[官能小説レビュー]

美人妻が「セックスしたい」と大暴走――『次々と、性懲りもなく』の描く欲深き女の魅力

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『次々と、性懲りもなく』(マガジンハウス)

■今回の官能小説
『次々と、性懲りもなく』(菅野温子、マガジンハウス)

 美人の欲は、底なしだと思う。生まれながらの美貌は、幼い頃から彼女たちに特別感を与える。筆者が幼稚園児だった頃、同じ園に通っていた幼児モデルをしていたクラスメイトは、お遊戯会で当たり前のように主役を演じていたし、小学生の頃の美形の友達は、誕生日やホワイトデーには男子から大量のプレゼントをもらっていた。自分からアプローチしなくても、自然と周りにもてはやされてしまう。だからこそ、自分の思い通りにいかないことに遭遇すると、とまどい、許せなくなってしまう。美人がそのほかの人よりも欲深くなるのは当然だ。
 
 今回ご紹介する『次々と、性懲りもなく』(マガジンハウス)の主人公・真紀は、産まれながらに人を惹きつける容姿を持っている。しかし容姿以外には、取り立てた才能もやりたいこともなかった真紀は、母から「結婚するなら、医者か弁護士」と教えられた通り、お見合いパーティーを通じて歯科医と結婚した。

 ゴールインしてから3年。広い庭付きの戸建てに住み、夏には軽井沢の別荘に出掛け、週に一度はメイドが掃除をしにきてくれる。そんなこれ以上ないくらいの贅沢な暮らしを送っているのだが、ただ1つ、真紀には満たされない欲望があった。それは性欲だ。

 歯科医という仕事柄、夜になると夫の気力は残されていない。淡白な夫とのセックスは次第に回数が減り、真紀は自慰で性欲を満たすようになった。

 自分の指を操り、「イク」ことを覚えた真紀は、これが男の人が相手だったら一体どうなるのだろうという好奇心から、家庭の外に男を求めるようになる。最初のターゲットは、中学時代の同窓会で再会した成瀬隆史。真紀は、一線を超えようと意気揚々に挑んだが、彼とのセックスでは満足できずに、ほかの男を探す。

 次の標的は、学生時代の知人であり、当時から遊び人だった香山だ。再会した時から、香山は真紀の「セックスがしたい」というもくろみを把握していた。食事とドライブの後でホテルにチェックインし、真紀は香山の荒々しい唇を受け入れるのだが――。

 金も美貌も何不自由ない暮らしも手に入れ、なおかつ気持ちいいセックスもほしい。タイトル通り“性懲りもなく”次々と欲しがり、手に入れる真紀。筆者をはじめとする、“持たざる”読者は、そんな彼女が実に浅はかであることに気づくだろう。香山に抱かれて悦ぶ真紀は、彼が自分自身を蔑んでいることに気付いていない。そこが彼女の最大の落とし穴なのだ。

 しかしながら、そんな底なしの欲望を持つことに対して、何ひとつ悪びれず、迷いを抱かないところに魅力も感じてしまう。

 その欲深さがなぜか下品にならないのは、真紀が美しいことに起因するのではないだろうか。多くの女が「もっと美しくなりたい」と努力をするが、真紀にはその努力も時間も必要がない。しかも、何もしなくても自然と男が寄ってくる。彼女には、生まれ持った“余裕”があるからこそ、声を大にして何かを欲しがり、手に入れることが様になるのかもしれないと感じた。「よくばりで何が悪いのよ」と開き直れる精神力が、平凡な女である筆者の目にまばゆく映った。

 欲深き美人の愚かさと潔さ――『次々と、性懲りもなく』は、女の複雑な魅力を凝縮したような1冊である。
(いしいのりえ)

あまりの欲しがりぶりに紗栄子が神々しく見える瞬間もある

しぃちゃん

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