ブックレビュー

モノを捨てる=自分の面倒臭さを愛しむこと! 捨て暮らしの真髄に迫る『捨てる女』

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『捨てる女』(内澤旬子、本の雑誌社)

 モノを捨てられない。家に帰れば、大して必要ないモノがたくさんあって「いつかは何とかしよう」と思っているけど、捨てていない。「どうしても時間がない」とか「ポリシーがあって、あえて捨てていない」ということではなく、ただなんとなく捨て切れない――そんな適当で面倒くさがりなタイプにとって、「断捨離」はかなり耳が痛いものだ。筆者も、捨てた方がいいのはわかっているだけに、わざわざ負け戦に挑む気がして、ブームだった時期も断捨離に近づかなかった。

 年末年始は、書店に入れば嫌でも片づけテクニック本や断捨離本が目につく時期でもある。そんな中“断捨離本”の代表のようなタイトルを掲げている『捨てる女』(内澤旬子、本の雑誌社)は、イメージに反して、むしろ断捨離と一歩距離を置いたスタンスのままモノを捨て続ける、異色のエッセイだ。

 10代の頃からがらくたのような骨董品を愛し、「なんでも貰う拾う集める貯める」暮らしを続けてきた著者。本作は、そんな著者が乳がんの治療をきっかけに、大好きな自室を「がらくたのカオスすべてが、いつのまにか反吐が出るほどみたくないもの」と感じ、何もないシンプルな部屋を目指して“捨て暮らす”様子をつづっている。

 著者は、衝動のままに、たくさんのモノを捨てる。本、電子機器、海外で買った雑貨や拾ったがらくた、まだ履けるけど古くなったタイツ、炊飯器、さらには配偶者……。時に異様に迷ったり、話が横道にそれたりしながらも、とにかく「なにもない部屋」に近づけるために、展示即売会まで開いて、いろいろな物を手放す。

 しかしその一方で著者は、たくさんのモノを捨てられない。12年前の「なにか」の実でできた手作りジャムは捨てずに食べるし、2カ月バスタブに張ったままのお湯もとりあえず追い焚きを試みる。「今はとにかく捨て続けるしかない!」といさぎよく捨てたはずのドレッサーが、次節でも居残っている上に「そんなに一度にできません」と、なぜか読者に向かって開き直っていたりする。

 そんな、作者独自のこだわりに基づいた、約4年にわたる捨て暮らしが描かれた本作。おそらく、ほとんどの読者は、20年以上前の梅を捨てずに食べてみる作者に「それは迷わず捨ててもいいんじゃ……」と言いたくなるし、震災の影響で「トイレットペーパーを使うという生活習慣」を捨てる作者に、「そこを捨てるのか……」とツッコみたくなるだろう。いわゆる一般常識からは外れたこだわりを持つ人の面白さ(と面倒くささ)を味わえると同時に、人によっては「こんなに無茶な断捨離でもアリなんだ」と、笑いながら気楽になれる。

 本作は、「捨て暮らし」を全肯定し、必要最小限のモノでシンプルな暮らしをすることを啓発しているわけではない。むしろ、捨てることですっきりすることもあれば、逆に後悔して鬱になることもある著者は、「今の自分の、捨てまくりたくてたまらん心境の先にあるものが、幸福(当社比)だとは、まるで思えない」と、エッセイ執筆時に大ブームだった“断捨離”にも首をかしげる。しかしそれでも、自分の衝動に従って次々になにかを捨て続ける。そして、時に捨てられない物の思い出や、レコード収集マニアだった故人に思いを馳せる。それらは、捨て暮らしを始めなければ気付くことのなかった感慨、湧くことのなかった愛着のように見える。

 捨てたくないものに気付く、ということは、自分と向き合うことだ。そのこだわりのほとんどは、はたから見れば、不要な執着かもしれない。けれども同時に、その人の面白みにもなり得る。著者が自身のこだわりに生真面目に向き合う様子が、読者をつい笑わせるように、無駄なものはやっぱり無駄なままだが、それがその人の魅力にもなるのだ。

 「捨てまくる」決意を宣言した冒頭から「あとがき」まで全部読めば、捨てることの楽しさと危うさ、両方を味わうことができる『捨てる女』。そこには、長い目で見れば矛盾していても、その時々の感情や衝動に向き合う人が持つ、おおらかな力強さが満ちている。「捨てるのも楽しそう」と思うか、「私は捨てなくてもいいか」と思うかは人それぞれだろう。しかし、このエッセイを読むと「自分の捨てられないもの」を発見すること自体が、なんだか楽しそうに見えてくる。捨てられない人も、捨てることの楽しさは既に知っている人も、一読してほしい一冊だ。
(保田夏子)

捨てなくても自分の面倒臭さを自覚してるわ~

しぃちゃん

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