[官能小説レビュー]

女の劣等感にひるまない男は理想的? 『エスプリは艶色』に見る、女のセックスの本懐

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『エスプリは艶色』(双葉文庫)

■今回の官能小説
『エスプリは艶色』(新藤朝陽、双葉文庫)

 どんなコミュニティの中にも、たいてい1人は存在する“マドンナ”的女性。見た目の美しさはもちろん、いつも笑顔で常に前向き、ネガティブな印象を一切与えない。そんなマドンナの周りには、常に男が集まるものだ。意識しなくても男を惹きつけるマドンナが、今回ご紹介する『エスプリは艶色』(双葉文庫)にも登場する。

 本作の主人公・健太は、ある1人の女性の存在によって大きく人生を動かされた。地方の高校3年生である健太は、毎朝新聞配達にやってくる大学生・麻衣子に惹かれていた。柔らかなセミロングのポニーテール姿、健康的に引き締まった肢体をTシャツとショートパンツで包み、毎朝、明るい笑顔で健太を迎えてくれる。

 童貞の健太にとって、麻衣子はあこがれの存在だった。受験勉強も手につかなくなるほど、彼女との行為を妄想し、自慰にふける日々を送っていたが、ある朝麻衣子は健太の前から突然姿を消してしまう。彼女は父親の会社が倒産したため、新聞奨学生制度を使って大学に通っていたが、生活苦に心を閉ざし、家に引きこもってしまったというのだ。

 そして健太は、心理カウンセラーの道を志す。心を閉ざした麻衣子を救いたい、大勢の人々の力になりたいと、健太は死にもの狂いで勉強し、見事に志望校に合格した。

 上京し、麻衣子と同じように新聞奨学生制度を利用して大学に通うことになった健太。彼が住むことになった寮には、さまざまな人が住んでいた。メロンのようなバストを持つ45歳の美女・保奈美。コスプレが趣味の百合亜。モデルのようにスレンダーなスタイルを持ち、彫刻のように美しい顔立ちの水樹。近所の銭湯の美人娘・静香。

 彼女たちは、それぞれ心の中に闇を持っている。保奈美はブラザーコンプレックス、水樹は幼い頃から高身長だったために、同級生の男の子にからかわれていた。心理学を学ぶ健太は、彼女たちの中にくすぶるわだかまりを紐解いていくうちに、体の関係を持ってしまう。麻衣子というマドンナに罪悪感を持ちつつも、健太は彼女たちの体に溺れるのだが……。

 健太と関係を持った女を見ていると、「体と同じくらい心も開かなければ、セックスで満足を得られない」という女の一面を考えさせられる。体と同時に心も開かせる健太は、経験こそ浅いけれど、相当女扱いに長けた男のように思えてくるが、一方で健太もまた彼女たちによって、童貞を卒業でき大人の男へと成長していったわけだ。

 そして、やはり気になるのが“マドンナ”麻衣子の存在である。健太が麻衣子に惹かれる理由もまた、心に闇があったからなのではないかと思う。美しく、明るく、前向きに見える麻衣子だからこそ、健太の目にその小さな“染み”が魅力として映ったのではないだろうか。

 私からすると、女が男に心の闇を見せるフリをすることなど、容易にできるだろうと思ってしまう。正直あざといとさえ感じるけれど、麻衣子は、無意識のうちそれをやってのける素質があるという意味で、真のマドンナなのかもしれない。

 しかしあらためて、男に心を開くフリをするのは簡単でも、本当に心を開くのは難しいなと思う。体が大前提である男たちにとって、女の心の暗部が魅力になる場合よりも、途端に引かれてしまう場合が多いから。麻衣子をはじめ、女たちの心の闇を目の当たりにしても、決してひるむことなく包み込む健太は、ある意味理想の男性像なのかもしれない。
(いしいのりえ)

「オレ、わかってるよ」と明言するヤツはだいたいわかってない

しぃちゃん

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