『トム・アット・ザ・ファーム』岡田育×福田里香トークショー

絶望を投げかける“少女マンガ的”映画『トム・アット・ザ・ファーム』が救うもの

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左から福田里香氏、岡田育氏

◎罪悪感と後ろめたさと家族が作り出す、田舎の監獄

 この映画では逃げられない人間の心理が描かれている。フランシスから暴力的な支配を受けるトムは、監獄にいるわけでもなく、24時間監視されているわけでもない。農村とはいえ近所に住民はいるし、地元へ帰るためのバスも出ているのに、トムはずっと逃げることができないのだ。

「ストックホルム症候群を、監獄や殺人犯を使わずに描いているんですよね。少女マンガで思い浮かぶのは萩尾望都の『トーマの心臓』『残酷な神が支配する』など。監禁されているわけではないものの過去の事件にとらわれ続け、閉塞感や行き詰まりを感じている少年が主人公でした」(岡田氏)

 原作の戯曲では、登場人物の内面を表すような言動がもっと入っていたが、映画ではそぎ落とされているという。例えば、フランシスはホモセクシャルなものを異常なまでに嫌悪し、否定的に振る舞う一方で、死んでしまったゲイの弟とはどういった関係だったのか、わからないままだ。それぞれの登場人物に、言葉にははっきりと現れていないが雄弁に何かを物語っている行間が存在するのも、少女マンガ的といえるだろう。

 また、フランシスがトムをタンゴに誘い2人でダンスするシーンが、BL的だと表されることについては、「過去にも『ブエノスアイレス』など、男性同士がタンゴを踊るシーンは存在していますよね。問答無用で絵になりますよねぇ」(岡田氏)「今人気のBL漫画『10DANCE』(竹書房)は社交ダンスをテーマにしていますし、なんというか、『男性が2人いたら、まあ踊るよね』という印象です(笑)」(福田氏)と、男性とダンスの親和性に理解を示した。

 トークの終盤、両氏は「絶望が絶望のまま描かれている」ことも少女マンガ的であると解説。

「少年マンガの場合、主人公が『もうダメだ!』という絶体絶命の展開こそ勝利の序章です。その展開が好きな読者は0.001%くらいは絶望に勝てると思っているから読んで癒やされます。一方、本当に絶望した人が読むのがある種の少女マンガです」(福田氏)
「何かが解決するわけではないし、折り合いをつけるわけではないけど、それでないと救えない世界もある。そんな絶望が『トム・アット・ザ・ファーム』には描かれています」(岡田氏)

 努力と友情で絶望に勝利する夢の世界ではなく、ただそこに絶望があるだけ。しかしある種の絶望を描くこと自体が、同じような絶望の中にいる人の気持ちを楽にさせることもあるのだ。
(構成:石徹白未亜)

■『トム・アット・ザ・ファーム』公式サイト

絶望に希望を持たせることは時に残酷

しぃちゃん



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