『なんかおもしろいマンガ』あります ~女子マンガ月報~【5月】後編

断絶されたSF/ファンタジーを少女マンガに取り戻す、『クジラの子らは砂上に歌う』

女子マンガ研究家の小田真琴です。太洋社の「コミック発売予定一覧」によりますと、たとえば2014年4月には954点ものマンガが刊行されています。その中から一般読者が「なんかおもしろいマンガ」を探し当てるのは至難のワザ。この記事があなたの「なんかおもしろいマンガ」探しの一助になれば幸いであります。後編では4月のオススメ作品と、5月発売予定の注目作をご紹介します。

(前編はこちら)

[単行本]少女マンガにSF/ファンタジーを取り戻せ!

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『クジラの子らは砂上に歌う』(秋田書店)


 かつて少女マンガにおいてSF/ファンタジーは一大勢力でありました。それこそ萩尾望都&竹宮惠子の時代から始まって、1980年代には最盛期を迎えますが、以後、マニアと非マニアとの間には大きな断絶が生まれ、今では女性向けマンガのメジャー誌では見かけることが少なくなってしまいました(最後の光芒が『ぼくの地球を守って』(日渡早紀、白泉社)だったでしょうか)。しかし、今日でもなおコンスタントにSF/ファンタジー系の作品を生み出し続けているのが秋田書店です。中でもヒットの予感が色濃く漂うのが、2巻が発売されたばかりの梅田阿比先生『クジラの子らは砂上に歌う』。世界を覆う砂の海の中を悠然と漂う巨大な漂泊船「泥くじら」。そこで暮らす少年チャクロは外の世界にあこがれを抱きつつ、仲間たちと楽しい日々を過ごしていました。そんなある日、漂着した廃墟船の中で、チャクロは1人の少女と出会うのですが……。次々と明らかになる「泥くじら」の秘密、突然の悲劇、絶望と希望。魅力的な設定と巧みなストーリーテリングが相まって、読む者はみなグイグイと引き込まれます。この作品にはマニアと非マニアの壁を突破する力があります。版元も一生懸命セールスしているようなので、書店で見かけたらぜひ手に取ってみてください。

 もはや、いくつの連載を抱えているのかもわからない超売れっ子のいくえみ綾先生の新作『G線上のあなたと私』(集英社)も、とても楽しく読みました。25歳の元OLにして家事手伝い、45歳パート主婦、大学生男子19歳という、なんの共通点もない3人が同じバイオリン教室で仲良く学ぶ様がとても微笑ましく、一方で微かににおう波乱の予感にドキドキさせられます。『あなたのことはそれほど』(祥伝社)といい絶好調ですね、いくえみ先生。4月はほかにも、完結巻となる逢坂みえこ先生『プロチチ』4巻(講談社)や、田村由美先生が「あの」タッチのままで描くギャグ『イロメン』1巻(集英社)などが印象的でした。マンガとはやや異なりますが、震災のあの日から行方が知れない妻を探して、雄鶏が東北各地を訪ね歩く様子をボールペンの一枚絵で描いた、こうの史代先生の『日の鳥』(日本文芸社)も忘れがたい作品です。妻の思い出やのろけ話を挟みながら一貫して明るい調子で進みますが、ええ、そりゃ泣きますよね。

 まったく女子マンガではないのですが、4月の新刊でもっとも衝撃的だったのは、山田参助先生の『あれよ星屑』1巻(KADOKAWA)でした。話は泥臭いのに洗練された線/絵、簡潔ながら力強いネーム、カラーページの色使いのセンスの良さ……どれをとっても超一流のマンガ家のそれではありませんか。こんな才能が一体どこに潜んでいたのだろう? と不思議に思っていたら、本連載の担当編集者Yさんから、山田先生が「サイゾーウーマン」の「平成ろくでなしブルース」という連載でイラストをお描きになっていたことを教えてもらいました。戦後の東京を舞台に男2人の生き様を描く『あれよ星屑』、マンガ好きは必読です。

[5月の注目!]『アルスラーン戦記』は安心して読めます

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 「フラワーズ」(小学館)系は3トップがそろって新刊をリリースします。すなわち西炯子先生『姉の結婚』7、水城せとな先生『失恋ショコラティエ』8、小玉ユキ先生『月影ベイベ』3(すべて小学館)のことでありまして、すべて5月9日発売。前2作はクライマックス目前ですが、なんと『失恋ショコラティエ』は夏まで連載休止中! 9巻はしばらく先になってしまいそうです。

 近ごろはやりなんでしょうか、2カ月連続で新刊が発売されるのは、5月9日発売の荒川弘先生(原作・田中芳樹)『アルスラーン戦記』2と、5月13日発売の入江喜和先生『たそがれたかこ』2(ともに講談社)です。『アルスラーン戦記』、おもしろいですよ~。実は原作もまだ完結していないのですが、マンガ版は荒川先生が終わり方を考えてから描き始めていらっしゃるそうなので、安心してお読みください。この組み合わせを考えた編集者は天才だと思います。それにしてもすごい仕事量ですぜ、荒川先生…。

 かわかみじゅんこ先生『日曜日はマルシェでボンボン』4(集英社)はわたしが偏愛してやまない作品です。主人公の愛らしさ、そして圧倒的なフランス感。かなりゆったりとした刊行ペースですが、長く描き続けてほしいシリーズの一つです。きら先生『パティスリーMON ―完結編―』(集英社)は、お菓子マンガの名作『パティスリーMON』の番外編を集めた1冊。本編の文庫版が出たばかりなので、未読の方は併せてぜひ。森本梢子先生『高台家の人々』2などと同じく5月23日発売です。

 期待の新鋭、ウラモトユウコ先生は一挙に2冊。まず5月14日に『椿荘101号室』2(マッグガーデン)、20日に『かばんとりどり』1(徳間書店)が発売されます。おしゃれでかわいい絵と、人間関係の機微を鮮やかにすくい上げる描写力にご注目を。

 まだちょっと先のお話ですが、雲田はるこ先生『昭和元禄落語心中』(講談社)の展覧会が明治大学米沢嘉博記念図書館で開催されます。期間は6月6日から。原画も多数展示されるようなので、ファンの方はぜひ。雲田先生の原画は、さぞかし美しいことでしょう。

小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題がほしかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって遂には仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。

どんなリアリストにもファンタジーは必要

しぃちゃん

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