介護をめぐる家族・人間模様【第30話】

母をお墓に入れられない理由とは? 認知症の母親を見送った息子の戸惑い

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Photo by Dick Thomas Johnson from Flickr

 ホリエモンの『刑務所なう。』『刑務所なう。 シーズン2』に続く刑務所シリーズ第三作『刑務所わず。』(いずれも文藝春秋)が大変おもしろい。受刑者に高齢者が増えていることは、かねてより問題とされているのは知っていたが、衛生係として介護が必要な受刑者の世話をしていたホリエモンの証言は貴重だ。特に興味を持ったのが「体の不自由な人とか盲目の人は、むしろ自分の体の限界を潔く理解していて、介護に身を任せてくれるので比較的手がかからない」のに、耳が遠い人は「ほとんど聴こえないのに、わかったフリをして実は全然わかっていないから始末に負えない」ということ。自戒せねば。って結論はいつもそうなる。

<登場人物プロフィール>
田辺 真(51) 北海道出身で東京在住。大学生の息子、妻の3人家族
間山 泰行(47) 埼玉在住。子ども2人、妻と暮らす
朝倉 弘文(50) 愛知県在住。妻と2人暮らし

■自分の墓がほしくてたまらない

 田辺さんは、昔から寺やお墓が大好きだったという。大学入学で故郷を離れて以来、自分の家を持つことの次に自分の墓を建てることが目標だった。「僕は次男ですからね、故郷にある先祖代々の墓は兄一家が入ることになる。50になって、自分の先がある程度見えるようになったら、自分の墓がほしくてほしくてたまらなくなった」と笑う。まるでレジャーのように、休みごとに墓地を見てまわり、「前から好きだった」寺の墓地を購入。墓石を吟味し、デザインにもこだわり、今はできあがりを指折り数えて待っているところだ。

 わからない。その喜びが理解できない。一方、田辺さんと同じようにしてお墓を建てて、「これで安心」と思っていたところに、ちょっとしたトラブルが持ち上がったというのは間山さんだ。

「そろそろ七回忌を迎える父のお骨を納めるお墓をずっと探していました。うちの父は三男なので墓はありません。私も気にはなっていたのですが、目の前のことで手いっぱいで墓まで手が回らなかった」

 これまで母親が1人で暮らす団地の一室にお骨を置いていたが、母親も高齢になったことからついに墓を建てようと決心した。

「いつまでも父のお骨をリビングに置きっぱなしとはどういうことだと、親戚からも怒られましてね」

 母親の希望で、将来孫たちも墓参りしやすい間山さんの自宅近くで、霊園ではなく寺院墓地を探すこと1年余り。ようやく母親も納得できる墓地が見つかった。

「住職が経営上手な感じで、私には違和感があったのですが、母はすっかり気に入ったようです。お寺に隣接しているので、そこならしっかり供養してくれるだろうという安心感があったのでしょう」

 一般の霊園だと、その区画の永代使用権を買い、あとは個別に石材店と交渉しながら墓を建てることになる。もちろん墓石は別途購入する。ところが、間山さんの場合は、寺院墓地だったので、お墓を建てるまでのやり取りは全て住職が相手だったという。価格も、ほぼ言い値だった。

「ほかの墓地や墓石の値段なんて、まったくわかりませんからね。母も納得しているし、それが相場なんだろうと言われるままに支払いました。これで親孝行できたとホッとしていたんです」

 無事墓が建ち、父親のお骨も納骨した。その寺の檀家となり、お彼岸やお盆、命日にはお参りをし、七回忌の法要には親戚も呼んでお墓をお披露目しようと考えていた。

■墓石の文字に間違いが。寺に不信がつのる

 そんなある日、寺から法要の案内が間山さん宛てに届いた。間山さんは何気なくその宛名を見て驚いた。

「間山泰行が間山泰之となっていたんです。いつからそうなっていたのか、気づきませんでしたが、パソコンの入力ミスだとしたら最初からかもしれない。とすると、お墓は? と急に不安になったんです」

 お墓にも、建立した間山さんの名前を入れてもらっていたのだ。慌ててお墓に行った間山さんの目に飛び込んできたのは「間山泰之」と書かれた文字。

「今まで何度もお墓参りをしていたのに、なんで気がつかなかったのか……。もちろん、すぐに住職には伝えました」

 住職は石材店のミスだと繰り返し、結局その面を削って文字を彫り直すことになった。

「なんだか縁起が悪いというか。欠陥商品を買わされたようなもんですよ。それも小手先の修理をしただけで。一番嫌なのは、住職があくまでも石材店のミスだと言って、ちゃんと謝ってくれないこと。そもそも封筒の宛名からわかったってことは、石材店のミスではなく、お寺側のミスでしょう。石材店は、寺から仕事をもらっているから文句を言わないだけですよ。もちろん石材店の負担で修繕をやることになるのだから、寺は痛くも痒くもない。そもそも、どれくらいが寺のマージンとなっているかも怪しいもんです。これですっかり坊主嫌いになってしまいました。今更墓地を買い替えることもできないし。もう私の骨は散骨してもらおうかとさえ考えています」

 もう1人、お墓問題で悩んでいる息子がいる。朝倉さんは半年前に、長く認知症を患っていた母親を亡くした。献身的に介護してくれた姉のおかげで、悔いのない最期を迎えさせることができたと満足していた。それが、亡くなった後に問題が発生するとは思いもしなかったと苦笑する。

「先祖代々の墓に入れないんですよ。姉がキリスト教徒で、介護中に母にも洗礼を受けさせたんです。それで母も姉も心の平安が保てたんだろうと納得していました。ところが、母を納骨しようとしたところ、お墓の管理をしている寺が、キリスト教徒を寺の墓地に入れるわけにはいかないと言いだしたんです。先祖代々の墓です。父もそのお墓に入っている。今更墓地を変えることもできないし。結局母のお骨は納骨できないまま、僕の家に置いています。将来、僕もその墓に入るつもりだったけれど、母だけ入れないとなると、どうしたらいいものか……」

 息子たちにとって、お墓は終の棲家なのか。それとも自分の生きた証しなのか。いずれにしてもそれほど思い入れの強い場所であるのは確かなようだ。妻たちはそんな夫たちの気持ちについていけているのだろうか? ふと心配になった。大きなお世話だが。

遺骨という最重量級の重荷

しぃちゃん

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