あなたの職場にもいるLGBT 企業が性的マイノリティ施策を打つメリットとは?

近年、LGBT(L:レズビアン、G:ゲイ、B:バイセクシュアル、T:トランスジェンダー)などの性的マイノリティに関する取り組みに対する注目が高まっています。しかし、性的マイノリティが働きやすい環境が整っている企業はいまだに多くありません。社員がセクシュアリティにかかわらずいきいきと働く職場をつくるには、どのような対策が必要なのでしょうか。企業向けに性的マイノリティに関する研修会などをおこなう「特定非営利活動法人 虹色ダイバーシティ」代表の村木真紀さんにお話を伺いました。

◎職場でカミングアウトするリスク

――そもそも「性的マイノリティ」といっても、その言葉には多様な性が含まれるんですよね?

村木 はい。最近よくメディアに出てくる言葉は「LGBT」ですが、現実にはLGBT以外のアイデンティティを持っている方も多く、性のあり方は本当にさまざまです。たとえば、Xジェンダーという「女性でも男性でもない性自認を持つ人」や、Aセクシュアルという「特定の人に恋愛感情を抱かない人」もいます。LGBTはマスコミで取り上げられることが増えましたが、それ以外の性的マイノリティについてはまだあまり知られていません。まずは、性のあり方はとても多様なものだということを理解することが大切です。

――性的マイノリティの人々は就職活動時にどのような困難を抱えているのでしょうか?

村木 採用担当者が性的マイノリティについてよく知らない場合に、当事者が面接等でカミングアウトすると、「(性的マイノリティの人は)うちの会社では前例がないから」という理由で不採用になる事例がありました。すでに働いている人が、カミングアウトをきっかけにイジメの対象になったり、辞めさせられてしまったりすることもあります。そのリスクを考えると、多くの性的マイノリティは就職活動時にカミングアウトすることができません。カミングアウトの壁があると、「履歴書やエントリーシートに自分が望む性別や名前を書けない」とか、「家族構成を聞かれたときに、同性パートナーのことを話せない」といった問題が生じてくるわけですね。

――自らのセクシュアリティを隠し通して内定をもらったとしても、働き始めてからさまざまな問題が生じるのでは?

村木 その通りです。ただでさえ、異性愛者の振り、トランスジェンダーではない振りをするのはストレスになりますが、セクハラになるような周囲の差別的言動や性的マイノリティになんの配慮もない就業規則など、働く上でのバリアとなるものもたくさんある。結果として、心を病み、退職せざるを得なくなってしまう人も多くいます。

もっとも緊急度が高い問題は、「現状は、性的マイノリティが働きづらい職場環境だ」ということを、各社の従業員の相談窓口となるべき人事部門、産業医や産業カウンセラーなどの保健スタッフが認識していないこと。これでは、当事者が、就業上、何か困ったことがあっても、どこにも相談できません。性的マイノリティの多くは、職場の相談窓口に相談やカミングアウトをせず、他の理由を言って辞めていくので、「社内に性的マイノリティがいる」ということすら把握できていないことが多いんですね。

――なぜ性的マイノリティの方々は産業医などに相談できないのですか?

村木 性的マイノリティの多くは、日常的に、自分たちが冗談やからかいの対象になっている場面を見聞きしています。いくら守秘義務があると言っても、産業医や産業カウンセラーに話しても大丈夫なのか、ちゃんと聞いてもらえるのか、確信がもてないのです。また、「相談することで、性的マイノリティであることが社内にバレるかもしれない」という恐怖感もあると思います。

――たとえ就職できても、周囲の理解がなければ勤続は難しいわけですね。

村木 はい。職場の誰にも自分の問題の核心を相談できないまま、休職・転職を繰り返す性的マイノリティは数多くいます。そして、現在の日本では、度重なる転職は貧困につながるリスクが高い。どんどん厳しい状況に追いやられてしまうんですよね。

◎何気ない一言がセクハラになる

――性的マイノリティが居心地いいと感じる環境はどのようにつくればいいのですか?

