介護をめぐる家族・人間模様【第54話】

「兄なんていなければよかった」父の遺産で家を建てても、母を呼ばない兄夫婦に憤る娘

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Photo by jetalone from Flickr

 大山のぶ代さんが認知症を患っていることを、夫の砂川啓介さんが告白した。もうかなり進行していて、会話もほとんど成立しない状態らしい。大山さんといえば、アルカノイドというアーケードゲームの達人だったと聞く。料理研究家として料理本も出していたはず。ゲームも料理も、認知症予防に効果があると言われているものだ。大山さんは、以前、脳梗塞を患っていたので、脳血管性認知症の可能性があるとはいえ、ゲームも料理も認知症に効果はなかったということ? やっぱり認知症予防は難しいってことか。

<登場人物プロフィール>
関 成美(50)関西在住。成人した子ども2人、夫との4人家族
玉田 久代(80)関さんの実母。中国地方の老人ホームで暮らす
玉田 護(54)関さんの兄。中国地方在住
玉田 智佐子(52)護さんの妻

■亡き父の遺産で家を建てながら、母を呼ばない兄
 「兄弟は他人のはじまり」。最近関さんは、そんな言葉がたびたび頭をよぎる。

「父が亡くなった後も、母が元気な間は兄家族とも仲良くやっていました。母を連れてみんなで旅行に行ったり、イベントがあると集まって食事したり。兄嫁も母とはうまくやっていると思っていたんです」

そんな“良好な関係”の均衡が崩れたのは、ひとり暮らしをしていた母親がだんだん弱っていってからだ。「いずれは母と同居する」と、母親が相続した父親の遺産を使って家を新築した兄だったが、いつまでたっても母親を呼ぶことはなかった。夜中に何度も関さんに電話をかけて体調が悪いと訴える母親が、ある夜浴室で倒れたことから、これ以上1人にしておくのは無理だと思った関さんは、母親を老人ホームに入れる決断をした。

「私も実家から遠いところに住んでいるので、たびたび様子を見に行くこともできません。母も兄をあてにしていたようでしたが、私同様もうあきらめたみたいです。施設にお願いしたことで、これで夜中も安心できることだけが救いでした」

■兄なんていない方がよかった
 ところがホームでの母親の様子を見て、関さんは再び胸を痛めることになった。

「母は耳がかなり遠くなっていて、通常の会話がほとんど聞き取れないんです。私が気づくのも遅かったんでしょう、障がい者レベルの難聴です。補聴器は買ったのですが、あまり効果がないのか、使っても聞こえないからとあまり使っていない。そのせいもあって、ホームではほかの入居者の会話にも入れず、いつも1人でポツンとしているんです。その姿を見るのもかわいそうで」

 兄夫婦はさすがに母親を施設に預けたことが後ろめたいのか、時折顔を出すようになったという。それで関さんが安心できたのかと思えば、これもまた逆だった。

「母からたびたび電話がかかってきて、兄夫婦への愚痴をこぼすんです。兄夫婦が来てくれたときに、必要な物を買ってきてくれるように頼んでも、イヤな顔をされるって。ティッシュ1つにも、『もうなくなったの? お義母さんは、ティッシュを使いすぎなんじゃない?』とか文句を言われるそうです」

 ティッシュごときで肩身の狭い思いをする母親が不憫だと、関さんは目を潤ませた。それからは母親が不自由しないよう、関さんが日用品を買って送るようにした。

「買って送れるものはまだいいんです。ホームに美容師さんが来てくれるんですが、カットにさえ行かせてもらえないと言うんですよ。出かけるわけでもないのに、そんなに頻繁にカットするのはもったいないと言われるそうです。兄嫁なんて父の遺産で贅沢して、海外旅行にもよく行っているくせに、母によくそんな仕打ちができるものだと思います。兄嫁も兄嫁ですが、そんな兄嫁の言いなりになっている兄も情けない」

 先日、母親の顔を見にホームに行った関さんは、またショックなことがあったという。たまたま兄嫁が来ているときだった。

「耳の遠い母と会話するとき、普通なら耳元に口を近づけますよね。兄嫁はそうじゃない。遠くから、怒鳴りつけるような大声で声をかけているんです。その口調はまるで犬か猫に命令するような。いや、ペットにならもっと優しく声をかけますね。犬猫以下ですよ」

 なぜこの年になって、母親がこんな思いをさせられないといけないのか。関さんは、泣けて仕方がなかったという。

「どうせホームに入っているのなら、いっそのこと私の近くでホームを探して移らせた方がいいんじゃないかと考えています。問題は環境とお金。80過ぎて、娘がいるとはいえ知らない場所に来ることが母にどんな影響があるか。そう思うとなかなか思い切れません。それに母の預金も兄夫婦に握られていて、ホームを移るお金をどうしたらいいのか。兄なんていなければよかったとさえ思います」

 他人のはじまり、ならまだいい。他人の方がまだマシなこともある。

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