元カノと復縁して主夫になるにはどうすればいいですか?

ローマは一日にして成らずという言葉がありますが、ダメ人間も一朝一夕に出来上がるものではありません。

働かない、家から出ない、何もしない、今現在人間のクズのロイヤルストレートフラッシュ状態であるところの僕ですが、やっぱり大学時代もまた、それはもう類い稀なるどうしようもないダメ人間として名を馳せていました。

大学二年の頃、19の春に、一人暮らしを始めたときのことです。えんやえんやと引越祝いに周囲が持ってきた酒瓶の数々。その頃初めて付き合った彼女にフラれたばかりで凹んでいた僕は、思いつきで水の代わりに酒を飲む生活を始めました。

朝起きてまず一杯、それから「お~いお茶」のペットボトルに冷やしていたビールを注ぎます。ペットボトルに入れたビールは、よく見ないと緑茶と見分けがつきません。それを大学の授業に持ち込んで、後ろの席でチビチビやる。ときにはそれはポケット瓶や日本酒に置き換わり、学食で昼食をとるときも、密かに酒を飲みながらでした。講義が終わると自分の部屋に後輩を連れてきて朝まで飲み続け酷い騒ぎを繰り広げ……という堕落した日々を1カ月くらい過ごしているうちに、さっぱり大学に行かなくなりました。元々人間嫌いの僕、そのうち他人と会うのも億劫になり、朝から晩まで一人で酒を飲んでばかりいるようになりました。1カ月ぶりにふっと鏡を見ると、見事に死相が出ていました。これ、まずいな。

簡単にビビって改心した僕はすぐに断酒。その日のうちに徐々に体調が戻ってきて、翌日はなんだか生まれ変わったような晴れやかな朝を迎えました。

朝起きて珍しく体調も良いし、シャワーも浴びてドライヤーを当てると髪型もバッチリ決まってる、そんな、なんか今日の自分マジでイケてるぞ、ってときたまにないですか? その日の僕がそうでした。自信溢れる足取りで、1カ月ぶりの登校、あと1日休むと単位を落としてしまう必修の授業の小教室に遅刻しつつも入っていくと、中はガランとしていました。黒板には、無慈悲に「休講」の2文字。がくっ、とずっこけながら視線を移すと、教室には見知らぬ人間が二人いました。話をきくと、今日は休講なのだけど、授業でわからないことがあれば質問を受け付けるということで、講師の先生がやって来ていたそうなのです。そして、先生以外にもう一人、休講なのにわざわざやって来て律儀に授業の質問をしていたクソ真面目な留学生のミョンちゃんと、僕は出会いました。

ミョンちゃん「あ、有名人の奥山くんだ。人間嫌いで文学オタクで落伍者に憧れてる、滅多に大学来ないレアキャラだ! ねぇ、いつも授業中ペットボトルにビール入れて飲んでるって噂本当?」
僕「そっちこそ、謎多き美人留学生のミョンちゃんだ。日本人と韓国人のハーフで、韓国にいたとき詩で賞を幾つも受賞して作家をしてたって?」

そのとき僕はミョンちゃんに一目惚れ。以後たまに授業中口をきくようになり、ノートなどコピーさせてもらったり、忘れた教科書を見せてもらったり、お互いの部屋を行き来したり、1年間ちんたらと会話を続け、紆余曲折あって付き合うようになりました。

◎元作家のミョンちゃんと作家志望の僕

文学部の同級生のミョンちゃんは実は僕より5つ上の25歳、何やら深刻な経験をいくつも経て、作家をやめて、色々訳あって日本に留学してきていたのでした。

ミョンちゃんは苦学生で、給付奨学金をもらいながら、水商売で稼いだお金と合わせて学費と生活費を全て一人でまかない、生活していました。ごくたまに、自転車に二人乗りして彼女を店まで送り届けて、そのまま店で酒を飲んで一緒に帰るということがありました。ある日、その店の店長と、3人で話していたときのことです。

ミョンちゃん「奥山くんはいっぱい本読んでてなんでも知ってるの、凄いんだよ」

その頃文学部に在籍していた僕は、何故か本を読んでいる人間はカッコ良いという、あまりに意味不明過ぎる不思議ムードのあおりを受け、微妙に人生最初で最後のプチモテ期を享受していました。