村木 とにかく一人一人がセクハラへの「感度」を上げることですね。男女に関するセクハラは、白黒つけられないグレーゾーンの事象が多いと思いますが、当事者たちは非当事者よりセクハラに敏感な人が多いと思います。同性同士のセクハラといえば、テレビの中では、いわゆる「オネエタレント」が男性タレントにセクハラ行為をして、笑いをとっている場面をよく見かけますが、現実の職場にはそんな事例は少ない。むしろ性的マイノリティ当事者が周囲からのセクハラの対象となってしまうことのほうが圧倒的に多いと思います。

たとえば、「ホモ」、「オカマ」、「オネエ」という言葉は、ゲイやトランスジェンダーに対する蔑称と感じる人も多いので、安易に使ってはいけません。また、「宴会芸として男性従業員に女装やオネエタレントのまねをさせる」なんてこともよくありますが、嫌な気持ちになっている人は多いと思います。

また、日常会話の中の何気ない一言が性的マイノリティにとっては苦痛に感じることもあります。たとえば、「結婚はまだなの?」「子どもは考えてる?」「どんな異性がタイプ?」「好きな芸能人いる?」といった結婚・子育て、恋愛に関する質問は、私たちのアンケートでも嫌だという人が多かった項目です。

それから、オネエタレントの話題として、「ああいうのって生理的にムリ」「うちの職場にはそういう人はいないよね」と言うこともよくあります。そのタレントさんに対してどういう感想を持つのかは各人の自由だと思いますが、同じ属性を持つ人たちを一括りにして話すのは、問題だと思います。国籍や障害について同じことをしたら、それは差別だと言われる話ですよね。カミングアウトしていない当事者がこんな話題を見聞きすると、「やはりここでは決して言えない」と思ってしまいます。

「その人個人を攻撃している訳でもないのに、そんな日常的な話題で傷つくなんてナイーブすぎじゃない?」と思う人もいるかもしれません。しかし、当事者は毎日のようにこうした話題に接していて、たとえ小さな傷でもそれが癒える間がないのが現状です。普段から我慢を重ねていて、何かがきっかけになって気持ちが溢れてくるのだと理解してください。当事者のナイーブさの背景には、日本社会の強固な性別役割分業や同性愛嫌悪などがあることを理解する必要があります。

――「性的マイノリティのことを理解したい!」と思った人はどうすればいいですか?

村木 「自分は、性的マイノリティの友人たちも楽しく働ける職場にしたいと思っている」ということを是非周囲に宣言してほしいですね。こうした理解者・支援者のことを英語でALLY(アライ)と言います。性的マイノリティに関する差別的発言があればすかさずツッコミを入れたり、机の上にレインボーグッズを置いてみたり、名札に「アライ宣言カード」を入れてみたり、さまざまな方法で自分がアライであると表明することができる。それだけでも、みなさんの周りにいる当事者たちは心が楽になるはずです。

――当事者自身が追い込まれる前に、何かできることはできないのでしょうか?

村木 個人的に信頼できる友人や同僚を増やしていくことですね。職場にアライがいると感じている人は勤続意欲が高い。性的マイノリティに対する理解はどんどん進んでいますから、保守的だと感じる職場でも、誰か一人くらいは分かってくれる人がいるはずです。性的マイノリティに関するニュースが話題になった時に、肯定的に反応している人を探してみてください。最近の世論調査の結果では、同性婚に対する意見も、実は賛成の方が多い。当事者側も「誰も理解してくれるはずはない」と思い込んで、自分で周囲との間に壁をつくっていることがあるのではないかと思います。

◎優秀な人材を確保するためには、性的マイノリティ施策を進めたほうがいい

――性的マイノリティのために企業ができることはないのですか?

村木 ひとつは「差別禁止の明文化」ですね。経営層が「性的マイノリティを差別してはいけない」と宣言するだけですから、一番取り組みやすいはずです。例えば、「ゲイであれば、家族を養う必要はないだろう」とずっと昇進させてもらえない例や、男性従業員が「心は女性なので、職場でも女性として扱ってほしい」とカミングアウトしたときに「分かった。ただし、これからは女性の給与で働いてほしい」と給与を減らされてしまった例なども聞きます(男女で給与が違うのはそもそも労基法違反です)。

――幾重にも差別が重なっていますね……。

村木 ええ、このような事例が報道されれば、企業のイメージとしても良くないですよね。逆に性的マイノリティへの差別禁止を打ち出せば、企業イメージは上がる。国際的な人材獲得競争の中で、差別禁止の明文化はもう最低ラインなのではないかと思います。

そして、次は、人事担当者や管理職が研修を受けて、性的マイノリティに関する基礎知識を身に付け、社内の当事者にしっかり対応できるようにすることですね。

――村木さんの「虹色ダイバーシティ」では企業向けに性的マイノリティに関する研修を行っているんですよね。

村木 はい、大体90分から2時間くらいの社会人向けの研修を行っていて、昨年は100件以上受注しています。そのノウハウを詰め込んで、今年、「職場におけるLGBT対応ワークブック」をつくりました。「性的マイノリティってどんな人たちなの?」、「なにがセクハラや差別に当たるの?」、「性的マイノリティのお客様や従業員にどんな対応が必要なの?」という素朴な疑問に応える内容になっています。

