「自撮り女座談会」(後編)

“武装”のために自撮り写真をFacebookにアップ、「顔」にこだわる女に潜む恐怖心

2013/10/06 19:00
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「上から撮るとまだマシですけど、いつもこの顔じゃないんでね」

 自分で自分の写真を撮る「自撮り」を延々としてしまう女性たち。自意識過剰と思われる半面、他者への恐怖や怒りも心の中に潜んでいた。

(前編はこちら)

■親から容姿についてずっと批判されてきた

――藤井さんが、自分の顔に執着するようになったきっかけに、思い当たることはありますか。

藤井えり子さん(以下、藤井) 私は両親の影響が強いと思います。特に母親には、小さい頃からものすごく厳しく育てられました。「勉強も水泳もピアノも全部できるようにならなきゃダメ」「○○高校より偏差値の高い高校に合格しなきゃ、あなたの人生は終わったも同然」といったことを言われ続けてきたんです。容姿に関しても、「冗談みたいな顔をしてる」とずっと批判されてきて、年頃で少し太ったりニキビができたりしたら「かわいそう、かわいそう」と嘆かれて。

 もちろん今は母の脅しなんて信じてもいませんが、やっぱりどこかで、「この世の中では、絶対に失敗できない」と思い込んでしまう性格なのは確かですね。私が容姿にこだわるのは、きっと「武装」なんだと思います。他人から悪い感情を持たれたくないという思いが強いんです。他人が最初に見るところは、顔ですよね。だからいつも自分が納得できる顔でありたい。私の右の頬は、左よりもすごく出っ張ってるので、この顔を見て他人にどう思われるかを想像すると、本当に怖い。

菅谷麻衣(以下、菅谷) 私の親は真逆。「勉強は好きなようにしなさい」という放任タイプで、容姿に関しても何も言われなかったし、親自身も身なりに気を遣っているようには見えませんでした。おしゃれな子どもって、親がおしゃれで一緒に買い物に行ったりするじゃないですか。私は親と洋服を買いに行った記憶がないんですよ。多分どこかのスーパーで買ってきたものを着ていたんでしょうね。中2まで容姿に無関心で「おしゃれをしよう」とも思いませんでした。

早見ゆかり(以下、早見) うちの母は美人ではないけど、華奢で髪もくるっとした栗毛でかわいらしいタイプ。センスもよくて、私に手作りの可愛いワンピースを着せたり、髪を編み込みにしたりしていました。15歳くらいからは化粧水を買い与えたり、ファッション誌を見せたりしてくれました。でも、私の髪は真っ黒でストレートで、父に似てドンとした体型で、服装と自分が釣り合わなくて凹んでましたね。母がいつも可愛いものを持たせてくれたせいで、いじめられたり……。そういうこともあったから、藤井さんの言う「武装」って、ちょっとわかりますよ。私の場合は、自分の可愛い自撮り写真をFacebookにアップすることで、「私はこういう人間だから」と他人に押し付けて、自分を武装しているのかな……と。

 一方で、父親はおしゃれに興味なし、一緒に住んでる祖父母も厳格で、眉毛を整えているだけで怒るし、リップもだめ。だから、藤井さんと菅谷さん、どちらの価値観もわかるな。

藤井 うちの母親は私の容姿を批判して、「きれいでありなさい」と言い続けてきたくせに、化粧については否定的なんですよ。女の部分は出しちゃいけないというか。化粧水なんて、大学時代の彼氏に「化粧水、使わないの?」と言われて初めて買いに行ったくらい。いつも疲れた顔を自撮りするのも、しっかりメイクしなくても、自然のままで美しい人が私にとって一番価値があると考えているからだと思います。

■女の子はみんな自撮りをしているはず

――自撮りをしている自分は、変わっていると思いますか。

菅谷 いや、女の子はみんなしてると思いますよ。特に、容姿を気にする思春期の頃に、カメラ付き携帯電話やデジカメといった、手軽に自撮りができるアイテムを手にしてしまった今の20~30代は、みんなしているかなぁと。最近は、ませた小学生も自分のカメラ付き携帯を持ってるから、撮ってるんじゃないですかね? 自撮りをしていると言わないのは、かっこつけてるだけだと思う。

早見 私も、自分の容姿を気にしている子は、みんなやってると思う。当たり前じゃーん、心の底ではみんな自分が好きで、「きれい」と思ってもらいたいもん。ただ、私の友達に、生まれつきの圧倒的な美人がいるんですけど、彼女は「自撮りなんかしたことがない」と言っていました。最初から見た目のカーストがてっぺんという子は、実は案外自分の容姿を気にしてないから、自撮りもしないんでしょう。てっぺんにはいけない子が、自撮りをしていると思います。

藤井 私も「みんな」とは言わないけど、おしゃれに気をかけてる人は、まぁ80%くらいの子は撮ってると思う。でも、中には心から「自分の顔に興味がない」という女性もいてうらやましい。彼氏がテレビを見ながら「椿鬼奴って可愛いよな」って言った時は泣きましたね……。容姿を全然気にしてなさそうな子に「可愛い」って言うんだ、私はこんなに気にしてるのに? って。

早見 私は努力しない子は嫌い。容姿以外に興味があるのならいいけど、ただだらしないだけの子は嫌。「きれい」と言われたくて、顔の角度を研究している子の方がいいと思いますよ。

菅谷 そうですね。早見さんは頑張ってきれいになれた。私も藤井さんも「頑張れば可愛くなれる」と信じて自撮りするんですよね。画像を見ると落ち込むことが多いけど、たまに「今日の自分はイケてる」と思える表情が撮れた時は快感。

藤井 自撮りは麻薬のようなものかもしれないですね。

――最初からずっと思っていたんですが、みなさんいわゆる「美人」ですよね? それを認めているのは早見さんだけですが。

藤井 他人から褒められても、「私の右の頬はこんなに膨らんで醜いのに気づいてないだけでしょ」と思うんですよね。「可愛い」と言ってもらいたいのに、実際に言われると拒否してしまうんですよ。彼氏がいても、そういう思いは変わりません。左右対称の顔になりたい。

菅谷 私も褒められるとバカにされてる気分になりますね。みんな平気で嘘を言うじゃないですか。あきらかに私より可愛い子が「可愛いね」と言ってきたり。どう考えてもおかしい。

早見 菅谷さんの中には、確固たる順位があるんだね。

藤井 でも、私は本当は、できればこのカルマから抜け出したいと思ってるんですよ。いつも自分で自分を「こうであれ」と脅迫しながら生きてる感じがして苦しい。自分の顔を受け入れられたらいいんですが、今はまだその方法がわかりません。これから、わかるようになるといいなぁと思います。
(構成=安楽由紀子)

最終更新:2013/10/06 19:00
『身体醜形障害 なぜ美醜にとらわれてしまうのか(こころライブラリー)』
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