[官能小説レビュー]

アル中女と元ヤクザの恋愛劇、『ヴァイブレータ』に描かれる「認められたい」女の欲望

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『ヴァイブレータ』(講談社)

■今回の官能小説
『ヴァイブレータ』(赤坂真理、講談社)

 小説の中に、自分自身とシンクロする描写を見つけることは、読書をする上でなによりも至福の瞬間だと思う。自分とはかけ離れた、絵本のようなシンデレラストーリーにどっぷりと浸ることも楽しいけれど、フィクションの中に、ふと自分の胸の内をのぞかれた描写を見つけたとき、「言葉にできない思いを代弁してくれた」「自分を肯定してくれた」と感じて安心する。そんな経験はないだろうか。

 今回ご紹介する『ヴァイブレータ』(講談社)は、2人の男女のみが登場する、静かだが激しい恋物語である。主人公は、頭の中の声に悩まされ、不眠や過食、嘔吐、アルコール依存症を抱えて生きているライターの「あたし」。彼女は、いつものように酒を求めて深夜のコンビニへ足を運んだ。そこで知り合ったのが、長距離トラックの運転手である岡部。彼は、ろくに学校へも通わず、あらゆる悪行を経てからトラック運転手となった元ヤクザである。

 流されるままに岡部のトラックに乗り込み、セックスをする主人公。彼女の中に欠落している部分が岡部で埋められたとき、頭の中から“声”が消えた。彼女は、岡部の長距離トラックに便乗し、新潟への旅に出るのだが……。

 精神的に病んでいる主人公と、元ヤクザの岡部。一見、私たちとは無関係に感じる経歴を持つ2人だが、彼らの人間関係は、ありきたりな普通の男女の仲として描かれているため、別の世界の出来事とは思わない。

 むしろ、まだ社会的に女の立場が弱く、女1人で生きていくにはつらいと感じる場面も少なくない今の時代、この主人公に共感する女性も少なくないはずだ。些細な困難や悲しみを心の中に蓄積しながら、踏ん張って生きていると、主人公と同様に溺れるような息苦しさを感じることもあるだろう。

 そんな主人公への強い共感から、岡部を「女にとっての理想の男像」だと感じた。いや、もがく主人公を強く抱き、導いてくれる岡部は、もはや「女が求める理想の男は、彼のような男以外に存在しない」と思わせてしまうほどの魅力を持っている。

 『ヴァイブレータ』とは、主人公には「言葉にできない思いを代弁してくれた」と、そして岡部には「自分を肯定してくれた」と感じられる作品なのかもしれない。岡部のような男が、もし自分の前にも現れたとしたら……読後そんな思いが募れば募るほど、女がいかに「自分を認めてもらいたい生き物」であるかも実感させられる1冊である。
(いしいのりえ)

そんな男、ファンタジーでしか出会えたことないわ~

しぃちゃん

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