――なるほど。「虹色ダイバーシティ」の研修を受けることで、本で読むような基礎知識だけでなく「性的マイノリティ対応の応用力」を学ぶことができるわけですね。

村木 はい。おかげさまで非常に好評です。本当はみなさんに私たちの研修を受けてほしい。ただ、性的マイノリティへの関心の高まりもあり、とても多くの企業からご依頼をいただいているため、私たち「虹色ダイバーシティ」だけではすべてをお受けすることが難しい状況なんです。

「なかなか受講機会がないが、すぐに動き出したい!」という方は、是非、7月に出版する著書『職場のLGBT読本: 「ありのままの自分」で働ける環境をめざして(仮)」(実務教育出版)を読んでみてください。また、最近は性的マイノリティに関する講演会が全国で行われていますから、いくつかの団体の話を聞いてみるのもおすすめです。それから、既に何からの施策を行っている先進企業に話を聞きに行くという手もありますね。

――村木さんから見て、「ここならば信頼できる」という支援団体や企業はありますか?

村木 当事者支援の団体で、当事者の声を直接聞く現場を持っていて、かつ、講演も行っているのは、大阪の「QWRC」、横浜の「SHIP」、愛媛の「レインボープライド愛媛」などですね。最近はLGBT支援をうたった様々な団体や企業があり、残念ながら、なかには「それって本当に大丈夫なの?」というところも出てきています。LGBTに関する講演の質の「目利き」はなかなか難しいですが、複数の講演を聞きに行くと、信頼のおける情報を発信しているのはどこか、ある程度見極められるのではないかと思います。

もちろん、性的マイノリティ対応は大企業でなくてもできます。例えば最近ニュースになったのは「認定NPO法人フローレンス」です。病児保育を行うNPOですが、代表が性的マイノリティをしっかり理解・支援していて、当事者の従業員が声をあげ、福利厚生もしっかり整備しています。大企業でなくてもここまでできる、という素晴らしい事例だと思います。また、金融業界には「LGBTファイナンス」という企業の性的マイノリティ対応担当者の集まりがあり、ここでは各社が互いに学び合う環境ができています。

――性的マイノリティの方々は企業に対してどのような協力を望んでいるのですか?

村木 私たちの行ったアンケート調査では、60%以上の当事者が「福利厚生で同性パートナーを配偶者として扱うこと」を望んでいます。福利厚生などの社内規則を変えるのは、組合や役員への説明も必要で、なかなか大変な手続きになりますが、先進企業では徐々に事例ができてきています。

トランスジェンダー当事者は「性別移行などへの配慮」を強く望んでいます。現状、ほとんどの企業では、誰かがカミングアウトしてきたら、その人に個別に対応しています。しかし、それでは人事や直属の上司の価値観によって、対応が大きく変わってしまう恐れがあります。企業として、「働きながら性別を移行することを会社として支援する」というメッセージを明確に出す必要があります。そうしないと、せっかく育てた人材が「自社で性別移行は無理だろう」と勝手に判断して仕事の継続を諦めてしまいかねません。

また、意外かもしれませんが、性的マイノリティのイベントへの協賛を求めている当事者も多いです。社内の人間には関係ないと思うかもしれませんが、「イベントへの協賛=対外的に性的マイノリティ支援を宣言する」というメッセージになるのです。福利厚生などはカミングアウトしないと使えないこともありますが、カミングアウトしていない当事者にとっても、会社としての支援メッセージは心強く、嬉しく感じるのではないかと思います。

――企業内に性的マイノリティ向けの相談窓口や職場内グループをつくるという手は?

村木 もちろん、ないよりはあったほうがいいです。しかし、非当事者が思うより、性的マイノリティ自身はまだそんなにニーズが高くない、というデータがあります。「相談窓口などを利用すること=カミングアウトすること」になってしまうのでは、と思うからです。家庭や友人にもカミングアウトしていない人が多い日本で、職場でのカミングアウトは非常にハードルが高い。まずは、人事担当者などが性的マイノリティに関する研修や勉強会を行い、そのことを全社員に発信していくことで、「この人たちならば相談しても大丈夫」という当事者の信頼を獲得していくのが大切だと思います。

――企業が性的マイノリティ施策をやるメリットはあるのですか?

