男性特権は、どこから崩されるか

 先週、はてなブログの「『レイプするなとさえ言われない』:トランス男性の目から見た男性特権25例」という記事を興味深く読みました。元ネタはアメリカのフェミニズムwebマガジンに掲載された、FtM(女性から性転換をおこなった男性)の著者がトランス男性の視点から「男性になって変わった周囲の扱」について25のポイントをまとめたもの。社会的に女性として成長してきてから男性に性転換した彼の意見だからこそ、これを男性が読んだときに「こんなの、女性のひがみだろ」とあしらうことはなかなかできないと思います。

 私は個人的に、

「(女性よりも)真面目に話を聞いてもらえる」
「給料が増えた」
「山ほどたくさんのことを見逃してもらえる」
「成功すると、純粋に本人のガッツのおかげだとみなされる」

 という仕事がらみの特権ポイントが、特に身に沁みました。これらはすべて「女性は男性より仕事ができない」という偏見に基づくものだからです。

◎女性にはマネジメントは無理? 根強い偏見

 「女性が輝く社会を~」などと歯に浮くようなことが世間で言われていても、仕事をしているとナチュラルに女性蔑視発言をする人に出会うことがしばしばあります。

 私は会社員9年目ですが、ある先輩男性社員が「男性と女性を比べると、女性のほうが良くできるように見える。個人プレーは得意な人が多いんだよ。でも、女性はマネジメントとか交渉ができない。女性に交渉をやらせると、絶対に自分が全部勝ちにならないと気が済まない、みたいになって上手くいかないことが多い。交渉って0か1かの勝負じゃないじゃない。こっちが7割勝って、3割は相手に持たせる、ぐらいじゃないと交渉にならないんだよ。女性にはそのへんの感覚がわからない」と言っていたのに出くわしたことがあります。

 なんだかもっともらしく仕事論を語っているように見えますが、かなり女性の能力に関する偏見に満ちた意見です。前述の先輩は、誰か特定の女性社員に対して「この女は交渉の感覚がわかってないな~」と不満に思ったのかもしれませんが、その“1人の女性”を、すべての女性に当てはめたうえで、「だから女は……」と断罪することに、疑問を感じます。「2020年には女性管理職比率を30%に増やす」という目標が内閣府の旗振りのもとで立てられていますけれど、さも当たり前のように「女性にはマネジメントや交渉ができない」と断じる意見に出くわすとその目標達成は、難しいんじゃないか、と感じざるをえません。

◎男女比のバランスの悪さが女性への偏見を生む?

 とはいえ、男性特権の記事が身に沁みたのは、私自身にも女性蔑視的な偏見があるなあ、と思い当たる節があったからです。私の現在の職場は、総合職の男女比が8:2ぐらい。男性、というかおっさんが多く、逆におばさんの総合職が極端に少ないアンバランスな状態にあります。ちなみにおばさんでない女性は非常~~~に少ない。このアンバランスな人員配置は、偏見を生みやすい環境の一因かもしれません。

 たとえば、ただでさえ少ない女性のなかで、悪い意味でインパクトのある女性(なにか指摘すると超ヒステリックに反論してくるだとか、絶対自分の非を認めないとか、仕事を依頼してもやってくれないが依頼は頻繁にしてくるとか!)がいると、その人個人への悪い印象が、他の女性へのイメージに波及してしまって……。ヒステリックな反応が多いのは彼女個人の、単独の問題なのに、つい「女性はヒステリックな反応をする」と大きな主語に還元してしまう、というか。それが回り回っていくと「女性はすぐヒステリーを起こすから議論ができない」という偏見に結びついてしまいます。

 前述の先輩が持っていた「女性にはマネジメントや交渉ができない」という偏見も、そもそも少ないサンプルから抽出した印象論でしかないものでした。一方で、おっさんの場合はサンプルが多いので、ヒドいおっさんがいたとしても、その悪印象が「男性」というマスに投影されることは少ないのでは……? またたとえ話で恐縮ですが、1人の不潔で臭くて仕事のミスが多い40代の男性社員がいたとして、女性社員から「男って本当に臭くて汚くて仕事もできない、最悪の生き物よね」と一括りに罵られることはあるでしょうか。たとえあったとしても、「いやいや、そんなこと言ってる女のほうがおかしい」となりそうですよね。また、先ほどの先輩は「おいおい待ってくれ、俺はそんなことないぞ」といの一番に言い出しそうです。

◎女性への偏見を解消するために経営者がしていること

 ふと、以前に従業員500人ほどのIT企業の社長にインタヴューした経験を思い出しました。その際「政府が掲げている『女性管理職比率30%』の目標に対して、なにか会社として取り組んでいることはありますか?」という質問をしたところ「女性にはハイヒールを履かせたら良いと思っているんです」という答えが返ってきたんですね。

 一瞬「女性は女性らしくハイヒールを履かせる」みたいな女性性の押し付けなのかと思って驚いたんですが、その社長さんの言わんとしていることは、「女性を評価するときには下駄を履かせて点数をつける」ということでした。その社長さんの会社では、同じぐらいの実力がある男女がいたら、ハイヒールを履かせて女性のほうを高く評価する方針が敷かれているようでした。

 「そんなことをして男性から反発はないんですか?」と私は尋ねました。返ってきたのは「当然あるでしょう。しかし、そうでもしないと、いつまで経っても女性管理職は増えないですし、男性中心の価値観は続くと思いますよ。いつまでも男性中心でいる会社は、将来的には滅びると考えています」という答えです。トップダウン式にこうした改革が広まっていけば、少しずつ男性特権による男女の格差も埋まっていくのかもしれません。

■カエターノ・武野・コインブラ/80年代生まれ。福島県出身のライター。

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