『なんかおもしろいマンガ』あります ~女子マンガ月報~【4月】

なぜ、東村アキコのマンガは人の心を打つ? 読者を問う『かくかくしかじか』の強度

女子マンガ研究家の小田真琴です。太洋社の「コミック発売予定一覧」によりますと、たとえば2015年3月には1048点ものマンガが刊行されています。その中から一般読者が「なんかおもしろいマンガ」を探し当てるのは至難のワザ。この記事があなたの「なんかおもしろいマンガ」探しの一助になれば幸いであります。前編では3月の話題と女性マンガ誌の最新情報をご紹介します。

【話題】誰しもが抱える「後悔」の感情を強く揺さぶる、マンガ大賞受賞作『かくかくしかじか』

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『かくかくしかじか』5(集英社)

 「なんで○○が1位なんだ!」とか「なんで○○が入ってないんだ!」とか、賞やランキングに関してはブーブー言うことも含めてこそのエンタテインメントだと考えているのですが、こと「マンガ大賞」に限ってはまったく文句が言えなくて物足りなく思うくらいです。一昨年の吉田秋生先生『海街diary』(小学館)、昨年の森薫先生『乙嫁語り』(KADOKAWA エンターブレイン)に続き、見事「マンガ大賞2015」に輝いたのは、東村アキコ先生の自伝マンガ『かくかくしかじか』(集英社)でありました。おめでとうございます!

 舞台は東村先生の故郷、宮崎県。美大を受験すると心に決めた若き日の東村先生は、友人の紹介で海沿いの小さな絵画教室に通うことになります。そこで竹刀をぶん回しながらジャージ姿で時代錯誤な熱血指導をしていたのが、在野の絵画教師・日高健三先生でした。当初は反抗もしましたが、なんだかんだで美大生時代も、会社員時代も、マンガ家になってからも、東村先生はこの教室に通い続けたのです。そこで東村先生は何を学び、何を得たのでしょうか? そして今、何を思うのでしょうか? 恩師との交流を中心に、マンガ家になるに至った「かくかくしかじか」が、ユーモアと切実さとを以て描かれています。

 東村先生の作品には、作品ごとに明確な「サービス」があります。それは例えば「モーニング」(講談社)での諸連載(『ひまわりっ~健一レジェンド~』『主に泣いてます』『メロポンだし!』)ではギャグを、「KISS」(同)での連載『海月姫』では少女マンガのときめきを、『東京タラレバ娘』ではアラサー女子に向けた教訓をそれぞれ提供し、確かな人気を得てきたわけです。そんな中にあってやや異色だったのが、この『かくかくしかじか』でありました。本作には東村先生の「意図」よりも「意志」をより強く感じるのです。

 その「意志」とは自分の過去と向き合う意志であります。もちろんそれを作品として発表するにあたっては、磨き抜かれたエンタテインメントのテクニックが存分に駆使されているわけですが、本作においてより上位にあるのは、自分の過去と決着をつけたいという強い意志にほかなりません。ダサかった自分、絵に対して不誠実だった自分、先生に対して不義理を働いた自分、遊んでばかりいた自分……との対峙。それはごくごくプライベートな行為のようにも見えますが、徹底して掘り下げられたその内省は、それなりに人生を重ねてきた者になら誰にでもある「後悔」の感情を強く揺さぶる普遍性を獲得したのです。

 私はかくかくしかじかでマンガ家になり、そして今に至った、じゃああなたは? と、東村先生は読者に問うているような気がします。東村先生のマンガはなぜ面白いのか、なぜ人の心を打つのか、なぜコンスタントに月産100ページ以上も描き続けるのか。その答えは全てこの中に描いてあります。若い頃のダメさ加減に共感し、そして今、そこに向き合う清廉な精神に、読者は圧倒されることでしょう。『かくかくしかじか』は、人の生き方を変え得る、強い力を持った作品であるのです。

 第19回手塚治虫文化賞マンガ大賞は、ほしよりこ先生の『逢沢りく』上下(文藝春秋)が受賞いたしました。意外なセレクトではありましたが、素晴らしいセレクトでもあるように思います。心通わせること、他者の痛みに共感すること、慈しみ合うことの尊さが、調子のいい関西弁にのせて、ユーモラスに、そして美しく描かれます。激しくおすすめしたい作品です。ほし先生の次回作が楽しみでなりません。

笑いも自虐もなく自分を見つめたい

しぃちゃん

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