店長「じゃあ奥山くんは、将来作家になるんだ?」
僕「……なれる訳ないじゃないですか、そんなの。どれだけ難しいと思ってるんですか。1000人に1人とか、そういう世界ですよ。無理でしょ、そんなの」
店長「いや、やってみなきゃわからないじゃん」

イラついてきた僕は無言で先に店を出て、路地裏のゴミ箱をひっくり返しながら叫びました。

「見透かしたようなこと言いやがってあの野郎、ムカつくんだよ!」「帰ろうよ」いつの間にか背後に来ていたミョンちゃんを乗せて、自転車二人乗りで終電過ぎの鴨川を渡りました。「奥山くん、私、もう働きたくない! お酒、一滴も飲みたくない。助けてよ」

大学時代、ミョンちゃんはいつも泣いていました。やめちゃえよ。なんて言えるわけもない。僕に言えることは何もない。何故なら僕は卑怯者だからだ。例えば何を言えばいいのか。

あのさ。実は隠れて小説書いてるんだ、恥ずかしくて今まで言えなかったけど、最終選考まで残ってるんだ。もしさ。賞とったら、賞金全部あげるから、仕事やめてよ。

そんなの、最低じゃないか。もちろん言わなくて正解でした。バッチリ落ちたんだから。「このまま時間が止まればいいのにね」ミョンちゃんはそう言うけど、当然時間は止まらないし、嫌でも僕たちは歳をとり。就活が始まったあたりから、ミョンちゃんは僕に不満そうな態度をみせるようになりました。

僕にはやりたいことなんか何もない、残業が少なくて仕事がラクな会社に就職して、ワークライフバランス、年功序列の終身雇用、媚びへつらって要領よくすいすい会社員人生を送ってくのが正解なんだ。やりたいこととか、やりがいとか、そんなの生きてくのに何の必要もない、金を稼ぐのに理由なんかいらない、青臭いこと言ってるより、現実的な生き方を選択すべきだ。

……なんて死んだ目で言いだした僕を、ミョンちゃんは激しく罵倒するようになりました。「本当に何もやりたいことないの!? そんな人だとは思わなかった」

喧嘩が絶えなくなり、別れて、くっついたり離れたりを繰り返しながら愛情をすり減らしていくパターンに入りました。幸いどっちも一部上場でそこそこの会社に総合職で内定、二人とも東京勤務になったのですが、このあたりからいよいよお互いの気持ちが離れていきました。

韓国語と日本語の他に英語も出来る聡明なミョンちゃんは、語学の才能と天下無敵のコミュ力、おまけに文学部卒なのに何やら難しげな数式まで使いこなしてバリバリと仕事、一方の僕は会社に入ってすらいじめられて、何故かしばらく現場で肉体労働をするハメに。で、ちょっと体を壊したりしました。

「奥山くん、学生時代のオーラ、もう完全になくなったね。汗臭いし髪型気持ち悪いし仕事出来なさそうだし、魅力マジにゼロじゃん!!」と言われても何も言い返せない。「私さ、中国企業からヘッドハンティングの話されちゃったよ」「へぇ」「年収2000万だって」「が!?」

なんだそりゃ。つい1年前まで同級生だったのに、いきなり住む世界が違い過ぎる……。「行けばいいじゃん、中国」「うーん……まぁ行かないけどさ。てか、結婚する?」「しない」「なんで」「わからん」ミョンちゃんと結婚したかったから、自分なりに必死で就活したハズなのに、わからんってなんだよ僕は。

で、いよいよ本格的にフラれて、1年くらいがたち、そろそろ職位上がって部下とか出来ちゃうかー? くらいのタイミングで、それ以上会社員続ける意味がわからなくなってしまいました。

◎クソ、もうちょっとで主夫になれそうだったのに……! 失敗した!