村木 ひとつは社員の勤続意欲が上がるということです。アンケートを分析すると、性的マイノリティ施策のある企業に勤めている人のほうが勤続意欲が高い。つまり、ここで頑張ろうという意欲になるのではないかと思います。

また、グローバル化が進む中では「性的マイノリティについて知らない」ということ自体が、コンプライアンス上のリスクとなることもあります。たとえば、世界には同性愛が違法とされる国があります。最悪は死刑です。そうした国にゲイの社員を派遣した場合、企業はその社員の身の安全を守らなければいけない。逆に同性婚が認められている国では、同性パートナーをちゃんと配偶者として扱わないと、差別だと訴えられてしまうかもしれません。企業は、関心がないではすまない状況になっているのです。

性的マイノリティは全人口の数パーセント程度と言われています。たしかにマイノリティではありますが、20人以上の企業なら1人はいるくらいの人口割合です。その1人にまでしっかり配慮できる会社というのは、社員全員が働きやすい会社になるのではないかと思います。

――企業内向けの施策だけでなく、小売業やサービス業では性的マイノリティのお客様向け施策も考えられますよね。

村木 その通りです。性的マイノリティに配慮できる企業は、消費者としての目線から見ても印象がいい。われわれのアンケートでは「消費者として、企業がLGBTフレンドリーであることを重視する」と答えた人は60%を超えます。

――お客様向けの施策は具体的にどのようなものが考えられますか?

村木 たとえば、アンケートや申込フォームの性別欄を「男・女・その他」にしたり、カップル割引の対象に同性カップルも含めたり、といったこと。また、「奥様、旦那様」ではなく「ご同居の方、パートナー、お連れあい」と言うなど、お客様が自ら表明しないうちは、できるだけ性別や関係性を問わない言葉を使う、といった、新しい接客マナーを現場に浸透させる必要があります。

ただ、消費者向けの施策ばかりアピールすると、「性的マイノリティで金儲けしようとしている」といった反発をうけることになってしまいかねないのが難しいところです。イジメや自死などのハイリスク層であるという社会問題にも配慮しつつ、従業員向けの施策とお客様向けの施策の両方をバランス良く推進し、本当に「ダイバーシティな企業」にならなければ、当事者の評価は得られないと思います。

――現状で性的マイノリティ施策が進んでいるのはどんな企業ですか?

村木 施策に取り組むのは、2、3年前はほとんど外資系企業やグローバル企業だったのですが、最近は製造業、エネルギー、通信など、老舗の日系企業にも広がってきました。私たちのクライアントは、たまたま大企業が多いですが、中小企業が遅れているかというとそうでもありません。中小企業の場合は社長に理解があれば、とんとん拍子に施策を進めることができます。

実は、職場でのカミングアウト率は大企業よりも中小企業のほうがやや高い。これは想像ですが、大企業だと従業員全員の顔が見えるわけではないし、異動もありますから、今は良くても次は理解のない人と仕事をする事態になるかもしれない。そのリスクを考えると、カミングアウトするメリットより、リスクのほうが大きいと判断してしまうのかもしれません。その点、中小企業であれば、ほぼ全員の顔が見えるので、上層部が支援的でさえあれば、カミングアウトしやすいのかもしれません。

今、中小企業は人手不足に喘いでいます。私は、「いい人材が欲しい」と言っている中小企業ほど、性的マイノリティ施策を進めるべきだと思います。当事者たちは自分らしく働ける場所を切実に求めています。大企業や他社がこの問題に気づいていなかったり、まだ二の足を踏んでいたりする、今がチャンスです。早くやればやるほど、性自認や性的指向によらず、よい人材を集められる可能性が高まると思います。

――最後に一言お願いします。

村木 「性別」は、自分で思っている以上に、根源的なものです。私だってパッと見て相手の性別を判断してしまうことは多い。だからこそ、「それに当てはまらない人もいる」という知識を持つ必要があるんです。その知識は、残念ながら、日本の学校では習いません。だからこそ、職場での教育がとても大事な分野なのです。

是非これをきっかけに、性的マイノリティについて興味を持ってください。会社や同僚が性的マイノリティを理解し、支援する気持ちを表明してくれたら、「ここでがんばろう」という気持ちになる当事者も増えるでしょう。それは会社にとっても、社会全体にとっても大きなプラスとなります。ためらわずに、当事者以外の人から、声を挙げてほしいと思います。
(聞き手・構成 雨井千夜子)

村木真紀(むらき・まき)
特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ代表。1974年茨城県生まれ。京都大学卒業。日系大手製造業、外資系コンサルティング会社等を経て現職。LGBT当事者としての実感とコンサルタントとしての経験を活かして、LGBTと職場に関する調査、講演活動を行っている。大手企業、行政等で講演実績多数。2015年 「Googleインパクトチャレンジ賞」受賞。関西学院大学非常勤講師、大阪市人権施策推進審議会委員。第46回社会保険労務士試験合格、事業場内メンタルヘルス推進担当者養成研修会(通常コース、アドバンス・コース)修了。

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