[官能小説レビュー]

1億部突破の官能小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』に見る、選ばれる女からの卒業

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『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(早川書房)

■今回の官能作品
『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(E.L.ジェイムズ著、池田真紀子翻訳/早川書房)

 女ならば、一度はシンデレラストーリーにあこがれたことがあるのではないか。しかし不況の出口が見えない今のご時世、イケメンで金持ちの王子様に見初められてハッピーエンドになるなんてあり得ない。男より稼ぐ女だってざらにいるし、今日日の男は女そのものに興味が失せ、“絶食男子”なんていう言葉すらはやり始めているほどだ。

 けれど、せめて本の世界の中だけでは、めくるめくおとぎ話を楽しみたい――そんな願いを持つ女性は、全世界にいたようだ。今回ご紹介する『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(早川書房)の売り上げがそれを示している。

 2012年に発売されてから、たった5カ月間に全世界で6,300万部を売り上げた。その速さはハリーポッターシリーズを超える史上最速の売り上げ記録だという。現在は、全世界で累計1億部を売り上げている。全世界1億人の女性を魅了した本作。では、その魅力とは一体なんなのだろうか。

 大学卒業を間近に控えた主人公のアナは、体調を崩したルームメイトの代わりに学生新聞のインタビューをすることになった。インタビューの相手は巨大企業の創設者であるクリスチャン・グレイ。これまで恋愛経験がなく処女のアナは、ミステリアスで美しい容姿を持つグレイに興味を持ち、またグレイもアナに一目惚れし、とある提案を持ちかける。

 ある日、アナはグレイの大豪邸に招かれる。女として初めての夜をグレイと過ごすと思い、期待に胸を弾ませるが、彼女が目にしたのは、16世紀にタイムスリップしたようなロココ調の部屋と、部屋いっぱいに並べらている拷問器具……グレイは「ドミナント(支配者)」としてアナを「サブミッシブ(従属者)」に雇いたいと申し出てきたのだ。

 アナはそれまで、1人の男性として強くグレイに惹かれていた。もしかしたら初めての恋の相手かもしれない……と。しかし、グレイの申し出により、そんな淡い期待は脆くも崩れ去った。グレイは人を愛することを知らないサディストだったのである。

 食事の内容、エクササイズの方法、セックスのプレイ……詳細に書かれている契約書を見せられるアナ。彼の性癖に戸惑い、契約書にサインをすることに躊躇しながらも、グレイを拒むことができずに逢瀬を重ねてゆく。彼女にとっての初めての恋はあまりにも激しく、現実離れしているものだった……。
 
 例えばひと昔前のバブル時代など、女は、ただぼうっと立っているだけで、自然とお金持ちでハンサムな男性が寄ってきて、一晩のうちにお姫様になれると信じていた。しかし今の時代、そうそううまい話はない。どこかに必ず致命的なオチが潜んでいる。

 有り余るほどの金を持ち、誰もが振り返るほどの美貌を持っている男が、実はとんでもないサディストだった……というのは、まさに現代の一筋縄ではいかなくなった恋愛を端的に捉えているように思う。

 しかし、最も注目すべきは、グレイに対峙するアナの姿勢だ。躊躇してしまうほどのサディスティックなプレイにも、アナはひるまず挑む。その姿は勇敢だ。王子様から選ばれる存在でしかなかったお姫様はもう過去のもの。本書が女性たちに支持されるのは、アナが自ら選択してグレイとの主従関係を築き上げているところなのではないだろうか。

 王子様は待っていてもやって来ない、すれ違ったら抱きついて離さないくらいのバイタリティが必要……アナはそんなことを、全世界の女性たちに教えてくれる。
(いしいのりえ)

「アナ」って名前の女が世界を席巻中

しぃちゃん

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