[官能小説レビュー]

愛のないセックスこそ快感? 『リコちゃんの暴走』が暴く、痛い女の自己愛

2013/10/07 19:00

 他人から見れば、何の障害もない幸せな交際。しかしリコはナツヒコのマンションにデリヘルを呼び、2人の様子をクローゼットの中から盗み見るという行動に出る。

 互いに思いを寄せ合い、寄り添い合って生きるという恋人同士の関係性に満足できないリコを、読者はどう捉えるのだろうか? 何の問題もないまっさらな関係性よりも、黒を一滴落としたような“生臭さ”に快感を得る――そういった意味で、私はリコの気持ちに共感した。けれどリコが異様なまでに“痛み”を求めれば求めるほど、「それは裏を返せば利己的な欲望でしかない」という事実を突きつけられた。自分の快感ばかりに追い求めていると、次第に周りが見えなくなる。ともすると、他人だけでなく、自分を見失うことにもつながってしまう。

 悲劇のヒロインも、確かに気持ちいいかもしれない。しかし、自分1人の物語の中でヒロインを演じることの危険性、そして平凡だけれど、パートナーと紡ぐ物語の方が遥かに幸せだと、『リコちゃんの暴走』は教えてくれた。
(いしいのりえ)

最終更新:2013/10/07 19:00
『人肌ショコラリキュール (講談社文庫)』
これぞまさに痛々しいラブ
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