退職願出した数日後、まだ引き継ぎしてたくらいのタイミングで、久しぶりにミョンちゃんから電話がかかってきました。「近ごろどーよ」「会社やめたっす」「そりゃめでたいね」何がめでたいのか意味がわからないけど、飲みに行くことになりました。「なんでやめたの」お前のせいだ! ……ってさすがにおかしいよな。別に1ミリもミョンちゃんのせいじゃないし。だからかわりに、僕はずっとため込んでいた台詞を彼女にぶつけました。

僕「いいか良く聞け! 俺は、作家になる!!」

ミョンちゃんは椅子にもたれてずり落ちながら、「はぁ!?」と言い、何か自分を責めるように顔をぐにゃっと歪めました。「なんでそれ、今まで言わなかったの……わ、私が、反対すると思った?」

応援すると思ったから、言えなかった。

いつの間にやら僕は25、彼女は30歳。最初に彼女と出会った19の春から、そのとき気づけばもう6年がたっていました。

ミョンちゃん「じゃあ、結婚しようよ。うちでさ。家事でもしてれば? 君の料理は嫌いじゃないし、掃除は……まぁやんなきゃ超怒るし。洗濯は好きだから私がするし。ちょっとくらいバイトもして欲しいけど、別にしなくてもいいよ。奥山くんが成功しても、失敗してもいいよ。だってそれ、私が死ぬほどやりたくて、でも出来なかったことだから。ね、中々良いと思わない? それでさ、そしたらさ」

好きだな。でもだから。言わなきゃ。笑わなきゃ。絶対に笑わなきゃ。頭がおかしくなりそうだ。おかしくなってもいいから、最高に完璧に軽薄そうに僕は笑うんだ。笑え! 「ミョンちゃんって、たまにかわいいこと言うね」僕は彼女の口に手を押し当てて黙らせ「ありがとう。でも大丈夫だよ」人生失敗したな、もう二度と誰のことも好きになっちゃいけないな、そう思いました。それから。

しばらく貯金があったので、1年くらい東京で小説を書いた。ほとんど誰とも会わなかった。家賃が高くても、東京から離れるのが怖かった。いつか電話がかかってくるかもしれない、あなたは天才ですって出版社から。一分一秒でも早く行けるように、東京に住んでいたかった。そんな電話は結局、かかってこなかったんだけど。

一度出版社から、僕の小説のどこがダメなのかって、5人くらいの編集者の人が色々書いてくれた手紙が届いた。それを何度も読み返しながら、ダメだったなぁ、これからどうやって生きていこう、悔しいなぁ、死んでも死にきれないよ、俯きながら地元に帰った。

今もたまにミョンちゃんから、年に1回くらい電話があるんだけど。もう2年くらい? 会ってない。

正直言って、まだ未練タラタラに好きなんだよな……。

でもいい加減、諦めなきゃ。好きでいちゃダメなんだから。へ? 時が解決する? 時は解決してくれなかったんだよ!!(絶叫) ……いやいや、一体どうすれば綺麗に忘れ去ることが出来るんでしょうか? 書いて、ネット上に公開すれば、整理がつくかと思ったけど、全然つきそうにないや。何かもっと強烈に説教してもらわないと……。

と、ふとそのとき、messyの人気連載、『女子会の帝王・KENJIの美タミン注入☆』が目に止まりました。汚ブス研究家のKENJIさんが、ときに厳しくときにおかしく、読者の皆さんのお悩みに答えていく正当派の人生相談コーナーです。

うわ、僕もKENJI美ンタ!!!! されてぇー! そうだ! この原稿、KENJIさんに送りつけてみよう……。よし、送信、っと。

……何かすごく取り返しのつかないことを、やらかしてしまったような気がする。どうしよう。

と後悔しても後の祭り、一度送ったメールが戻ってくることはないのです。嗚呼、もし一度送信したメールを消す技術が開発されたなら。元彼女に復縁を迫るメールとか、そういうのも全部一切合切消去出来るのに……。

というわけで、今回は恐縮なのですが、読者の皆さんへの相談ではないのです。KENJIさん、どうか僕の悩みを聞いて下さい。何卒よろしくお願いします。

※担当編集注:皆さんも愛のないビンタコメントをお願いします。

奥山村人(おくやま・むらひと)
ヒモになれば、とアドバイスしてくれる女性はたくさんいるけど、私のヒモになってもいいのよ、と言ってくれる人は少なくて困っています。Twitter:@dame_murahito BLOG:http://d.hatena.ne.jp/murahito/

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