[官能小説レビュー]

童貞青年と見守る女の霊……青春の歯がゆさあふれる官能小説『ずっと、触ってほしかった』

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『ずっと、触ってほしかった』(KADOKAWA)

■今回の官能作品
『ずっと、触ってほしかった』(庵乃音人、KADOKAWA)

 女が一番嫌がる男は、“童貞”なのかもしれない。初めてならば、ある程度勝手を知っている男にリードしてほしいし、セックスについていろいろ教えてもらいたい。次に付き合う男とは、一緒にセックスを開拓していきたい。結婚を考える男とは、セックスの相性も知り合える仲がいい……つまり、女の男遍歴にはどのシーンにも童貞は存在しないのだ。もちろん、童貞に手ほどきをしたい女もいるだろうが、セックスのときに主導権を男に握ってほしいと願う女は多いし、「女が主導権を握るとオカンみたいで……」と思う男もいる。

 男たちの中にも、「童貞なんて面倒なしがらみから解放され、明るいセックスライフを謳歌したい……」と童貞喪失を“一刻を争う最重要ミッション”と考える人は少なくないのではないだろうか。しかし男とは意外と繊細な生きもの。女の処女喪失が一大イベントであるように、男の童貞喪失も大事な記念すべき第一歩なのだ。

 今回ご紹介する『ずっと、触ってほしかった』(KADOKAWA)の主人公・純も、22歳の童貞男。同僚の美人OL・美穂にあこがれを抱いている。女性経験皆無の純にとって、救世主的存在だったのが、幼馴染みの凪。女性の扱い方をあれこれレクチャーしてくれていたが、交通事故であっけなくこの世を去ってしまった……しかし、凪の葬儀から戻ると、純のアパートには死んだ凪の姿があった。純の恋の成就を見届けたい――そんな凪の思いが念となり、幽霊の姿でこの世に居座ることになったのだ。

 幽霊の凪との奇妙な同居をすることになった純。彼のまわりには、純があこがれているOLの美穂を筆頭に、純の趣味であるオカルト研究部の部員・真知、大学時代のアルバイト先の年上美人・香澄、高校時代の後輩である祐美。大学時代の先輩で当時迫られたこともある美由紀と、さまざまな女性たちが現れる。

 凪の手ほどきによって、純はそれぞれの女性たちといい関係になる。しかし、童貞喪失までには行き着かない。凪は、純がアタックする女たちの唇に触れ、彼女たちの本音を聞く。香澄からは元夫に対する怨念や間男とのセックスに対する熱い思い、祐美からは女友達への対抗心や純に対する悪態……。そして、純があこがれる美穂が、純の父親が地主であることを知り、玉の輿に乗ろうとしていることも発覚する。

 そんなさまざまな思惑を秘めた女性たちの中で、唯一ピュアな真知だけが純のもとに残った。冴えない風貌の真知は、純によって美しく変貌する。美容院で綺麗にヘアスタイルを整えられ、最先端のファッションに身を包み、フレンチに舌鼓を打つ。その姿はオカルト研究部の奥手な女性ではなく、男に愛される1人の愛らしい女性の姿だった。ようやく幸せを掴み、童貞からサヨナラする日が間近に迫ってきた純。一方、凪はある黒服の男と出会うのだが――。

 童貞青年の成長を描いているように思われる同作だが、気になるのは凪の存在。凪は、純にずっと恋心を抱きつつ、その気持ちを伝えることができず、彼の恋を応援することで自分の気持ちを昇華したように読み取ることができるのだ。見知らぬ女の最初の男になるくらいなら、私と……そんな凪の本音がひしひしと伝わる。自分の気持ちをうまく表現できなかった青春時代が、凪を通してよみがえってくるのだ。

 凪に共感するほど、ある程度経験を重ねた男ならば、素直になれない凪の気持ちに気づくのにと思ってしまった。自分のことに精一杯で、女の気持ちどころではない純に歯がゆくなるが、誰しも男は童貞だったのだ。凪の若さゆえの態度も、男から見たら歯がゆいのかもしれないけれど、童貞の男たちは女と向き合い、さまざまな経験を積み重ねながら、1人の女性を守れる存在になってほしい……と、老婆心をくすぐる1冊だった。
(いしいのりえ)

身辺に童貞がいなくなると年を感じる……

しぃちゃん

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