男と女の溝は埋まらない?

“性”潔癖症がAVエキストラに――撮影現場を通して見えた“男に消費される”嫌悪感の正体

2015/02/14 19:00

 また、病院ものでナース役をしたこともある。その時は診察室で軽い治療(のふり)をした。前もって「演技ができるか」と聞かれていたけど、台本には大まかな会話の内容しか書いてなくて、ほぼアドリブ。女優さんに注射を打つふりをしながら世間話をしろと言われて、初心者には難易度が高かった。

 ただしエキストラがセリフを噛んだり棒読みだったりしても、たいていは撮り直しはしない。エキストラは、からみのシーンで「誰かに見られている」という背徳感を出すために存在する場合もあるし、設定が自然に見えるよう人数合わせのために必要なこともある。しかしあくまで主役は女優さんで、エキストラは目立つ必要もなければ、お色気もいらない。ただ邪魔にならない程度に存在しさえすればよく、演技力など誰も期待していないのだ。

■AV撮影現場の乾いた空気

 なので、実際に現場に行ってみると、チヤホヤもされないけれど、誰も自分を“女”だとは扱わない。冒頭で述べたように、自分を性の対象として見られることが苦手な私にとって、不愉快どころか心地いいくらいだった。

 スタッフの男性たちは、自分たちの性への欲望を存分に作品で発揮しているせいなのか、とてもサバサバしていて、いやらしくない。よっぽど、さりげないフリしてセクハラしてくるサラリーマンの方が気持ち悪い。

 男優さんも女優さんも、まるで腕まくりをするかのようにあっさり脱ぐし、「ハイ、そこでフル勃起!」とか「ローションつけまーす」とか、隠微にしようと思えばいくらでもできる行為や言葉が飛び交っていて、現場はびっくりするほどさわやかである。 撮りながら「こんな病院、来たくないわー」「そんなことあるわけないよね」などというツッコミもよく耳にする。作り手は予想以上に冷静だ。でもそういう「おかしな設定」こそがニーズなのだろう。

 だから現場に対する嫌悪感はなかったけれど、台本を読んで、しみじみ「これが男のロマンか」と思ってしまった。自分が酒の席やビジネス(と自分は思っていた)場で男性から自分が受けていた態度が、実は男の妄想の端くれだったらしいということに気付いたりもした。無邪気に対応してきたことで、どれだけ知らず知らずのうちに消費されてきたのだろう。

 繰り返しになるけれど、実際にAVの現場にいる人たちには嫌悪感や憤りはない。女もAVを楽しむ時代になったともいわれる。けれど、AVには確かに、女にはわからない見えない男の身勝手な妄想があり、そこに巻き込まれる恐怖が根強くあるような気がした。

『職業としてのAV女優(幻冬舎新書)』
AVの撮影現場は至って普通
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