『こんなわたしで、ごめんなさい』レビュー

コンプレックス織り込み済みの処世術と年齢によるズレ=痛い女を吹き飛ばせ!

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『こんなわたしで、ごめんなさい』(平安寿子、実業之日本社)

 結婚や子育てが女にとって唯一のゴールではないことは、ほとんどの人が知っている。知っているから、迷う。まず結婚したいかしたくないのか、結婚すれば、この相手でいいのか、結婚しただけで安心していいのか、子どもを産むのか、産まないならなぜ産まないのか、社会人としての成功は望まなくていいのか、家族の介護はどうするのか……その選択肢は無数にある。

 『こんなわたしで、ごめんなさい』(平安寿子、実業之日本社)は、自分の進む道に惑いつつ、普通に働いて普通に生きる7人の女たちの人生観が、ふとしたきっかけで変わる瞬間が収められた短編集だ。

 美人なのに気が弱い親友を持つ渥美清似の30代女(「じれったい美女」)、Fカップの巨乳がコンプレックスの20代女(「どうか小さな幸せを」)、もともと明るくて人気者だったのに、最近周囲から浮きつつある40代女(「こんなわたしで、ごめんなさい」)――。登場する女性たちは悩んでいるが、どれも「特別な不幸」と呼べるほどのものではない。多かれ少なかれ、誰もが抱えているような欠点やコンプレックスだ。

 そして既に、若いうちにコンプレックス込みの自分の処世術を培ってきている。人見知りの激しい美人・睦美は、自分を目立たせないように長い髪で顔を隠すように生き、渥美清似と自認するその親友・洋子は周りから好感度の高い明るい性格を保っている。巨乳の東子は、多少太って見えても胸を目立たせないぶかぶかの上着を着続けることで、男の視線から逃れる。そうやってそれぞれ、自分のコンプレックスが目立たないような振る舞い方に慣れ、「こうしていれば、自分は生きやすい」という型に自分を収めることに慣れ切っていた。

 そんな主人公たちがぶつかっているのは、若い頃から身につけてきた“生き方の癖”のようなものが、20代、30代と年を重ねるごとに、徐々に通用しなくなってきた時の戸惑いだ。いつまでも10代のメークや服で過ごすわけにはいかないように、これまで慣れてきた生き方が、年を取って環境が変わるにつれて、通用しなくなる。いつか、周りから見れば“痛い女”“かわいそうな女”などと思われる時がやってくる。

 恋愛や結婚も加わり、今までの自分の価値観を捨てて、新しい“生き方の癖”を覚えなければいけない。そんな、気負って真正面から取り組みそうなシチュエーションで、本作の登場人物たちは皆、気軽にするりと抜けるように価値観を変えるきっかけをつかんでしまう。そのきっかけは、自分とは違う道を選んだ女たちとの関わりだ。

 「カワイイ・イズ・グレート!」の主人公は、常識的な主婦として生きてきたのに、「罰ゲームで無理やり女装させられた芸人」みたいな、フリルのファッションに身を包む道子(50代)を義妹に持つ梢。それまで道子を忌み嫌って生きてきたのに、娘からは「道子の方が尊敬できる」と言われ、重なるように起こった突然の母の介護に動揺し、今までの価値観が激しくぐらつく。シリアスに人生の困難に立ち向かうような場面で、梢ははたから見れば滑稽にも見える方法で、笑いながら新たな世界を広げてしまう。その軽やかな流れは、深刻になりがちな私たちをも一緒に笑うように、たくましくてすがすがしい。

 生きる選択肢は無数にあって、周りを見渡せば、自分と違う生き方を選んで幸福そうな女がいる。自分と似た道を選んだ、不幸のサンプルもたくさんある。真面目に人生を考える人ほど、あらゆることに備えて、欠点や弱点は埋めておかないと、将来失敗して悲惨なことになったり、周りについていけない痛い女になって後悔するんじゃないか、という強迫観念のような不安が付きまとう。

 けれども、幸せな結婚や出産がゴールにならないのと同じように、“不幸”や“痛い女”もまた、ゴールではない。むしろ本作では、自分の痛さや弱さを自覚したその先に、次の世界の扉が待っている、そんな局面が幾つも描かれている。

 コンプレックスの克服も、将来の不安を解消するための保険も大切だ。でも、今見える幸せを犠牲にしてでも、安全な方へ保険をかけて、本当に幸せが待っているのかは誰にもわからない。そこそこ真面目に生きていれば、一見きつい困難も、意外と簡単にすり抜けるように突破できたりもする。完璧な道を探して動けなくなるよりは、相いれない他人と関わってみたり、一回失敗してみることで新たな世界を開く方が、早いかもしれない。『こんなわたしで、ごめんなさい』で紡がれた物語は、大事な局面で間違いたくないとガチガチに固まってしまう私たちの狭い視界を、笑い飛ばすようにおおらかに開いてくれるのだ。
(保田夏子)

自虐じゃない展開で、読後感がスッキリ!!

しぃちゃん

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