[官能小説レビュー]

「最もわかり合える存在」夫婦の欺瞞を暴く、男女4人のW不倫官能作品『花酔ひ』

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『花酔ひ』(文藝春秋)

■今回の官能作品
『花酔ひ』(村山由佳、文藝春秋)

 若い知人の結婚報告を聞いていると、ハラハラすることがたびたびある。なぜなら、「結婚」というイベントに参加するような感覚でいるから。ブライダル雑誌のテレビCMを見ていても、同じような気持ちが湧いてくる。確かに結婚式で花嫁は、純白のドレスを着て、大勢の人々に祝福され、その日だけは主人公になることができるわけだが、若い女たちにとって、結婚とは「学園祭のヒロイン」に抜擢されることと近い感覚なのでは、と錯覚してしまうのだ。

 結婚というものは一過性のものではない。パートナーとして選んだ男との人生は、離婚しない限り一生続く。ドレスを着て皆に祝福されたその先には、「どちらかが死ぬまで相手を愛し続けなければいけない」という人生が待っている。それはセックスも同じ。今の日本では、「結婚したら、パートナーとのセックスだけで満足し続けなければならない」ということになっている。しかし、果たして本当にそんな人間など存在するのだろうか。たいていの夫婦は、妥協してセックスを行事化したり、いつの間にかセックスレスになってしまうのではないだろうか。

 パートナーにあきらめを感じたとき、また心をえぐられるように強く惹かれる異性に出会ったとき、女はどうなるのだろう……そんな疑問を抱いて手に取ったのが『花酔ひ』(文藝春秋)だ。

 この作品には、4人の男女が登場する。浅草の老舗呉服店の一人娘の麻子は、ブライダル会社に勤める夫・誠司がいる。あるとき麻子は、自身が営むアンティーク着物店の仕入れで、京都の葬儀屋・桐谷正隆と出会う。彼は千桜という妻を持っていた。

正隆は仕事に対しての野心はあるが、女に対しては何の野心もないという男。妻の千桜が自分のセックスに満足していないことも承知していた。そんな彼が麻子と出会い、しだいに距離を縮めてゆく。

そして千桜も、誠司と距離を縮めてゆく。幼い頃、薄暗い部屋で叔父と逢瀬を重ねた経験を持つ千桜と、小学生の頃、祖父母宅の縁側でした初めての自慰の一部始終を、見知らぬ女に侮蔑するような瞳で見られた経験を持つ誠司。誠司は千桜と出会ったとき、「俺は、この女に狂う――」と直感した。
 
 色こそが恋、恋こそが色。源氏の時代に言い伝えられた現実を目の当たりにした2組の夫婦。麻子は初めて正隆に雄を感じ、正隆は初めて麻子という女に心から惹かれる。千桜は幼い頃に封印した性を誠司によって解かれ、誠司もまた千桜との行為で自我を解放する。

 夫婦というものは、誰よりも相手のことをわかり合っている存在ともいえるだろう。しかしそれは所詮、道徳上のセオリーに過ぎないのかもしれない、と本作を読んで思った。たとえ性の部分が満たされなくても、生活を維持するために、相手の難点には多少目をつぶらなければならないという関係性においては、「わかり合える」存在になるのは難しいのかもしれない。

 まさに禁断の感情が開かれた2組の夫婦は、その後どうなるのだろうか。表面的には取り繕うことができたとしても、自らが渇望している欲は決して払拭できない。そんな人間の性を、本作は4人の男女を通してありありと暴いているのだ。

「恋ではない、愛ではなおさらない、もっと身勝手で、純粋な何か――」本作のキャッチコピーのように、人は誰もが、第三者には説明のできない鬱積した欲望を持っているような気がする。もちろん、誰にも言えない秘密を抱えたまま、生きていくこともできるだろうが、その秘密を解き放つと、この物語の男女のように、自分自身でも制御のつかない、ときに窒息しそうなほどの地獄を見るのだろうか。けれどそれが、この上なく甘美な誘惑を孕んでいるような気がしてしまう。なんとも恐ろしい1冊である。
(いしいのりえ)

「相手さえいりゃあ私だって」な既婚者は相当数いるでしょ?

しぃちゃん

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