ドラマレビュー第26回『安堂ロイド』

『安堂ロイド』の最終地点――日本のSFアクションの限界と木村拓哉の評価

2013/12/13 19:00
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『安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~』(TBS系)公式サイトより

 TBSの日曜劇場で放送されている連続ドラマ『安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~』。主演はSMAP・木村拓哉と柴咲コウ。プロデューサーは『ビューティフルライフ』、『GOOD LUCK!!』(ともにTBS系)で木村と組んだ植田博樹だ。
 
 2013年。天才物理科学者・沫嶋黎士(木村)は2113年の未来から派遣されたアンドロイドによって命を奪われる。意気消沈する黎士の恋人・安堂麻陽(柴咲)。そんな彼女の元に黎士と瓜二つのアンドロイド・ARXII-13が現れ、麻陽の命を狙うアンドロイドを倒す。

 当初は黎士の死を受け入れることができずに瓜二つのアンドロイドに反発した麻陽だが、身を挺して麻陽を守るアンドロイドに理解を示すようになり、安堂ロイドと名前をつけて、共同生活を送るようになる。
 
 物語はSFタッチのサスペンスドラマ。ロイドが、次から次に現れる敵・アンドロイドから麻陽を守って戦うというパターンでドラマは進んでいくが、物語の世界観や人間関係は複雑で謎に満ちていて、わかりにくい。その複雑さが魅力となり、マニアックなファンを獲得している一方で、視聴率は10%台と低迷している。テレビドラマの視聴率自体が低下している中、10%という数字は十分合格点とも言えるが、それがキムタクドラマとなると話は別のようで、新聞や雑誌ではキムタク神話の終わりが囁かれ始めている。

 本作には、2つの課題があったと言える。1つは、日本のテレビドラマでSFアクション作品を作り上げることができるのか。もう1つは木村拓哉という扱いが難しいスター俳優をドラマ内で生かすことができるのか。前者の課題に対しては、残念ながら力が及ばかなったといえる。

 『安堂ロイド』には、『SP警視庁警備部警護課第四係』(フジテレビ系)の波多野貴文が、チーフ演出として参加し、映画版『踊る大捜査線』などを手がけている制作会社・ROBOTが制作協力に名を連ねている。そのため、真正面からSFアクションを描くのではないかと期待もあった。

 しかし第1話のアクションは悪い意味で漫画的で、殴られたロイドが空の彼方に吹っ飛んでいく場面には、思わず失笑してしまった。漫画やアニメで成立していたリアリティをそのまま実写に落とし込んだ際、説得力を獲得できるのかということに対して、あまりにも無防備だったと言える。

 もっとも、これはまだ可愛げのある欠点だ。ARXII-13の「虐殺器官」や、敵のアンドロイドを「バルス」とつけるネーミングセンスのダサさもギリギリ我慢できる。実は一番ひどいのは脚本で、混乱した状況を描いた第1話はともかく、第2話以降の麻陽の行動や感情の流れがあまりにデタラメで見ていられなかった。

 本来なら、正体を隠して暮らすロイドと、命が狙われている麻陽の立場は、サスペンスを作りやすい設定だ。しかし、麻陽を強い女として描こうとするあまりに、初期設定をうまく作れなかったように見える。特に第2話で、麻陽が沫嶋黎士の妹・七瀬(大島優子)にロイドの正体を話してしまう場面はあまりに早急で、感情の流れがつながっていないように感じた。

 脚本家は『ケイゾク』や『SPEC』(ともにTBS系)の西荻弓絵。こういったサスペンスは本来得意のはずなのだが、世界観の複雑さを処理できなかったのか、この第2話で大きく躓いてしまったと言える。第3話以降は泉澤陽子が脚本に参加し、『ATARU』(同)の木村ひさしが演出に加わることで、バラエティ・テイストに演出が仕切り直され、なんとか持ち直した。違和感のあったアクションシーンもじわじわと改善され、最終話を前にしてドラマは盛り上がりつつあるが、結果的に日本でSFアクションを行うことの困難さの方が際立ってしまったように思う。

 一方、「木村拓哉」の起用方法については、近年では最もうまくいっている。90年代には、ナチュラルな演技やヒール(悪役)も演じられる幅の広さが高い評価を受けていた木村だが、『HERO』(フジテレビ系)以降は検事や総理大臣といったスーパーヒーローばかりを演じるようになり、どんどん幅を狭くしていった。中には、あえて悪役のワンマン社長を演じた『月の恋人~Moon Lovers~』や、ホームレスを演じた『PRICELESS~あるわけねぇだろ、んなもん!~』(ともにフジテレビ系)などの新境地を目指した作品もあったが、どちらも中途半端な作品に終わっている。

 そんな中、『安堂ロイド』は木村に「俺は、破壊されるのが前提の消耗品だ」と言わせることで、アイドルとしての木村について自己言及させることに成功している。作中では、ロイドがアンドロイドと戦う中で、体がボロボロに傷つき、腕がちぎれる描写もある。それはまるで、自分をがんじがらめにしている「キムタク」というキャラクターを木村自身が破壊しているかのようだ。本作を通過することで、木村はやっとスターの呪縛から解放されて、役者として再起動できるのかもしれない。
(成馬零一)

最終更新:2013/12/13 19:00
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