[連載]そうだソルティー京都、行こう

「上司死ね」怨念まみれの絵馬たちに隠された、「安井金比羅宮」のおいしい所

2014/02/08 16:00

 京都は、世界屈指の観光地。そして女の憧れの地である。美味いもん食って、寺社を見て、お洒落して、勉強する。何でもかんでも「京都でする」のが女の憧れなのだ。女性誌はこぞって京都特集を組み、ガイド本や京都観光エッセイがボロボロ出版されている。確かに京都には歴史がある。名産品がある。美味がある……そして誰も取り上げないけれど「しょっぱい京都」もある。

 しかし京都のほんとうの魅力は、こういうソルティーなところにあるのだ。上品ぶっている女性誌では取り上げないほんとうの京都の姿を、しっかり焼き付けて欲しい。そうだソルティー京都、行こう。

【第17回 安井金比羅宮】

 人間、生きて人と関わる間は、人間関係に悩むのが宿命のようだ。世の中は他人を思いやれるいい人ばかりではなく、また大事にしようと思える人ばかりでもない。その上、愛だの金だのと利害関係があったりしたら、そりゃもうあるわあるわ、トラブルが山のように。

 そんな気の重い状況から救ってくれる神社がある。安井金比羅宮だ。ここは良縁結び・悪縁切りで有名なところで、ドラマなどにもよく使われる人気パワースポット。入場無料だしね。

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こちらがあの安井金比羅宮

 ここの御利益は、私にとって本当にすごくて、行く度に数カ月で悪縁を切ってくれる。パワハラ上司のいる会社や、金や時間にだらしがない友人など、なんとなく気持ちのよくない相手とバッキリ縁が切れる。切るきっかけが訪れる。悪縁を切った後には良縁をくれる。偶然かもしれないけど、御利益ってことにしておこう。パワーを実感している人が多いのか、悪縁に悩む人が多いのか、ここは特に女性に大人気のスポットである。出雲大社がオフシーズンの時はこっちに来い、みたいな。

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人生いろいろ

 どんな悩みを抱えているのかは、絵馬を見るとわかる。「夫のギャンブルが止みますように」「家族の病気が治りますように」「上司死ね」「夫が浮気相手と別れますように……」など、心底つらい状況から救われたいという人が来る場所だ。ドロドロ昼ドラはフィクションだけじゃない。

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お願い叶うかな

 この神社の注目イベントは、絵馬を見ることに加えて、「縁切り縁結びの碑」という鎌倉風トンネルをくぐること。これがまた大人気で、混んでる時には長蛇の列ができる。このトンネルについてるお札の1枚1枚に縁切り縁結びの願い事が書いてあるのだから、もうすさまじい怨念を感じるではないか。

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この穴を行って戻ってきます
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ちなみに行った時は、お札が雨でごっそり取れた後だとかでずいぶん細身に

 さて、ここの神社のどこがソルティなのか。来る度に御利益を賜り、自分に幸福をもたらしてくれるスポットに、どれだけ不敬なことを言おうとしているのか。

 それは、この境内にある「金比羅絵馬館」である。この神社、創建は天智天皇の時代というから古いこと古いこと。そんな歴史のある神社に奉納された、歴代の絵馬が飾ってあるのである。これが、もう圧巻。絵馬の歴史や意味を教えてもらうのも楽しいし、何より昔の絵馬ってのは馬鹿でかいのである。

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絵馬の絵柄にはそれぞれ深い意味が込められているのだとか

 絵馬館2階には、有名人の絵馬がざらざら飾ってある。『天地明察』(角川書店)に書いてあった、数学の問題が書いてある絵馬なんかもある。歴史好き、アート好きにはたまらない一角である。

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手塚治虫先生、水木しげる先生、浦野千賀子先生などそうそうたるメンバーの直筆絵馬が……! タレント編は西村知美、島田洋七、水沢アキさんらのお願い事を公開

 しかしあまりに「縁切り縁結び」という卑近なネタで名が売れてしまってるため、だーれもこの絵馬館に興味がなく、血眼上げて向かうのは鎌倉風トンネルという……。いや、自分もぶっちゃけ、3回目くらいまで絵馬館の存在を知らなかったっす……。

 恨みつらみをここの絵馬にぶちまけるのもいいけど、ちょっとアートでヒストリカルな空間で、心を安らげてはいかがでしょうか(懇願)。

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神社と間違えてこっちの入り口に入らないように!

 あと、この神社の気が利いてるところは、この神社の周りがラブホ街ってことですかね。境内で良縁に恵まれたらすぐさまホテルで確約取れるって寸法なんだな。

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター、少女漫画研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。街で見かけたおかしな英文から英語を学ぶ「Henglish」主宰。

最終更新:2019/05/21 18:36
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