[官能小説レビュー]

幸せな家庭を築く男の秘密を知る、快楽と苦しみ――尾行小説『二重生活』

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『二重生活』(角川書店)

■今回の官能小説
『二重生活』(小池真理子、角川書店)

 女は「他人のうわさ好き」といわれる生き物だ。それは、自己評価を重んじる男性とは違い、女は他人と自分を比較することで、自分の立ち位置を把握しようとするからだ、という一説がある。そして女は、他人のうわさ話を耳にしたり、行動を盗み見たりすることで、自分の中に潜む秘めた感情をも呼び覚ましてしまう。

 今回ご紹介する『二重生活』(角川書店)は、王道の“官能小説”とは違うが、女の秘めた部分を引っ掻くような描写が多い物語だ。この物語の舞台は、関東郊外にあるニュータウン。家族連れで賑わう大型のショッピングモールがある街に、主人公の白石珠は恋人である卓也と共に住んでいる。

 卓也は、イラストレーターとしての道をあきらめ、ひょんなことから大女優の三ツ木桃子のアルバイト運転手をしている。イラストレーターを志していた頃と比べると、収入は2倍。珠にとって卓也は、パートナーとしては何ひとつ文句のつけどころはないが、桃子との関係を疑っていた。
 
 一方で珠は、25歳の現役大学院生。ある日、大学の仏文科の授業で、たまたま取り上げられたソフィ・カルという芸術家の作品に魅了される。それは、自分とは無関係の人物を、パリからヴェネツィアまで13日間尾行することによって、「自分自身とは何か」を追求していく作品。これを教授は「文学的・哲学的尾行」と説明した。

 ある日珠は、近所に住む石坂史郎を見かける。大手出版社に勤め、美しい妻と可愛らしい娘と小型犬と暮らす石坂を、珠は思いつきで尾行することにした。電車に揺られ、渋谷駅の地下ホームに辿り着くと、一定の距離を保ちながら石坂の後を追う。そして、石坂が妻以外の女性と接触するところを目撃してしまう。

 石坂とその女性・しのぶは、クリスマス前に都内ホテルで一夜を過ごすことを約束していた。その様子を盗み見た珠は、2人が不倫関係にあることを悟る。「幸せを絵に描いたような家庭」だと感じていた石坂家のほころびを目にし、衝撃を受ける珠。いつしかその出来事を、自らの生活にも投影するようになる。

 以降珠は、桃子と卓也の主従関係が度を越していると感じるようになる。夜遅くに運転手である卓也を呼び出す、ソファを買い替えるために1日中卓也を連れ回す。些細なことでも、珠のよからぬ妄想はどんどん膨らんでいく――。

 普段私たちが表に出している自分は、社会の中で暮らしていくための“無害”な自分である。石坂が、「美しい妻と可愛い娘、小型犬とで郊外の一戸建てに住んでいる」という一見幸せそうな暮らしを送る一方で、不倫におぼれているように、誰しもひと皮を剥げば、誰にも見せられないような膿のような部分を抱えているものだ。

 そんな誰にも見せられない一面を見せ合う、石坂としのぶの喫茶店でのいやらしい会話が印象深い。2人だけの世界を共有できるパートナーを持てるのは、永遠の理想だろう。けれど、そんな他人の世界を勝手に覗き見て、さらに自分の世界に投影するのは、人に最高の快感をもたらすのかもしれない。その快感は、尾行によって翻弄される珠の姿を追う読者にも伝染していく。
(いしいのりえ)

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