『トム・アット・ザ・ファーム』岡田育×福田里香トークショー

絶望を投げかける“少女マンガ的”映画『トム・アット・ザ・ファーム』が救うもの

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 恋人ギョームを亡くしたゲイの青年トムは、葬式に出るため彼の故郷を訪ね、そこで彼の兄と母と会い――。映画『トム・アット・ザ・ファーム』の主演・監督は1989年生まれのグザヴィエ・ドラン。ドラン自身もゲイであることをカミングアウトしている。イケメンで才能あふれたゲイの主演兼監督の作品、また映画の見どころは黒髪と金髪のイケメン2人のタンゴシーン……と、要素を取るとBL萌え映画と思わせるが、この映画は「BLではなくむしろ少女マンガ」だと語るお菓子研究家・福田里香氏と文筆家・岡田育氏。渋谷アップリンクで行われた上映会と2人のトークショーの様子をレポートする。

◎少女マンガ的な命題とは

 『トム・アット・ザ・ファーム』はタイトルから連想するような、のどかな雰囲気はまったくない。トムはギョームが「自分には彼女がいる」と家族に嘘をついていたことを知る。その上、全ての事情を知るギョームの兄フランシスから、ギョームの母アガットにその嘘を突き通すために演技をしろと言われ、挙げ句には肉体、精神双方に理不尽なまでの暴力を振るわれる。

 岡田氏、福田両氏には当初、同作をBL的に語る、という依頼が来ていたものの、この映画はBLではなく、むしろ少女マンガ的だとトークショーのタイトルを変えてもらったとのこと。まず監督であるドランの存在そのものが少女マンガだ、と福田氏。ドランは子役からこの世界に入り、子役にありがちな挫折もなく、順調にキャリアを積んでいる。イケメンで才能あふれるゲイの映画監督で俳優だなんて、事実なのに作り物めいて見える経歴だ。

 しかし、ドランにはイケメンのシュッとした「傷のない感じ」がまるでないと岡田氏。映画の冒頭でドランの手が映るが、噛みに噛みまくってボロボロに短く、美男子であることに自覚的な男の爪ではないと観察眼を光らせる。「この容姿でゲイの映画監督と聞けば、綺麗に磨いた清潔な爪をイメージするけれど……そこは映さなくていいのに、という部分を露悪的な感じで映している」(岡田氏)ことから、ドランには自分に酔わない冷えた客観性があるのではと解説。

 この作品を少女マンガ的にたらしめているのが、母と子の葛藤というテーマの設定にあると両氏。今作はドランの監督4作目だが、最初の作品から一貫して母と子の葛藤をテーマにしている。

「偉大な父を乗り越えるのが少年マンガなら、少女マンガは“お母さんは聖女じゃない”から始まる娘の物語ともいえます。萩尾望都や山岸涼子は母と娘の葛藤に関する作品を多く描いていますが、ラブコメ的な少女マンガでも、両思いになった後の障害は“彼のお母さんに気に入られるか?”になることが多い」(福田氏)

 少女マンガ界を牽引してきて、少なくない女性の葛藤の源となった「母」というテーマに、20代男性ながらドランは対峙しているのだ。また、母・アガットの「自分の見たいようにしか世界を見なかったり、自分はまともだと信じきっている様子にぞっとした」と岡田氏。こういった母の恐ろしさは一部の少女マンガに描かれ続けてきたものとつながる。

絶望に希望を持たせることは時に残酷

しぃちゃん

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