[官能小説レビュー]

生活か、セックスか。結婚を控えた女のやるせない渇望を描く『よるのふくらみ』

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『よるのふくらみ』(新潮社)

■今回の官能小説
『よるのふくらみ』(窪美澄、新潮社)

 結婚とは、1人の男性を家族として、またセックスのパートナーとして、2つの役割を両立させながら生涯愛し続けることである。そう考えると、筆者は途端に結婚に自信がなくなる。この2つを1人の男で消化できる女など存在するのだろうか。生活に重きを置けば、男を共に家庭を作るパートナーとしか見られなくなるし、そんな男の前で、夜だけは女になれといわれても、想像するだけで疲弊してしまう。

 出産とセックスという「生と性」をテーマにした作品『ふがいない僕は空を見た』(新潮社)でデビューした作家・窪美澄は、新作の『よるのふくらみ』(新潮社)でも、生と性の狭間で揺れる男女の姿を描いている。その中の『なすすべもない』で、主人公のみひろは、結婚を控える前から家庭とセックスの間に挟まれ、押し潰されそうになっている。そう、生活とセックスという「生と性」の問題が描かれているのだ。

 保育園で働く主人公のみひろは、幼馴染みの圭祐との結婚を控えている。彼女の実家は、中華料理店を営んでおり、母親はまだみひろが幼い頃に、若い男と駆け落ちした。商店街の男子から、「おまえのおふくろ、いんらんおんな」などとからかわれたが、圭祐は彼らからみひろを守ってくれた。3年後、みひろの母親は、何もなかったような顔で戻ってきた。ある日、母親と喧嘩しているみひろを見た圭祐は「結婚」という形で、彼女が母親の元を離れるきっかけを作ってくれた。
 
 圭祐には、不動産屋で働く弟の裕太がいる。彼が探してくれたアパートで、圭祐と暮らし始める。しかし、忙しい合間を縫って行われるセックスは、やがて少しずつ間引かれてゆく。2週間に1度、1カ月に1度――と。

 圭祐が寝ている隙にパジャマを脱がし、一方的にセックスをしようと試みた。しかし疲れ果てている彼はみひろの愛撫に応じてはくれない。しばらくして、別々の布団で寝ることになったが、みひろはセックスを渇望してゆく。

 そんな中みひろは、鬱積した気持ちを抱えたまま、同僚の合コンに参加する。帰り道、圭祐の弟・裕太とばったり出会う。それ以降みひろは、昔彼女に恋心を抱いていたという裕太とのセックスを想像することで、苛立ちをやり過ごそうとしたが、そうするうちに、裕太への思いが強くなっていった。

 ある日、圭祐の実父の三回忌に同席することになったみひろは、圭祐の婚約者として酒の席についたが、彼の親戚からあらゆることを言われる。「早く子ども産まないと」「もう三十だもの」。他人の無責任な言葉の数々が、みひろに突き刺さる。その夜、みひろは圭祐に詰め寄った。「私はセックスがしたい」と。しかし彼から告げられた言葉は、ますますみひろの首を締めるものだった――。

 恋愛、セックス、家庭、出産。女には、悩みの種がいくつもあるが、みひろにとって「幼い頃、母親が駆け落ちした」つまり「母親が、生活を捨ててセックスに走った」という事実が、それらの悩みをさらに複雑にしているのだろう。

  最も軽蔑していた母の女としての一面が、自分の中にも存在していた。セックスがしたいという渇望が、母への怨みを巻き込み、さらにみひろを追い詰めているのではないだろうか。それは、血のつながりによって、永遠に彼女を解放してくれない。そんな呪縛に縛られてきたみひろの姿は、いかに生と性が折り合いのつかないものかをあらためて教えてくれる。
(いしいのりえ)

ふがいない大人を描かせたら、右に出るものなしの窪センセイ

しぃちゃん

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