱」「メンヘラ」みたいなレッテルを貼るのかもしれない。小谷にしても、ネットではやたら「清楚系ビッチ」と呼ばれて嫌悪されてたわけで。

佐藤 “普通”の女は受動的で、股を開く開かないは男の魅力次第。逆に、自分の快楽や欲望に忠実で、セックスにアグレッシブな女は“異常”である──。そういう二元論的なフレームにハメ込んだ方が、心の安定が保たれるんだよ。

清田 そう考えると、「ヤリマン」や「ビッチ」って言葉は男の“精神安定剤”なのかもね。messyの編集長が「ヤリマンのセックスに“心理的な深い意味”を見出そうとする男が興味深い」と言っていたけど、それも同じことのような気がする。

佐藤 何だか死にたい気分になってきましたね……。

清田 ともかく、『あそびあい』は男の身勝手で貧しい女性観を根底から揺さぶってくる作品であるということで、我々も男子への布教活動に努めていきましょう。

■桃山商事 清田代表・佐藤広報/二軍男子で構成された恋バナ収集ユニット「桃山商事」。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆など、何でも手がける恋愛の総合商社。男女のすれ違いを考える恋バナポッドキャスト『二軍ラジオ』も更新中。コンセプトは“オトコ版 SEX AND THE CITY”。著書『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)が発売中。

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