[官能小説レビュー]

花房観音が描く、女の血に塗れた祈り――『神さま、お願い』に官能の匂いを感じる理由

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『神さま、お願い』(角川書店)

■今回の官能作品
『神さま、お願い』(花房観音、角川書店)

 女の欲望は底知れない。有名パワースポットに群がり、一心に手を合わせている女たちを見ていると、「この地は彼女たちの欲を全て受け止めているのか」と、おののいてしまう。

「両思いになれますように」「商売が繁盛しますように」「家族円満で過ごせますように」――生きていれば誰もが1度や2度は祈るであろうささやかな願い。それが、もしも“必ず”成就する場があるとしたら――? デビュー以来、“官能”を書いてきた著者・花房観音が初めて官能色のない作品に挑戦したのが、今回ご紹介する作品『神さま、お願い』(KADOKAWA)だ。ストレートな官能描写はないけれど、女の秘めた“欲深さ”があらわになるストーリーに、ふいに官能な匂いをも感じてしまう。

 この作品の主軸になるのは、京都のとある場所にひっそり佇む小さな神社。その社の屋根の赤黒い色は、参拝者の血の色。自らの血をその神社の社に垂らしてお参りをすれば、願いが叶うといわれているのだ。

 6人の女の話がまとめられている。兄と慕う男を奪った女を憎み、彼女が不幸になるようにと願う女。近所のママ友の子どもの受験が失敗することを祈る女。妻子持ちの上司に恋心を抱きつつ、彼の店の繁盛を祈る女。父の不老長寿を祈る女。あこがれている男との両思いを祈願する女。家族が永遠に共に暮らせるよう願う女。彼女たちの切なる願いは、血を捧げることで全て叶えられた。

中でも「家内安全」の加奈子の物語は非常に興味深い。平凡な主婦の加奈子には、愛する夫と息子がいる。反抗期もなく真面目な性格の息子。ギャンブルや浮気もせずに家族を大事にしてくれる夫。愛息が高校生になった今も、大みそかは家族3人で近所の神社へお参りに行くほどの円満ぶりだ。絵に描いたように幸福な家庭は、加奈子にとって何にも代えがたいほどの財産である。

 しかし、加奈子の家庭に暗雲が立ち込める。夫が、突然会社を辞めて独立すると言い出したのだ。そして息子は、大学へ行かずにアニメーションの専門学校へ進学し、高校を卒業したら結婚するという。堅実で真面目だと思っていた夫と息子が語った将来は、今まで作り上げてきた理想の家庭像とはかけ離れたものだと、加奈子は狼狽する。食卓を囲む機会が減り、このままでは家族がバラバラになってしまうと感じた加奈子は、願いを叶えるとうわさされている神社へ行き、血を捧げる。家族が再び私の元に帰ってきますように……と。

 加奈子の願いは叶い、家族は再び集結する。事業立ち上げを失敗して無職になった夫と、結婚を約束していた恋人に振られてニートになった息子。加奈子は満面の笑顔で家族に食事を作り、世話をする。そんな彼女の姿は、端から見れば幸福に満ちあふれた主婦の顔そのものだった。

 願いと呪いは表裏一体と、花房氏は言う。願いを成就させることは、誰かに呪いをかけることにもなりかねない。幸福を計れるのは当人だけだが、加奈子が手に入れた幸福は、果たして夫と息子にとっては幸福なのだろうか? 花房氏が全ての作品を通じて書き続けている、こうした女の内なるドロドロした欲望を、この作品では“神に願う”という一見純真に見える行為を通じて表現しているところにゾクゾクしてしまう。それは、やはり官能的な刺激に似ているのだ。
(いしいのりえ)

“こってりした女”不足の人にはピッタリな1冊

しぃちゃん

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